第6話
6月。
大雨だった。
降り止まない雨の音を聞きながら料理をする未菜を勇人は待っていた。
天気はとても悪いが、2人の心は晴れやかだった。
「雨止まないね。」
勇人に聞こえるように未菜が言った。
「そうだね。でも…」
言いかけた言葉は突然の大きな音でかき消された。
勇人はとても嫌な予感がしていた。
なのに震えもしないし、異常なほど自分が冷静だった。
台所には大きな岩と砂と赤い液体が拡がっていた。
そこから予想されることはとても明確で。
大きな声で愛する人の名前を呼びながら彼女の服が見えるところを掘っていた。
少したって理解したのは、大岩の下にいること、辛うじて見える手は全く動いてないことだった。
ここから電話したとしても救助になんか来て貰えないし、助からないことも瞬時に理解していた。
ただただ誰もいないところに未菜を連れてきた自分を呪った。そんなことをさせた全ての人を呪った。
雷がなった。未菜が大嫌いな雷が。
雨の影響で家の裏山が土砂崩れを引き起こした。
たまたま、大きな岩がその裏山の上にあって。
それが落ちてきた場所がたまたま未菜がいた場所だった。
ただ、不運なだけだった。
2人で作った食器も、机も全部が土で汚れ、塗り直した壁と床は真っ赤に染まっていた。
いくら機械とはいえども大きな岩をどかすだけの力はない。事実を受け止めても涙は流れないし、体も震え無い。叫んでも声が枯れることはない。
辛うじて見える未菜の手を握っても微かな温度さえ感じることは出来なかった。
何も出来ない無力な自分が本当に、本当に許せなかった。
「ああ……」
自分のせいで大事な人を巻き込んだ。
後悔と自責の念が勇人をおいつめた。
その場所で未菜の手を握りずっと座っていた。
君だけがいればいい 紅音 @akimaar
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