捨てられない靴

 毎週末、土曜日は彼女と一緒にいることが多い。

 二人ともインドア派なので、ほとんどの日は僕の家で映画をみたり、互いに黙々と本を読んでいたり、食事も外食は少なく、気になる店のメニューすら、最近はデリバリーで頼んでいる。

 けれど、洋服などは実際に試着をしてみるなど、目で見たものでないと不安なので、今日は二人で買い物に来ている。

 ブランド品というよりも、古着などカジュアルコーデの店が並ぶ通りで、どこに立ち寄ろうか迷っていると、僕は靴屋の前で足を止めた。

「また靴買うの!」

 インドアの僕だけど、靴を買う頻度は高い。別にスニーカーマニアという訳でもなく、通勤の移動時間が長いからか、それとも歩き方が下手なのか、実用した故に消耗が早いだけ。

 年間で四足、多いと五、六足は買うのだけれど、履けるなら何でもいいというわけではなく、メーカーやデザインも選ぶ理由だから、気に入った靴は履きつぶしても、それを捨てられずにいる。

「買うなら、玄関にあるやつを捨ててからにしなよ」

 ゆとりある収納場所があるわけでもないから、何十足もの靴が山積みに置かれていて、どれも履くことはない。けれど、靴を捨てられないというよりも、愛着心が捨てきれない。

「まぁ、買う時は、一目ぼれみたいなところも、あるからなぁ」

「一目ぼれねぇ……私にも、そんなこと言っていたっけ」

 それが嘘のわけではないが、靴と同じ意味でもない。後ろめたいこともないが、彼女の言葉が嫌味に聞こえると、はぐらかすようにして、靴を手に取る。

「これも、いつかはボロボロにされて、あそこに放り投げられるのね」

 いつもの彼女は、そんなことを言わないのに、今日は言葉に棘がある。まぁ、今、履いているのも古いわけではないから、ひとまず買うのは、やめることにした。


 その翌週の土曜日、僕の家に来た彼女は、プレゼントだと言って、あの時に買うのをやめた靴をくれた。

 今日は誕生日でも、クリスマスでもないのに、どういう風の吹き回しだろう……ただ分かることは、彼女の機嫌が、あまり良くはなさそうなこと。

「この靴、履きつぶしたら、ちゃんと捨てて。それは私も同じ。もう必要ないのに、ああして置いてあると、まだ必要なんだって、勘違いしちゃうから。靴も私も、必要ないなら捨てて」

 彼女の言葉の意味に気がつくと、履かなくなった靴を、空の段ボール箱の中に入れた。実は僕も、渡したかったものがあり、それを手に取ると、彼女に宣言をする。

「あの靴は捨てるよ。だけど、君を捨てることなんてない。僕には一生必要な人だから。結婚してください」

 ケースを開いて見せると、彼女はいつも通りの優しい顔を見せながら、頷いてくれた。

 これまでの靴は捨ててしまうけれど、きっと、また増えてしまうだろう。だから、彼女と暮らす家には、大きな靴箱を用意しよう。何足も、何十足も、靴の踵をすり減らしながら、二人の人生を歩んで行くために。

 彼女は怒るかもしれないけれど、その愛着心は、捨てきれないと思うから。

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