大晦日
中学生の頃、神社に行くと家族に告げて、夜中に友達と出掛けた大晦日。
集まる人々の群れの中、凍てつく寒さを温めようと、両手で甘酒を握り締める。
悴む手の平の寒さを拭いながら、賽銭箱に小銭を投げた。
『チャリン』と賽銭の音が聞こえると、手に持つ甘酒が邪魔をして、神様に手を合わせづらい。
片手で失敬した願い事は、やはり叶わぬままだった。
高校生の頃、神社に行くとはこじつけで、夜中の街を徘徊した大晦日。
歳より背伸びした服を着て、街をふらつき年を越し、年の変わりを気付きもしない。
寒さ凌ぎのカラオケボックスでは、流行りの曲が流れていた。
二十の頃、あの頃は甘酒で乾杯をしていた友達と、居酒屋に集った大晦日。
思い出話しを肴にしながら、酒のほろ苦さと自分を重ねる。
友からお酌を受ける頃、来る年迎えに数かぞえ。
時計の針が北を指すと、西も東も笑顔であふれる。
『毎年、皆で集まろう』と契を交わした友達は、それぞれの道へ旅立った。
新たな家族ができた頃、妻と買い出しに出掛けた大晦日。
両手に持った買い物袋、数の子、黒豆、栗金団。
叩き売りに乗せられて、鮪と鮭を衝動買い。
それから一年、二年が過ぎると、仕事ばかりで妻まかせ。
師走の仕事に追われている頃、妻の両手に買い物袋。数の子、黒豆、栗金団。
切り詰めた生活の中、衝動買いは無くなって、年明け食卓に並ぶのは、数の子、黒豆、栗金団。
鮪や鮭が消えた翌年、妻の姿も消えていた。
行く年、行く年、仕事に明け暮れ、一人で過ごす大晦日。
深夜も休まず走る電車は、迎える年に願いを込めて、寺や神社に向かう為。
私が電車で向かうのは、帰宅途中の最寄り駅。
コンビニエンスストアで、寒さ凌ぎの缶コーヒと、弁当、枝豆、缶ビール。
一人佇む部屋の中、弁当、枝豆、缶ビール。
静けさ紛らわすテレビの音が、年の変わりを気づかせる。
今夜くらいは酔ったまま、眠りにつこうと思わせた。
やがて新たな恋芽生え、迎えた今年の大晦日。
澄んだ夜空と月明かりが、年の暮れを思わせる。
あのとき片手で済ませた神頼みは、よからぬことだったと思いながら、彼女の手を取り神社へ向かう。
集まる人々の群れの中、賽銭箱に立ち止まり小銭を入れると、握る彼女の手を今だけ放して、今度は両手で神頼み。
迎える年に願いを込めて。
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