第5話

夕暮れ時。赤く染る風景。

影だけを見れば仲の良い恋人が家に向かっているところだった。


数日後。


「引越しちゃおうか。」

鳴り止まないインターフォンを見ながら未菜はいった。


誰かが勇人のことを知ったのだろうか。ある日を境に勇人達の家が度胸試しに使われることになった。


注意をしても面白がり。苦情を言ってもバーコードをチラチラ見ながら表面上の謝罪をされる。


未菜も勇人もうんざりしていた。


未菜は笑顔を保とうとしているが、勇人には未菜が限界なのが分かっていた。


「どこが引っ越そう。誰も知らない山奥で。」


勇人は未菜に語り掛けた。

人口減少が進んでおり人がいない集落は沢山あったし、家もタダ同然で売っていた。


だけど勇人は未菜には不自由な生活を送らせたくなかった。

「本当にいいの?」

勇人は未菜に言った。

「未菜だけならこんな思いをせずに暮らせるのに。俺なんかほっといていいんだよ。」


パチッ。


勇人は少し頬に衝撃を感じた。未菜に殴られたというのを少したって理解した。


「ばか。ばか。ばか。私がどんな思いで勇人を待ってたかもわかんないくせに。置いてかないでよ。ひとりにしないで。」


泣きじゃくる未菜を勇人は抱きしめた。頬を叩いた未菜の手の方が痛いのも分かっていた。

もう後悔はしなかった。


不必要なものを処分して、逃げるように家を出た。


誰も住んでいない集落と呼べるところの家を2人でリフォームして住むことにした。

月に1回買い物に行って、あとは自給自足の生活。最初は苦戦していたが慣れると簡単だった。


小川で遊んだり、育てた野菜を食べたり。

ある日未菜が子猫をみつけ2人でお世話をすることにした。


鈴と名付けられたその子はとても可愛くて。2人の大事な家族になった。


未菜と勇人と鈴で散歩するのが3人の日課で未菜の顔には心からの笑顔が戻った。


6月。

雨が降った。

一日中ずっと降り止まない雨は降水量の新記録を更新し続けた。

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