无婆狩り
「モビー、行ける?」
「や、ちょっと今の私の足じゃあ無理かも」
マスターには申し訳ないけれど無理して転倒ちゃったりしたら最悪。
マリンちゃんが駆るロゼちゃんの走りを前にして、私とマスターはコーナー一つ過ぎる毎に離されていってしまいます。
カープや分岐点毎に速度を落として私たちが追いつくのを待ってくれていますが、本気で走られたらマスターと私、……今のままの私じゃあ追いつけない!
無事お客様宅へと配達を終え、无婆飯店に帰る道のりで私とマスターの肩はがっくりと落ち切ってました。
「焦る事はない。まずはバイト代を貯めてまともなタイヤを買うこと」
私が今履いてるタイヤは当時物のカチカチタイヤ。いつ事故ってもおかしくありません。マリンちゃんには見抜かれてました。まずはバイト代を稼がないと。
「あ、アレ! 私たちと同じバッグの人が走ってる!」
途中、見慣れたバッグをリアキャリアにつけたカゴに入れて走ってるスクーターとすれ違いました。でもよく見ると〝无婆飯店〟ってロゴの所にテープが貼られてます。
「ねーねー、ロゼちゃん。さっきのスクーターの人って私たちと同じバイトじゃないのかな?」
「あーアレね。スクーターだとさ、お店のロゴが見えると意地悪な車とかに幅寄せとか煽り運転とかされちゃうのよ。だから隠してる配達員も多いの。……それよりもバッグ、あの置き方だと……」
ロゼちゃんの話の途中で、さっきのスクーターが走り去った方向から悲痛な叫びと大きな排気音が聞こえてきました。その瞬間、私とロゼちゃんの間を黒塗りのビックスクーターが走り抜けて行きました。無駄に大きい下品な音! ご丁寧にナンバープレートまで折り曲げられてます。そのタンデムシートに座っている男の人がさっきの无婆ロゴの隠された配達バッグをひったくって掴んでいるのが見えました。
「ロゼ、追うよっ!」
マリンちゃんがギアを一速落として急加速! 一気に離されていく私とマスターの耳に「後で説明すー……」とロゼちゃんの声がドップラー気味に遠ざかって行きました。
先に无婆飯店の待機場に戻った私たち。
暫くすると、ロゼちゃんとマリンさんが戻って来ました。
「最近荷物をカゴに入れてるだけの配達員からバッグをひったくる悪戯が流行ってる。追いかけて退治するとポイントが貰える」
「ビル警備のバイトしてても思ったんだけど、物騒な街だね……」
Motorcycle Kinky 〜もときん〜 笹岡悠起 @yv-ki_330ka
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