第6話 幼女アラサーは混乱する



 この国の名前は「フィアリーア」。

 国内外で一般には「精霊王国フィアリーア」と呼ばれている。

 初代の国王は、精霊王だったと伝えられており、そのおかげか、国中に精霊力が満ちているためだ。


 普通の『精霊』には姿がない。

 だから『守護精霊』と云っても、自分の属性のエレメントを、『暖かい』とか『ひんやりとした』とか、感じ取れるくらいだ。


 7歳になると、貴族の場合は、家長立ち会いのもと、お抱えの魔法使いが、子供の守護精霊を判断する。

『お抱え』というのはその家と契約した魔法使いで、よっぽどのことがない限り(己の命や国家の存亡)家長の命令は絶対だ。

 だから、ウイザーズ侯爵家の魔法使いは、シャーロットの属性が『闇』だともちろん知っているが、侯爵が


『シャーロットの守護精霊は「土」だな?』と言えば、

『シャーロットお嬢様の守護精霊は「土」でございます』なのだ。


(まさか侯爵令嬢の守護精霊を偽ることが、本当に国家の危機につながるとは、思わないよねー)


 平民の『守護精霊』判断は、各季節ごとに一回。

 町長や村長が、その頃に生まれた子らを集め、魔法使いを呼び判断することになっているが、実情は結構アバウトで、親が判断することの方が多いらしい。


『お前が植えた苗がよく育ったから、お前の守護精霊様は「土」だね』

『お前が願ったら雨が降ったから、お前は「水」の守護精霊持ちだね』


 ……なんてもんらしい。

『光』の守護精霊なんて判断どころか、その存在の認識さえ平民の間では曖昧なので、よっぽどのことがない限り認定されることはない。

 だからヒロインは…(以下略)



 だけど精霊王を頂点とした、上位の精霊には姿がある。

 人と精霊、お互いの力が強く、相性が良ければ、意思の疎通も可能だ。


 一般に王侯貴族は精霊力が強く、上位精霊と契約を交わしている人間もいる。

 王様の場合、それは必須で、即位する際、守護精霊を隣に寄り添わせるのが慣例だ。


(だから王様が、上位の精霊と契約を交わせるのは納得がいくのだけど…だけどぉーーー!)


「な、なぜ、私と殿下の婚約が……精霊契約なんて、そんなおそれおおいことに……」


 王子が、少しほっとした顔になった。


「シャーロットも、精霊契約を知っているんだね」

「き、聞いたことはございます」


 ゲーム内で、ですが。


「国と国とのお約束ごとや、王の婚儀のさいにも行われると」


 それをなんで?

 云っちゃ悪いが、第一王子とはいえ、まだ王太子認定もされていない、7歳の王子の婚約に使うのーーー?

 だってさー、精霊との契約はさー…


「うん。精霊契約は絶対だ。破れば契約者に、大いなる不幸が訪れるとされている」


 さらっと言うなーーー!!!

 この場合の契約者、シャーロットパパは一介の侯爵だけど、お前のパパは王様だろーがー!

 大いなる不幸が訪れたら国が滅ぶだろーがー!!!


(こんな設定聞いてない!)


 いや、こんな設定があったからこそ、婚約を破棄するのにシャーロットを徹底的に悪役にする必要があったのか……?


(『こんなひどい女なら契約破棄もやむを得ない』って、精霊を納得させるために!?)


「聞かされた時には僕も驚いたよ。でもきちんと理由はあるんだ」


 こちらのショックをなだめるように、王子は優しく言い聞かせるような口調になった。

 言葉づかいも、いつの間にかくだけた感じになっている。


(『わたし』はよそゆきで、普段は『僕』なのね)


「四大公爵家の方から、自分たちの家に姫が生まれたら、すみやかに君との婚約を解消するように申し出があったんだ」


 うわ、エグい!さすが元王族集団!

 これは、もう完全にシャーロット、社交界でいびられてたなー


 


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