第5話 幼女アラサーは驚愕する


 王子の目が、大きく開かれた。

 私は、ここぞとばかりに言葉をつないだ。


「守護精霊をいつわるなんて、よくないことですが、お父様が、少しでも私を殿下にふさわしくしたかったのだと思うと……」


 守護精霊を偽ることに対する罪はない――らしい。

 この辺りは見舞いに来た父親に訊いた。


『……お父様、守護精霊をいつわるのは、私、やはり、怖いんですの』


 もしかすれば、婚約諦めてくれるかも?なんて夢も少し見た。

 だが侯爵様は、目を心持ち開いてから、にこりと優雅に微笑んだ。


『あぁ、かわいいシャーロット。君が気に病むことは何もないんだよ? なぜなら、守護精霊を隠したり、偽ったりすることに対して、罪は制定されてないからね』


 それというのも、普通、守護精霊は偽れることじゃないからだ。

 たとえ農民のように、普段の生活で使わないとしても、貴族であれば学園へ行くのは義務である。

 入学時には簡単な選考もあり、嫌でも己の属性を披露しなければならなくなる。


 水も土も炎も、加護=操れる精霊力エレメント、が限られており、二つの属性は持てない。

 ただし、光と闇は別だ。


「『光』が闇以外のすべてのエレメントを動かせるように、『闇』も光以外のすべてのエレメントを、少しだけ動かせるのです」 


 だから、シャーロットが『土』の守護精霊持ちだというのも、間違いではないのだ。

『光』の守護持ちのヒロインが、平民の中に隠れてたのもこの設定によっている。


「ですが、私には、かくしごとをしたまま殿下の婚約者は名乗れません……」


 今回婚約が取りやめになっても、まだ7歳、まだ発表前。

 王様の心証が悪くなっても、やり手で強引な侯爵に、ちょっと、数年?、苦汁をなめてもらうだけだ。


(シャーロットパパ、すみません。でもこのまま進めば、もっと恐ろしいことが起こるんです)


 シャーロットが破滅すれば、攻略相手によっては実家も破滅だ。

 侯爵はよくて謹慎、降格。下手すれば爵位はく奪、一家離散も夢じゃない。


(ただ、それを抜きにしても、本来の守護を隠したまま、婚約者に納まるのは悪手だと思うのよね……)


 操れると言っても、『土』によるエレメントは、本来の『闇』のエレメントの10分の1以下だ。

 ゲームでも、『王子の婚約者としては精霊力が低い』と、シャーロットが他の令嬢たちから、こそこそ陰口をたたかれているシーンがある。


 ゲームやってた頃は、「悪役令嬢でも妬まれるんだな」くらいにしか思ってなかったエピソードだが、今なら別の観方が出来る。


 子供が云ってるなら、親も云ってるだろう。

 王子の婚約者として、社交の場に出るたびに、こそこそ言われていたのかも。


 ――自分シャーロットの精霊力は誰よりも強いのに。


 これは確実にストレスたまる。

 実の所、闇の力を全開にする時のための、伏線になってた。


『私を見くびっていた者どもよ、今こそ知るがいい。真の力を!』


 闇をバックに青銀の稲妻をまとったシャーロットが、高らかに叫ぶ。

 悪役令嬢の真骨頂だ……ディスってたモブ令嬢方は、物理的に消滅した。

 あれは怖かった。


 そんな暴走シャーロットも、最後は『光の聖女』の力を宿した剣に、一刀両断にされるんだけど……


(あぁ、この王子様もルートによっては、シャーロットにあの剣をふるってたな)


 剣で切られ、虚ろな目をしたシャーロットのスチルを思い出す。


(『聖女の剣』で切れるのは闇のエレメントだけだから、シャーロットの命は助かったんだけど、恋敵の作った剣で愛する人に斬られるのは……哀しいなぁ)


「シャーロット……かわいそうに。つらかったんだね」


 ゲームの悪役令嬢の扱いが身につまされて、暗い顔をしていたシャーロットに、王子が心配そうに声をかけてきた。

 罪の重さに耐えかねていると思われたかな。

 これなら行けそう? と両手をぎゅっと握ったところで、困ったような声が聞こえてきた。


「だけど、この婚約はもう動かせないんだ」


 え?


「王と侯爵、二人の間で精霊契約が結ばれているんだ」


 なんですってーーーー!?



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