6年1組 イタズラ学級
「こんなイタズラするの、先生が子供の頃の話だぞ。それも低学年の……」
朝のホームルーム、君たちはもうすぐ中学生になるのだから、あーだ、こーだと、お説教が始まった。まぁ、それも僕のせいだけど。
やっと終わって、先生が教室から出て行ったと思えば、今度は苦手な女子からの番。
「くだらないこと、やめてよね。私たちまで一緒だと思われるから」
僕の机を囲んでいるのは、ミカとユミコとサナエの三人組。
「でもさぁ、ここまできたら、当ててみたくね?なぁ、なぁ!」
僕のことを女子から庇っているのは、前の席のタクヤ。何で揉めているのか、それは、僕がずっと、先生に仕掛けている『黒板消し当て』そう、説明しなくても分かるような、王道だけど、成功率0パーセントのイタズラ。
ドアの隙間に黒板消しを挟んで、開けようとした先生の頭に当たって……ってやつ。
「そもそも、あんなに大きいものが挟まっていたら、入る前に気づくでしょ!ばっかじゃないの……私ならねぇ」
ミカが考えたのは、黒板消しを糸で動くように天井から吊るしておいて、先生が入ってきたら、誰かが持っていた糸を手から離すという、大がかりな案。
「そこまでやったら、先生、本気でキレるんじゃね」
でも、面白そうだということで、早速、次の日に実行してみたが……結果は失敗。
「こんな手の込んだこと……こうなったら、先生と勝負だ。君たちが卒業するまで、あと一週間。当てられるものなら、当ててみろ!」
その一言で、教室は大盛り上がり。それからは休み時間の度に、黒板消しをどうやって当てるのかの作戦会議。
「もう、投げちゃえばいいんじゃね」
「バカ、そんなのフェアじゃない」
「ぶらさげといて、先生が話してる時に、エアーガンで撃ち落とせば」
「危なっ!本当に男子が考えることって、バカ」
「一緒にするなよ。大体、君たちは知恵がないんだよ。もっと算数的に、先生の歩く速さが一メートル毎秒と考えた時に、天井から黒板消しが落ちてくる速度は……」
「ちょっと……難しくて、わからないや……」
とにかく、あの手この手で、僕たちは毎朝チャレンジしたが、ことごとく失敗。その度に先生は得意げな顔をするから、それが悔しい。
「まったく、先生は油断も隙もないな」
「あんたバカ?それは、先生が私たちに言うことでしょ」
間違いを馬鹿にされたタクヤがミカと揉めているけれど、何だかんだ僕たちは、これまでにないくらい団結していた。けれど結果は惨敗のまま、とうとう卒業式の日になってしまった。
「本当に、このクラスはイタズラ学級だったけど、先生はみんなが大好きだぞ。だから、イタズラも今日で卒業して、中学生になったら、もっと大人になりなさい」
最後の最後まで先生の言うことは、お説教っぽい。だけど、こんなイタズラ学級の挑戦を受けてくれるような、優しい先生だ。
今日までの一週間、すごく楽しかった。学校では運動会とか、学芸会とか、いろんなことがあったけど、そんな時でもクラスはちょっとバラバラだったのに、このイタズラは、みんなが一つになった気がするよ。それもこれも、みんな先生のおかげ。だからこれで、最後だぁっ!
最後に仕掛けたのは、最初にミカが考えた案に、タクヤの間違った言葉使いで思いついた方法。先生の頭には、見事に黒板消しが命中し、頭はチョークの粉で真っ白になったのを見て、今か今かと笑いをこらえていたみんなが大爆笑。
「まったく……油断も隙もないな」
いいか、君たちはもう、中学生になるのだから、こんなイタズラは卒業しないと、あーだこーだ……と、またお説教が始まったが、何となく、笑っているように見える。
でも先生、先生は僕たちのことで、いつも一生懸命だったから、油断する時なんて、お別れの時くらいしかないもんね。
みんな泣いちゃいそうだけど、先生が僕たちの挑戦を受けてくれたから、笑ってサヨナラできそうだよ。
ありがとう!先生。バイバイ!6年1組、イタズラ学級!
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