ベータ版 藻妃沙

新橋ガード下 3

『Motorcycle Kinky(略称もときん)』は大学時代の友人奥島が開発中のスマホゲームだ。

 奥島と八田と俺の三人はバイクサークルで出会ってからずっと交流が続いている。その腐れ縁で奥島からゲームのモニターを頼まれた。ゲームは安全面に配慮しつつも、現実世界でのバイク移動のGPS情報を使いポイントを稼いでガチャを回したりカスタムをしたりしながら、全国の峠やサーキットで擬人化されたバイクたちが競走するのだ。そしてそのコースも実際にそこに行かないと解放されない。


 元々走るよりも弄る方が好きだったのもある。社会人になってからというもの、サークル企画の定期ツーリングがある訳でもなく、余程の旅好きでもない限りバイクで出掛ける機会が減っていたのは事実。そんな時、奥島の「最近走っているか?」という質問に何も答える事が出来なかった。

 確かにこのゲームのプレイモニターをする事で今までよりもバイクに乗るようになった。なりはしたのだが……。


「車種が少ないのがちょっとなぁ」もっぱらのヤマハ党、八田の意見。しかも現時点で導入されているヤマハ(ゲーム内ではY社とぼやかされているが)の車輌はスクーター。型落ちとはいえ、大型のR1を駆る八田は不満たらたらだ。

 ホンダ党の俺としては、NSF系統にその血筋を残すエイプが選べたり、プレイアブルとして実装こそされていないが、今となっては伝説の名機NSRもNPCとして登場するので、奴よりは楽しめていたと思う。

 しかしく言う俺も、まだカスタマイズ要素もそこまで掘り下げられてなく、一度レース勝負で無理をして〝転倒〟イベントに遭遇して以降はログインすることも実際にバイクで走り回ってGPSポイントを稼ぐことすらもやらなくなっていた。


「お前等がそろそろ飽きる頃じゃねーかと思ってな」プレイログを取っている奥島には俺たちがゲームに飽きてきているのは勿論筒抜け。

 バイクで一緒に出掛けることツーリングはもう殆ど無い俺たちだが、こうして定例飲み会だけは数ヶ月に一度のペースで行っている。

 奥島はその飲み会でベータ版のアップデートを俺たちに伝えた。

「今度は中型バイクを数車種追加して見たんだ。レースのスピードレンジも上がって第三京浜を舞台にした最高速アタックもあるぜ」

「いや、倫理的にまずくないか?」

 最高速アタックについての倫理観を俺と奥島が話している傍らで、データのダウンロードとアプリのアップグレードを終えた八田が早速ログインした。


「車種増えたって、お前、これ……」

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