第4話 幼女アラサーは暴露する



「え…」

「おそれおおいことですが…」


 絶句した王子に、できるだけ申し訳なさそうに告げて、目を伏せた。


「待ってください、シャーロット。なぜそのようなことを。お父上、ウイザーズ侯爵はご存じなのですか?」

「お父様に言っても、おそらくとりあえってもらえません」


 笑って、『お前が心配することは何もないのだよ、かわいいシャーロット』くらいが関の山だろう。


 一週間過ごした感じでは、シャーロットの家族関係は、思っていたより良好だ。

 おっとりした優しい母親と、少し傲慢だけど、それなりに妹をかわいがっている姉。

 父親は忙しそうだが、ディナーには出てきて、皆の話を聞いている。


 シャーロットのケガについては、部屋まで見舞いに来て

『もうお前には大切な方がいるのだから、おテンバは慎まないとダメだよ?』

 と、冗談めかして言っていた。


(口調は明るかったけど、目は笑ってなかった……ははは、怖っ)


 分かりますよ。

 今の時点で、後に残るくらいの傷を顔につけたら、簡単に王子の婚約者を外されますよね。

 それ以外にも、問題があるし。


 血筋は(あまり)問題ないらしい。

 ウイザーズ侯爵家ウチの場合、

 お父様は三代前に王子の血が入ってるし、お母様は公爵家の出で、祖母が王女様だ。

 もちろん国の筆頭である、公爵家(四つある)には家格で劣るけど、どの公爵家にも現在、王子に釣り合う年頃の令嬢がいない(お姉様談)。


 だけど、血筋以外の問題がシャーロットわたしにはある。


「では、私も聞かなかったことにしましょう」


 また微笑みを浮かべ、態勢を立て直そうとする王子に、私は右手を口元に当て、こそりっと告げた。

 大きな声を出さない限り、ドア近くまで話の内容は聞こえないはずだが、それらしい効果を考えた。


「……いつわっているのです。お父様は陛下に」


 陛下とは、王子のお父様で、当然この国の王様だ。

 さすがに聞き流すことはできないだろう。

 王子は心持ち眉をひそめた。


「いつわりとは……おだやかでないですね」

「はい……私の守護精霊のことなのです」


 この国の人間には、7歳で守護精霊が付く。例外はない。

 土・水・炎・風・光・闇、のいずれかの精霊で、農民が多いせいか地と水が多い。

 光と闇は、レア中のレアでめったに現れない。


 ヒロインのキャロルは『光の精霊』の守護持ちだ。

 そして侯爵令嬢のシャーロットは…


「お父様は、私の守護精霊を『土』とお伝えしたと思います」

「はい」

「ですが、本当の私の精霊様は『闇』なのです」


 これは、ゲームの伏線に使われた設定だ。


 あまり聞こえの良くない、守護精霊を偽ったシャーロットは、それだけでも断罪理由になる。

 だけど大抵、隠された『闇の力』でこそこそヒロインを襲ったり、堂々と魔力を暴走させたりして返り討ちに会うのだ。


 ラストの激しい戦闘シーンなんかは、派手な光の洪水で、毎度たいそう盛り上がった。


『おぉ破滅の花火上がりました!キレイー!』


 なーんて。

 ははは……まさか、自分が上げる方になるなんてねー。

 人生分からないわー。

 泣けるわー。


 ふう。




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