舞姫伝説

大人っぽいと言われれば幼く見えているんだと悩み、乙女心だねと感想を言われれば馬鹿にされたと憤る。顔には出せないけど、放送中はずっと胃がキリキリしている。

向いていないのかもしれないと親友だと思っていた由芽に打ち明けたら、自慢されたって由芽が怒ってたよと大っ嫌いな沙良から聞かされた。

心配性なのよとママは言う、好きなように生きなさいと子供の頃からパパは言った。

過去を掘られても爪跡が発見されないように慎重に毎日を過ごしてアナウンサーになったけど、私が常識だと思っていた事をしゃべると初耳だって笑われたり、平均的一般家庭で育ったと思っていたけど、幸せ家族チェックで満点の理想的家族だって答えが出たり、世間とのズレに戸惑うばかり。まったく意識していなかった男子から告白される毎日が続くようで、アナウンサーって精神疲労がハンパない。

桜満開中継で倉敷のアナウンサーにスタジオから呼び掛けたら、団子を持っていた。

どのタイミングで花より団子と言い出すだろうとぼーっと見ていたら、突然。

「小森さんは桜よりこっち派でしょうね」

「ごめんなさい辛党なんです。岡山って桜もいいけど桃も素敵ですよね」

「いやーやっぱり花より団子ですよね」

段取り通りに進行された。

「小森ちょっと」

番組プロデューサーの佐々野さんが小森で呼ぶときは凶、亜麻ちゃんって呼ぶときは吉。顔が険しかった。

「お疲れさまでした。なんですか」

本当は、なんですか文句はって訊き返したかったけど、説教が長くなるだけだから止めておいた。

「あのさ、はいって言えばいいだけだろ、ローカルは段取りが命なんだよ、分かってやれよそれぐらい」

「そう言われても打ち合わせの段階で中継は倉敷の桜並木からだって事しか伝えられませんでした。だけどあんなベタな定番でいいんですか」

「あの流れは決まってんだろう。慣れてない連中を余計な事で混乱させるなよ、定番でいいんだよ。それが朝の番組なんだよ、岡山の連中泣いてたぞ」

「すみません」

「もういいよ、生は終われば終わりなんだから」

そりゃないだろう佐々野さんよ。

そもそも先週の水曜に何を言ったのかもう忘れてんだろ。いまさら言い返して始まらないけど、先週はこう言った。

もう少しアドリブを利かせないと中継が予定調和に見えて数字が逃げていくって言ってたよな、朝だから規則正しいスタートじゃなくたっていいって似合わない笑顔まで作っていい人ぶって言ったよな。きょうは岡山の局は逃げたかもしれないけど、首都圏の視聴率ど真ん中の素人は掴んだはずだ。それも分からんのかバカPが。視聴者はみんな目覚めて最初に見る番組だって思ってるようだけど、夜通し働いて寝る前に見る人や、寝たきりの人や、仕事をしながらの人だっていろいろいるんだ。何を期待して何を見たいのかだって人それぞれだ。おまえのようなプロデューサーが気分次第の分析をするから、番組方針が迷走して視聴率だって伸びないんだ、分かってるのか。

「なんだよ」

「えっ、別に」

「反抗的な顔だな」

そこは分かるんだ。だったらもっと反抗的な顔を作ってやる。

「ふーん、亜麻ちゃんってキリっとした美人だよな」

うれしくねーよ、よく言われてるし、今度はセクハラかよ。

「気をつけます」

明るい話題で元気な朝を伝えるコンセプトでスタートした列島中継だけど、ローカル局のローテーションは四カ月に1回。年に三回だけの全国ネット登場に腕を回して力んでいる。

大きな災害や突発の大事故が発生して時間が押しても、最後までカットされずに残る確率が高いコーナーだ。

だから、アメリカで大規模な山火事が延焼中でも、炎に囲まれたステーキを出す店をそのまま紹介したり、航空機が消息を絶った日に手作りの飛行機を笑顔満面で紹介して緊張した素人がよりによって何度やっても足下に墜落させたり、段取りを少し変えてくれればいいものを、受けるこっちを気にせずに進行する。

いつもはオヤジギャグ交じりの感想で次のコーナーにつなぐMCの安宅さんは、突発対応があるといっぱいいっぱいになってテンパる性質で、そんな時だけ列島中継の全権が私に委譲される。

私は子供の頃からそれはそれこれはこれって生き方をしてきた。

アメリカが山火事だからって、旭川の炎のステーキの味や演出が落ちる訳じゃない。

お店は流行って年商もよさそうなんてシャレた事も言えるし、中継で手作りの飛行機が落ちたからって緊急事態とリンクするわけじゃない。

無言でやり過ごすなんて無理だ。むしろ生中継なんだからアクシデントは歓迎だ。

燃えるステーキも落ちた飛行機も笑って済ませればいいじゃない。せっかく新しい朝を迎えたんだからこれはこれだ。

気を回し過ぎだと思う。だれが決めていつからそうなったのか知らないけれど不偏不党精神ってのがテレビには存在している。

だけどテレビなんだから、黙るんじゃなくて多様な意見を流せばいいだけじゃない。

ただでさえ欲望を押えて窮屈に暮らしているのに言葉まで狩られたらどうすればいいのよ。むしろ率先してあるがままに感じるままに自由にしゃべって伝えるのがアナウンサーであるべきよ。

そして私はテロリストになった。自分ではそう思っていた。

友達は一人残らずバカなことしたねって言ったけど。

年をまたいで放送していたけど、正確には東光放送新年最初の番組としてテレビ欄で紹介されている朝4時からの新春列島日の出リレー生中継。

北からつないで沖縄の西表島まで全国25地点を結んで初日の出を拝むだけだけど、新年一発目の全国ネットに全局腕が回りまくっていた。

氷点下二十度の網走のふ頭にマーチングバンドを仕込んだら、トランペットのピストンが戻らなくなってチューバはマウスピースが唇に張り付いしまうだろうって想像できるでしょ。カメラが一台なのに竿灯をニ十機も仕込む必要あるの。大鍋の雑煮が六分で仕上がるはずないじゃない。せっかくの生中継なのに神社の成り立ちを懐かしむ映像を三分も流すなんて。富士山に百人連れて来たって全員映らないわよ。割り当てられた一局六分を遥かにオーバーする項目とゲストを仕込んでいた。

東京中継は私が担当だった。北茨城の六角堂から引き継いで南房総に渡す間の六分で

局舎の屋上ヘリポートから初日の出を拝む事になっていた。

東京は朝陽が注ぐとビルの窓が乱反射を起こして光の滝になる。輝く都会に特別な演出は不要だ。ドローン映像だけ時間いっぱい流せば新年を迎えた気持ちになる。

とはいえ、地方局とのバランスもあり、なんらかの仕込みは必要だ。

幅三メートル長さ十五メートルの半紙を用意した。バケツにモップのような筆。

初日の出と書きあげて上空から披露してとっとと次に渡す。初めから時間調整のつなぎになっていた。

筆をつかんで気が変わった。

新年なんだから、様子を伺ってばかりいるような放送なんてクソくらえだ。何をやるのも自由だって風潮を伝えてやる。だって私はアナウンサーなんだから。

筆を持ち上げると振袖の裾にバケツの墨汁が飛び散った。白足袋は右が真っ黒だ。

筆を担いでひと回りした。

予定にない動きだけど、カメラマンはしゃがみこんで飛び散る黒い雨をレンズで受けるナイスな対応をしてくれた。

布で拭いた汚れが残ったままの画面の中で書初めをした。

打ち合わせでは、いきますと宣言をして勢いよく初日の出と一気に書き上げる事になっていた。予定通りドローンは真上でホバリングしている。

晴れ着や日本髪から黒い汁を滴らせ無言で筆を振った。

初日の卍と書きあげた。

新年初どっきり、うふふ。

ドローンが急上昇して、画面が南房総に切り替わった。

CM明けから西日本各地をつなぐためにスタジオに急いで戻る段取りだったけど、墨汁で汚れたので着替えるように言われた。

汚れてるのがいいじゃない、分かってないなと思いつつ衣装部に向かった。

誰もいなかった。

モニターには霧で視界が悪い富士山からの中継が映っていた。

すぐに名古屋の餅つきにつながった。

まずい、急がなきゃ。スタジオを挟まないのは私が居ないからだ。

「衣装さん、すみませんアナウンサーの小森です」

廊下の向こうのトイレまで聞こえるように呼んだ。

人の気配がした。APの小坂さんだった。

「亜麻着替えていいよ」

「はい、でも着付けしてもらわないと」

「来ないから。だからきょうはお疲れ」

えって顔したら小坂さんが座った。

「佐々野さんがキレちゃってさ。でも亜麻もまずいよ、やばいって正月早々あんな書初めさ、なんだよあのマーク」

「シャレてたでしょ、出って書くと思ったでしょ、初日の出に見せかけて卍。お寺の地図記号入りで神仏混淆って感じでしょ」

「卍だったのかアレ、だったら逆だよ。亜麻が描いたのは右卍だよ、あれじゃナチスの党章ハーケンクロイツ、最悪だよ」


本当に最悪になった。

一月付けで営業局に移動になった。アナウンサーが一般職になるなんて異例だ。上司の斎藤さんから内示もなかった。

なにより屈辱だったのは、三月末まで担当予定だった人物探訪番組のナレーションがAI音声に変更された事だ。完全に局内で浮いてしまった。

辞めてやる。

入社以来事あるごとに口説かれていたカリエプロの笹島さんに連絡をした。

いつもの喫茶店で待っていたらメールが入った。

会えなくなった、ごめんなさい。

第三者の介入を臭わせる文体だったけど、なびいてばかりの笹島さんらしいと思った。

四面楚歌だ。

生活のために在籍して言われた事だけこなす日々は苦しさだけが募った。打ち合わせ先で名刺を出せば、アナウンサーでしたよねと言われ、数回会って親しくなると営業局配属の理由になったあの正月番組をネタにされてからかわれた。

そんな時にも営業スマイル。

半年で体調を崩し、心療内科に通い始めたけど毎食後に7種類の薬を服用なんて一体私はどこをどう病んでいるのか、さらに悩みが増えた。

家で一人でいる時間を辛く感じて用もないのに会社に長居をしてしまう。

その日も、私だけが残っていた。

ボーナス査定を最低評価にされた部長のデスクのPCの電源が入ったままだった。

OFFってやろうとマウスに触れるとパスワード入力画面が光った。

「俺って奥さん大好きだろ、偶然なんだけど夫婦とも名前が数字になるんだ」

自慢話を思い出し、164&935 ヒロシとクミコと打ち込んだら作動した。

卍と記したファイルを見つけた。私に関係しているに違いない。

ファイルを丸ごと自分に送信して送付履歴を消した。一分以内の早業だから防犯カメラに記憶されていても言い訳はたつ。

デスクに戻ってじっくり観察した。大手広告代理店からの調査結果だった。

下半期番組出演者の支持世代層やギャラ設定など子細にランク分けされていた。

どこの局でも同じような顔ぶれの番組になっているのはこのデータが大きくかかわっているためだ。

たとえば人気グループリーダーの佐々丘ゆうなは中学2年男子の80%は好きだけど女子は35%にとどまっている。しかも親世代である五十代女性の嫌悪度が4ポイントって嫌われているって事じゃない。全体支持率C評価だからCM出演が少ないのか。

京大卒で知的タレントとして売り出し中のお笑い芸人GOOSを支えているのは50代以上の女性でA評価。さらにギャラ設定がCで費用対効果400と記されていた。最近各局に出ずっぱりのはずだ。

少し前までGOOSのように連日テレビで顔を見たタレントのルビーを見ると、評価がAからBに下がっていた。父親の母国の軍事クーデターも評判を下げた理由になっていた。気の毒に。

番組出演者であれば料理番組のウエーター役でもドラマの通行人でも、あいうえお順にもれなく網羅されていた。

自分の名前もアナウンサー部門で発見した。評価はB。女性アナウンサーにA評価は一人も居なかった。ギャラは給料なのでブランクになっていたけど隣の枡目に☆があった。

カーソルを合わせると、あの正月番組の書初めのシーンが流れた。

逆卍を書き終わって画面がフリーズ。そこに【K断念で休眠中】

たぶんKはカリエプロなんだろう。そしてアナウンサー職を休眠ではなく正確には永眠だ。

他にも☆印が付いているアナウンサーが居ないか探した。

いた。新橋の局の三崎咲桜アナ。いずれはフリーになるだろうと言われ続けている人気アナウンサーだ。それでも評価は私と同じB。

☆をクリックした。

【三蔵事務所で調整中】

三蔵って俳優しかいないじゃないか。調整中ってどういう意味なんだ。やっぱりフリーになるのか。

どうしても知りたい。

謎を放っておけない性格を褒められてアナウンサーを目指せばって薦めてくれた中学の担任に初恋をして、体型が似ているだけで好きになった隆太を思い出した。

ズバリ、分析した大手広告代理店に勤務している体重170キロの元カレだ。歴代の最高体重ではない。二番目に重いカレだ。

二枚目で頭脳明晰でファッションセンスも良くて礼儀正しいカリエプロの笹島さんも恋の対象じゃないのは、太っていないからだ。

会いたいってメールした。

すぐに返事が来た。やっぱりあの店で会う事になった。

駅を出ると小雨が降り出したけど傘をさすほどじゃなかった。

黄色い暖簾をくぐるとやっぱり隆太は先に来て、やっぱり食っていた。

替え玉無料のラーメン屋。

「久しぶりだね」

「替え2つとバリカタ1つね」

三年ぶりが嘘のように私のラーメンまで注文してくれて、ますます太っておっぱいの肉がテーブルに載ってるじゃない。やだっ、燃えちゃう。

「ごめんね忙しいのに呼び出して」

「そっちは暇なんだろ」

「しゃべれないだけで忙しさは同じ」

「身から出た逆卍。ありゃ痛いよな、でもあの程度で異動って心が狭すぎないか」

「お待ち」

「何玉目なの」

「まだ十と六かな、延びないうちに」

いつものようにテーブルのショウガを山盛りにしてから麺をすすった。

落ち着く味。真向かいに隆太。昔に戻ったようだ。

「ねえ出演者評価分析って上層部に送っているでしょ」

「現場には見せない契約だぜ。バレたら東光放送はペナルティーだよ」

「盗んで見たの、それに今はアナウンサーじゃないから」

「上層部でもないだろ」

「でも見ちゃったから。ねえ私がK断念ってカリエの事でしょ、違うの、じゃあ新橋の三崎さんは三像事務所で調整中ってのは」

隆太が音をたてて麺をすすり出した。不機嫌になった証拠だ。

「ご馳走様、お勘定して」

隆太が席を立った。

「ちゃんと食えよ」

そうだ、あの日も私が注文したドリアを少し残した事が原因で別れた。身の程は食べられる量を知る事だって交際中に何度も言われた。目の前の隆太の丼にはゴマ粒1つ残っていない。汁をごくごくと飲み干して後を追った。

ますます太って時々左手でズレ落ちたベルトをたくし上げて歩いていた。二十代最後の誕生日にあげたサスペンダーにすればいいのに。

「追いついた」

思い切り体当たりしてやった。

「店じゃまずいよ素人だって知ってる名前が出て来るし」

「じゃあ、どっちにする、そっち、こっち」

「おれん家の方が近いだろ」

嬉しくて、また体当たりした。久しぶりだ。

マンションも変わっていなかった。だけど隆太の部屋の前の通路に私がこの世で一番嫌いなベビーカーが置いてあった。

「実はさ、パパなんだ」

「連れてこないでよ、だったら」

「せっかく来たんだから入りなよ。紹介するからさ」

まあ、それもありか。元カレの奥さんにも興味がない訳じゃないし。

私に似たやせ型で髪はショートなんだろうなんて予想した。

玄関に大きな犬が寝ていた。

「息子のマリウくん。引退した盲導犬。今はあれで散歩に行ってる」

「なんだよ」

やさしそうな目が隆太に似ていた。結婚していなくて良かったという態度が伝わったようで、隆太の機嫌がすっかり直った。

さっき道でしたみたいに体当たりしたかったけど、その流れで、昔みたいにベッドになだれ込みたかったけど、玄関からマリウくんがずっと様子を伺っていたから。

「あの調査なんだけど、亜麻のK断念のKってカリエプロじゃないよ。Kは業界の隠語で革命って事だよ」

「革命ならRじゃん」

「それほど影響がないだろう。だからKeyとかKillerとかKnaveなのかもね」

「悪党じゃないわ、悪しき段取りを変えたかったのよ」

「うん、意気込みは伝わったよ、でもな」

「ねえ、マリウくんが現役復帰する事ってあるの」

「ないな。残りは余生さ」

「まだ若いのにね」

「そう見えても人間なら60過ぎだぜ」

人間ならか、でも犬は犬だ。そうか例えばか、もし私が三崎咲桜だったらって考えればいいんだな。

よーし。

ネットのひな型通りに書いた辞表は引き留められることなくあっさり受理された。

初めて訪れた三蔵事務所は、マンションの一室と聞いていたけど、入口がそう見えるだけで内装はまるで宮殿のようだった。

美しいとか豪華絢爛とか、ふさわしい言葉を当てるんだったら威圧だ。

壁の有名絵画や四季を描いた天井画が迫ってくるようだ。

「何度も説明した通り当社はアナウンサーは在籍しておりませんし募集する予定もありません。三崎さんのお話は噂であって今後ご縁があって所属して頂ける場合もあくまで俳優というくくりになると思いますから小森さんともご縁がないという事でご理解いただくしかありません」

反論を許さない息継ぎもなくきっぱりとした物言いだったけど、天井や壁のイミテーションと一緒で人間味を感じない気取った女だ。

「私の魅力を見出してもらえるのは御社しかありませんからお訪ねしたんですけど、失礼ですけどどなたか対人のプロに方はいらっしゃらないんですか」

「当社を代表する竜也も実は私がスカウトしたんですけど小森さんには役不足のようね。ですが、演じたご経験がないんですよね」

「いいえ、毎日演じてました。アナウンサーという役に成りきっていました」

部長の肩書の名刺を出した女性が無言で去り、すぐに年配の男性と入れ替わった。

「三橋蔵之介です」

「はじめまして小森亜麻と申します。社長にお会いできて光栄です」

「アナウンサーを演じていたんならあれは何のマネだったんですか。予定調和を壊したいという意気込みからならあれは単なる自爆テロですよ。俳優はアナウンサー役をやれるけどアナウンサーが俳優になったつもりで演じるのはものまねだ。ものまねされている自分を本人が演じられるのなら当社で喜んでお迎えします。小森亜麻さん」

「三崎さんは、それが出来るんですか」

「小森さんは言葉を伝えて俳優は演技で伝える。でもね、三崎さんから伝わってくるのは言葉だけじゃない。小森さんは正確に伝えてアナウンサーとして完成されていますが失礼ながら残像が残らない。その違いを私が言う演じるという事だと理解して頂ければいいかと思います」

三崎さんにあって私にないものは致命的だった。

辞表を出したことを後悔した。しゃべり手としての道が途絶えた。

身の回りの物をすべて金に換えて、使い尽くすまで旅に出ようと決めた。

最初の目的地にした岡山の桜並木は寒風の枯れ並木だったけど、あの団子を買って食べた。おいしかった。もし食べていれば花より団子だって素直に言えた。言ってさえいれば今もアナウンサーだったな。

半年後に1日2食に切り詰め、無理のない条件なら言い寄って来た人の家に泊めてもらいながら旅を続けた。

髪も肌も手入れを怠ってアナウンサーだった面影もほぼ無くなった。

「そういうばそんなアナウンサーが居たな」

北陸のラーメン屋でネタにされている自分を小耳にはさんだ夜 全財産で買った薬を海辺で全部かじって、私は永い眠りについた。

アナウンサーの末路を演じただけです。そう書き残して。














 










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