パンとスープに、ご飯と味噌汁

 僕たち夫婦の朝食は、好みが違う。

 妻はパンとスープ、僕は白いご飯と味噌汁。それと、それに見合った一皿のおかず。

 おかずは大抵、同じ物を食べるから、妻の主食に合わせれば、焼き魚は出てこないけれど、僕のであれば、目玉焼きとウインナーでも、十分にいける。

「ねぇ、もう手間だから、二人ともパンにしない」

 マグカップに入れたスープをすすりながら、妻が僕に訴えかける。

「いや、僕はやっぱり、これがいい」

「もう、なら明日から、あなたが作ってよ」

「いいよ。でも、それならば、君にもご飯を食べてもらうよ」

「ずるい!なら、自分の分は、自分で作るってことで」

「それは駄目。そうなるとお互いに、自分のことしか、しなくなる」

 妻がふくれるのも無理はない。誰が聞いても、これは僕のわがままだ。


 それから娘が産まれて、すくすくと育ち、幼稚園に入った頃、妻が「好きな食べ物は」と聞いたら、『ママがつくったおにぎり!』と答えたことに、不満げな顔をしていた。

「あなたが吹き込んだでしょ」

 もちろん、そんなことを、するはずがない。その証拠に、中学生になった娘は、すっかりパンとスープ派になっていて、家庭では僕だけが孤立していた。

「朝からご飯なんて食べられないし、お洒落じゃない」

 妻と娘が、目を合わせて笑っている。味方がついた妻は、得意げになっているが、僕はそれでも、かまわない。そう、そもそもは、こうして三人で食事をすることが、一番の好物だから。


 だから僕は、絶対に許さない。恨みなどの理由もなく、自分の身勝手な感情だけで、妻と娘を殺した犯人を。

 未だ捕まえることのできていない警察も、あてにならない。だから、この手で犯人を殺すのだ。

 それができれば、僕は死刑になっても、かまわない。そうなって、もしも『最後の晩餐』というものがあり、何を食べたいかと訊かれたら、僕はこう答えるだろう。

『妻が炊いた白いご飯に、あったかい味噌汁』と。

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