カンヅメのミカン

 自分の誕生日なんて、嘘だか本当だか、わからない。

 僕が生まれた時の記憶なんてないし、その日に生まれた証拠もない。

 気が付いたら僕は、あの場所で生きていた。

 気が付いたら、僕の隣にいたのは、お婆ちゃん。

 小さな僕にも、自分が、この人から生まれたわけではないのは、わかっていた。


 ある日、おじさんが家に来た。僕を外へ連れ出すと、河川敷でキャッチボールをした。

 拾ったボールが、すごく硬くて、素手で受け止めるのが、すごく痛くて。

 あの日から、僕はキャッチボールが嫌いになった。


 キャッチボールが嫌になった僕は、ダンボールを拾って、土手滑りをしていると、おじさんが坂の下で煙草を吸っているのが見えた。

 その姿が少し寂しそうで、僕は、おじさんに、またキャッチボールがしたいと言った。


 家に帰ると、おやつがあるから、待っているように言われた。

 たぶんロールケーキだろうな、と思った。

 僕はいつも、これを食べていた。でも僕は、これが嫌いだった。でも、お婆ちゃんは、僕が好きだと思って買ってくるから、いつも食べていた。

 長四角の形をしたロールケーキを、七つに切って、一日一つ。これが七つで一週間。

 無くなると、新しいのを買ってきて、一日一つで一週間。

 テレビを見ながら待っていると、おじさんが、ロールケーキを長四角のまま持ってきた。

 ショートケーキのように、生クリームが塗ってあって、その上にミカンが沢山のっていた。

 僕が、びっくりしていると、おじさんは「誕生日おめでとう」と言いながら、ロールケーキを丸ごと出した。

 僕は、ロールケーキが嫌いだった。でも、これは喜んで食べた。


 自分の誕生日なんて、嘘だか本当だか、わからない。

 僕が生まれた時の記憶なんてないし、その日に生まれた証拠もない。

 だけど、年に一度、ミカンが沢山のっているロールケーキを思い出す。

 嫌いだったロールケーキと、シロップの味がする、缶詰のミカン。

 その日が、僕の誕生日。

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