第7話 幼女アラサーは提案する



「もしくは慣例を曲げて、僕の婚約を10歳くらいまで伸ばすようにと」


 王子、王女の婚約はなぜか、(おそらく守護精霊を持つことと関係あるんだろうけど)7歳と決まっている。


(10歳ってことは、年の差10まで許容範囲ってことかな)


 ゲームは学園が舞台だったから、歳の差のあるキャラは出て来なかったけど……公爵家に令嬢がいたかどうかって、何か話のついでに出てきた気もしてきた。


(うー、ネタバレだけ読まないで、全ルートやっとけば良かった) 


 とりあえずゲームではシャーロットが婚約者だったから、公爵家に令嬢が生まれていても、婚約者変更はなかった訳で……


「父は要求を退けたんだけど、公爵家のしゅうね…しゅうちゃく?を考えて、うかつに動かせない契約を結んだんだって」


 あー、そういうことか。


 ……ううーん。シャーロットのお父さん、娘が顔に傷を付けたって聞いて、ものすごく焦っただろうな。

 精霊契約にどんな条件があったかは知らないけど、精霊は怒らせると怖い半面、慈悲は深いはずだ。

 おそらく『顔に傷がついたから』が理由の、婚約破棄はできないだろう。


(そうなると、むしろ傷がついたまま、婚約を続ける方が怖いわ)


 公爵連中から何言われるか、わかったもんじゃない。

 (少し)悪かったわ、お父様。

 でもそう考えると一つ疑問が…


「殿下、精霊契約をしたということは、私の守護精霊のことも…」

「たぶん知らないと思うよ」


 僕も聞いてないしね、王子はそう言って、形の良いあごに手をあてて、首をかしげた。


「あくまで契約は、父上…国王陛下とウイザーズ侯爵の間のもので、この場合大事なのは、君の守護精霊じゃなく、君が侯爵の娘だってことだけじゃないかな」


 なるほど。あくまで対象は王様と侯爵なんだ。

 王様は長男を、侯爵は次女を、それぞれの婚約者とすること、を『契約』としたんだ。


「殿下と私でなく、陛下とお父様との契約なんですね」

「そうだと思う」


 ……なら、一つ試したいことがある。


「……殿下、質問をおゆるしください。殿下の守護精霊は『火』でしたね?」

「あぁ。父上と同じだ」


 守護精霊は遺伝するものではないが、王家に『火』は多い。


「では、殿下は、守護精霊とお話しすることはありますか?」


 結構きわどい質問だと思ったけど、王子様は鷹揚にうなずいた。


「うん、守護精霊が判明してから、たまに話してくれるよ」


 精霊と話せるのは、力が強い証拠。隠すことじゃないか。

 王子の年齢なら自慢にもなるし。

 だけどね…


「私もです」


『悪役令嬢シャーロット』も普通じゃないんだよ。


(何せ魔獣とか召喚してたもんね~)


 王子がいぶかしげにこちらを見た。

 今まで、シャーロットの精霊力が、特に強いとは聞かされてなかったんだから、そんなもんだろう。


「あ、そうか……君の本来の守護の」

「はい。『土』でしたら、おそらく王子の10分の1にも満たないでしょうが、『闇』のエレメントでしたら……」


 ウイザーズ侯爵家の魔法使いは、成長すれば『お父様お母様と並ぶ』だろうと言っていた。

 シャーロットは有頂天になったけど、すぐ父親にくぎを刺された。


『間違えてはいけないよ、シャーロット。お前の守護精霊は「闇」でなく「土」だよ』

『でも、お父様』

『「闇」では王子様と結婚できないかもしれないよ?』

『それはイヤ!』

『かわいいシャーロット、大丈夫だよ。王子の婚約者はお前だよ』

『はい。お父様』


 いい子だ、と笑って侯爵は後ろに控えた魔法使いに視線を向けた。


『君も、分かっているね?』

『はい、閣下。シャーロットお嬢様の守護精霊は「土」です』

『それでいい。……シャーロットのためだ』


 ゲームの時は「闇=悪」みたいになってたんで、全く考えなかったけど、この世界の『闇』の属性って、そこまでして隠したいものかな?

 王子の反応を見てると、それほど忌避感はないように感じる。

 まぁ、花嫁道具には不似合いかも知れないけど……


(資料が少ないのよね)


 屋敷の書庫にも、それらしき本は入ってなかった。

 魔法使いなら知っていると思うけど、教えてくれるだろうか……うーん。


「シャーロット?」


 気にはなるけど、今は何より、王子の婚約者を外れることが第一だ。


「失礼いたしました。殿下、もしよろしかったらですが…」


 少し緊張してきた。

 予定外のせいか、『婚約やめない?』って言った時より、どきどきしてきた。


「私と殿下とで…『精霊契約』を結びませんか?」



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