ばあちゃんの嘘

 ばあちゃんが死んだ。

 医者からは長くないと言われていたが、最初の余命宣告から半年ごとの更新のように言われ続けて七回目、三年の月日が経っていたので、慣らし期間もあったというか、ご臨終と聞かされた時、僕の心は落ち着いていた。

『あぁ、今度は本当か…… 』

 いつも嘘ばかりついていた人だから、死んだふりでもしているのかと思ってしまうが、どうやら本当みたいだ。

 最初の嘘は小学生の頃、父親のことを知らない僕に、テレビに出ていたハンサム俳優を指差して、『これが、あんたの父さんだよ』と言っていた。

 真にうけた僕は、友達に話して嘘つきと言われた。

 予約しないと買えないゲームソフトを欲しいとねだった時は、知り合いのおもちゃ屋に頼んでおくと言っていたが、発売日になっても買ってこなかった。

 友達にも自慢していたから、嘘に怒って責め立てると、ばあちゃんは嘘に嘘を重ねて、『受け取りに行ったら、間違って海外版が届いていた』と言った。

 案の定、友達には僕が、嘘つきと言われた。

 とにかく僕は、ばあちゃんのつく嘘が嫌いだった。

 近所の人に、孫とハワイ旅行に行ってきたと嘘ついていた、ばあちゃん。

 書初めの宿題を、僕が書いた下手くそな書道と、自分の書いた達筆な物とすり替えて提出させた、ばあちゃん。

 孫は東京大学を出ていると、病院の待合室で嘘をついていた、ばあちゃん。


 でも、今度はやはり、本当のようだ。

 今思うと、ほとんどの嘘が僕のためについていたのだろうけど、それは大迷惑だった。

 だから、今も思ってしまう。

『やめてくれ、こんな嘘、大迷惑だよ』と。

 そんな嘘を思い出していると、僕は目を閉じているばあちゃんの顔を見て、何故だかわらけてしまった。

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