Revvin' up your engine

「プスン」

 今日はお家の前でずっとスタートの練習です。ご主人様はまだまだスタートが苦手なのです。私たちの公道デビューぼうけんの旅はもう少し先かな。


「マスター。ブレーキレバーを握ったまま、クラッチレバーをゆっくり離して行くと私が少しずつお辞儀していくのがわかるでしょ? そこが半クラッチ。まずはこれだけ何回も練習しましょ!」

「うん。ありがとう影布ちゃん」

「ま。ままマスターはご主人様なんだからっ! どうぞ影布とお呼び捨てください!」

「僕が影布ちゃんに乗ってどこに行っても恥ずかしくないくらい、バイクの腕前が上がったらそうするよ」

 ぽっ。私の体がほてってるのは、風を切らないでスタート練習してた所為。だって私のエンジンは走行風で熱を冷ます空冷式なんですもの。


 その後、陽が沈む頃まで頑張ったマスターは……。


「完璧ですっ! マスター!」

 指先を少しだけ動かして、また握る。ずっと反復練習を繰り返して、その動作だけで私のフロントフォークを縮めたり伸ばしたり、すっかり半クラッチの感覚をモノにしたご主人様。

「じゃあ次は……」

「アクセルね! 少しずつ回転を上げていくのよっ」と、横から私の声を遮る女性の声。


「れ、麗子! あ、影布ちゃん紹介するよ。彼女は同じ町内に住んでる麗子。……と?」

 マスターが紹介してくれた麗子さんはスラリと背が高い漆黒ロングヘアーの美人さん。

 そしてその麗子さんと一緒にいるのは、なんとなんと。

「初めまして。影布さん。只今紹介に預かった麗子よ。そしてこっちが私の相棒の……」

「ハ、蓮浦ちゃん!」

 予期しなかった突然の再会に手を取り合って抱き合い、きゃーきゃーと言いながらくるくる回る私たち。


「そうだ! スタート練習終わったらさ、いっちょ私とシグナルグランプリ勝負しない?」

「れ、練習試合なら」

「え〜っ! それじゃあ勝ってもポイントつかないじゃない!」

 そうなんです。マスター達は私たちモトと一緒にツーリングをしながら世界各地で様々な勝負レースをしなければならないのです!

 そしてその試合レースの勝者にはポイントが与えられます。そのポイントで私たちをチューンナップしたり、マスターが新しいライティングテクニックを修得できたりもするのです。……あと、私たちに万が一の事があった時に修理したりも。

 勿論、ライテクは今日のマスターのように一定時間の修行で身につけることも出来ます。

 あとコレが重要なんです! 勝負内容は直線勝負とコーナーリング勝負、そして耐久勝負の中から挑戦をされた側が選べるのです。なので本当は私たちが選べるんですけど、まだマスターは直線勝負しか出来ないので……。


「マスター! 蓮浦ちゃんたちなんて私たちでコテンパンにノシちゃいましょうよ!」

(まだ冒険は始まったばかり。焦らず二人で力を合わせて全力でぶつかりましょう!)


 そして翌日。

 直線百メートル勝負(ゼロ100と言います)で私たちは麗子さんと蓮浦ちゃんペアに負けちゃいました。でもでも、マスターのスタートは完璧でした。麗子さん、いや、蓮浦ちゃんのツーストダッシュに私が負けちゃったんです。悔しいーっ!

 その後、マスターと麗子さんがツーリングに行く約束をしていたので今度は峠で勝負リベンジです!


 その前に練習ですね。

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