あのね、お母さん。学校ってねぇ
昨日、マナミと喧嘩した。何が理由かと言うと、あれだけ私の片思いを応援してくれていたのに、その相手である松岡君と、ちゃっかり付き合っていたからだ。
『いゃだなぁ……学校、行きたくないなぁ』
今日は一日、いや、これからずっと、このベッドから出たくないと私は思う。
一日中ここで、スマホ使ってYouTubeとか、なんか笑える映画でも観て、傷をえぐらない程度の恋愛マンガでも読んで、嫌なことは何にも考えないで、気づいたら今日が終わっていて、また寝るみたいなのがいいなぁ……
でも、そんなことしていたら、あんなに優しいお母さんでも、怒るだろうな。朝が苦手な私のことを、もうすぐ起こしに来るだろうから。
「時間よ、起きなさい」
来た、きた。いつもは大助かりだけど、今日は迷惑だな。よし、思い切って言ってみよう。
「今日は学校、行きたくない」
よし、言えた!それじゃあ、次に言ってくることなんて想像つくから、言い訳を考えておかないと。
「あ、そうなの?じゃあ、朝ごはん、リビングに置いておくからね」
ん?待って、待って。なんか想像していたのと違うなぁ。これじゃあ調子狂っちゃうよ。
「ちょ、ちょっと待って、お母さん」
「何、どうしたの?」
何、どうしたの?じゃないよ。そうじゃなくて、他に言うことあるでしょ?
「ほら、学校行きたくないって言っているんだから、『何で?』とか聞かないの?」
「何で?」
それ、どっちの『何で?』私に聞いているの?それとも、自分が疑問に思ったの?言葉って難しい。
「だから、ほら、ちゃんと行きなさいとか言うでしょ?」
「そうなの?」
何だよ、それ……あなたは母親なのに、娘がどうして学校に行きたくないのか、気にならないの?
私はてっきり、『ちゃんと行かなきゃ、ダメ』のようなことを言われると思っていたから、それに合わせた言い返ししか考えていない。こんな展開で咄嗟に思いつく言葉なんてないから、用意していた返答を、そのまま言ってみる。
「お母さんだって、学校に行きたくないこととか、あったでしょ!」
「学校行きたくない?考えたことなかったわねぇ……それって、どういう時に思うの?」
お母さんは突然、私が出ようとしないベッドの横に正座をして、興味津々そうに、こっちを見てくる。
「だからさぁ、そもそも、お母さんって、どういう気分で学校行っていたの?」
「学校?それは勉強しに行っていたに、決まっているじゃない」
そこは、よくいる大人の考えなんだ。今の私には一番つまらない答えだけど、お母さんが真っ当な大人であったことには安心する。
「ほら、行かないと、勉強も遅れちゃうでしょ?普通、そういうことを言うじゃない」
「遅れたら、何なの?」
それ、私のセリフ。それと、私が言っていることは、あなたのセリフ。そういえば、お母さんの学生時代の話なんて聞いたことなかったから、この人がどんな少女だったのか、想像もつかない。
でも、いつもぼーっとしているところとかあるから、明るい子ではなかったのかな?なんて思ってみる。
「勉強遅れたら、大学行く時とかに困るでしょ」
「大学に行かないと、困るの?」
「困るっていうか……将来のこととか考えるでしょ」
「それは家でも、考えられるじゃない」
「だからさぁ……」
何、この人、もしかしてお嬢様育ち?『パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない』とか、言っちゃう系?
「ほら、学校って、勉強以外にも行く理由があるでしょ?友達とか、夢を見つけるとか」
「夢?学校に夢なんて、置いてあったかしら」
「あったかしらって、夢は物じゃないんだから。落っこちてもないわよ。部活とか、いろんなことしながら、見つけるものでしょ」
「じゃぁ、俳優さんは、教室でお芝居やっていたってこと?そんな人、いたかしら……」
この人、こんな性格で友達とかいたのかな……人とずれているから、人間関係も苦労したんじゃないかな……なんて思う。
「あのさぁ、お母さん、忘れていた傷をえぐるようだったら、ゴメンね……お母さんさぁ、友達とかいた?」
「あたりまえじゃないの、仲良しの子たちはいたわよ」
よかった……お母さんにも友達がいたんだ。友達のみなさん、こんな母と仲良くしてくれて、ありがとう。と、顔も知らない人たちに、心の中でお礼を言う。
「そう、それ!友達!お母さんもいない?卒業しても会っている、一生の友達みたいなの」
「あはは!ばかねぇ、この子は。今は、お母さん学校に行っていないんだから、友達に会うわけないじゃない!」
それを当たり前としているお母さんを見て、唖然とした。その笑い声を聞いていると、悩んでいたことが、馬鹿々々しくなってくる。
「もういいや、やっぱり学校に行ってくる」
おかしな母だと思ったけれど、話していて一つ、はっきりとしたことがあった。嫌な友達は、卒業しちゃえば会わなくていいし、大切な友達とも、今しか会えないかもしれないと。
お母さん、あなたやっぱり変わっているよ。でも私が本当に困った時や、苦しい時には、その性格に助けられそうだね。
だから、いつまでもそのままでいてね。
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