第165話 シャルネの最期
「ぐはっ!」
ドカンッ!ガラガラガラガラ…
目にも止まらぬスピードの何者かに、倒れた冒険者達の方へと向かっていた女が弾き飛ばされ瓦礫に埋まる。
そして、ようやく動きを止めたそれは4つ足の獣…狼の上位種だった。
蒼銀の美しい毛並みが、光を反射して輝いている。力強さと気品に溢れる姿は見る者に息を飲ませることだろう。だが、魔力を感じ取れる者なら、その魔物の持つ規格外の魔力に絶望を感じてしまうかもしれない。
「味方…なの?」
「わからない…でも、あいつに向かって攻撃したのは間違いない」
ジャンヌとマリーが突如現れた狼の魔物に戸惑う。
ガラッ…
「ふふっ…うふふふふっ…あははははは!!!」
瓦礫の中からシャルネが起き上がり、高らかに笑い出した。
「今日は、なんて素晴らしい日なのかしら!あの時逃した獲物にまた会えるなんてっ!」
「それはこちらの台詞です。貴女には大きな借りがありますから。せっかく手加減してあげたのだから、あの程度で死んでもらっては困ります」
いつの間にか、狼の姿から人の姿へと変身したリーナが答える。
「喋った…!?」
「人に変化したの?」
状況の変化についていけないのか、二人が更に困惑しているが、
「貴女達、私の言葉はわかる?」
「「は、はい…」」
お構いなしに、リーナが二人に問いかける。
「なら、下がっていなさい。あっちで倒れてる人達の保護をお願いしますね」
「で、でも…」
マリーが怯えながらもこちらを警戒しているグリフォンの方へと視線を向ける。
「大丈夫。後は私に任せなさい」
そう言いながら、リーナは特別なことをするでもなく、グリフォンの方へ向けて手を振るう。
次の瞬間、グリフォンが凍りつき、黒い魔石だけをその場に残し砕け散った。
「女神の魔力から生み出された哀れな子…せめてゆっくりおやすみなさい」
憐憫の情を宿した眼差しで、消えゆくグリフォンを見送った。
「嘘…一撃で…」
「遠距離攻撃は効かないはずじゃ…」
驚く二人に、
「風の障壁はそれ以上の魔力で貫けるというだけのことです」
難しいことではないとリーナが答える。
「簡単に言ってくれるわね…」
「それがどれだけ難しいか…わかって言ってるのかしら…」
「これで、障害はないでしょう?あっちはお願いしますね」
「「は、はい!」」
ジャンヌとマリーは倒れた冒険者達を安全な場所へと避難させるべく駆け出した。
「ちっ…所詮は木偶か…役に立たないわね!」
あっけなく散ったグリフォンに苛立ちの感情を爆発させるシャルネ。
「まぁ、元よりわたし一人で十分なのだから、グリフォン程度がやられたところて問題はないのだけれど…」
そう言いながら、駆け出した二人へと視線を向けた。
「せっかくの獲物を逃がすわけないでしょう?」
ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。
「あら、私を無視するおつもり?」
「ふふっ…あなたの相手は後でしてあげるわ。
スキルを発動したシャルネの姿が消えた。
「
冒険者達の救助へと向かうジャンヌとマリーに視界から消えるほどの加速で追いついたシャルネが大罪スキルを使い、刃を振るう。
「させると思って?」
ガキンッ!
「なっ…!?」
だが、そのスピードに追いついたリーナの爪がシャルネの刃を弾いた。
カランカランッ
弾かれた刃がシャルネの手を離れ、地面に転がる。
「そんなバカな…私の速さに追いつくなんて…」
「そう?随分とゆっくり動くから、欠伸が出そうだったけど?」
「舐めないでっ!
更に加速し、短剣を拾いつつリーナの死角へと回り込もうとするシャルネだったが、リーナは苦も無くその速度に追いついて、併走する。
「私も速さには少し自信があるの」
「くそっ…だったら!」
ピィ~ッ!!
指笛を吹き、サポートのために連れてきた部下たちへ合図を送る。
…
…
…
「どうした!?なぜ誰も来ない?」
「ああ、もしかして…?お仲間だったら、あっちで氷の
「何ですって?ちっ…どいつもこいつも使えない!」
思い通りに事が運ばずに、更に苛立ちを募らせる。
無事、ジャンヌとマリーが冒険者達の下へと辿り着くのを確認したリーナが行動に移る。
「残るはあなただけね」
リーナとシャルネを中心に、氷のドームが形成された。
「ちっ…いいわ。まずはあなたから私のコレクションにしてあげる」
閉鎖的な空間に閉じ込められたことを察したシャルネがこの状況を打破するためには、眼の前の相手を倒すしかないと覚悟を決める。
「
発動したスキルの効果が手にした短剣の刃へと伝わっていく。
その様子を見ていたリーナが冷静に分析する。
(…あれが魔王様の仰っていたスキルね…肉体と魂を結晶化する?…封印術の一種ってとこかしら?)
「もう勝ったつもり?私の速さの限界はまだまだこんなものじゃないわよっ!
音を置き去りにした高速の刺突がリーナの胸へと吸い込まれていった。そして、スキル発動の光が輝く。
「やったわ!ざまぁないわね」
…
やがて光が収まると、そこには難なく刃を受け止めたリーナがそこにいた。
(封印術なら、普通はレベル差のある相手には効かないんだけど…さすがは大罪スキルってとこかしら。レベル差を無視する原理はよくわからないけど、封印の術理は理解したわ)
「不発!?そんな…バカな!」
「いーえ。ちゃんと発動してたわよ。私、封印術にも多少の覚えがあるのよね」
「くそっ!なら効くまでやってやるわ!
…
…
ブンッ!ズバッ!シュバッ!
…
…
「はぁ…はぁ…はぁ…くそっ!なんで当たらないのよっ!」
どれだけ速く動こうと、刃を振り回そうと、ヒラヒラと舞うようにそれを躱すリーナを捉えることのできないシャルネが息を切らせながら悪態をつく。
「これは返してもらうわね?」
「いつの間に!?返せっ!それは私のよっ!」
リーナの手にはピエールだった宝石が握られていた。
まるで、子供が、取り上げた玩具を取り返そうとするような緩慢な動きでシャルネが手を伸ばす。
その隙を見逃すようなリーナではなく、伸びたシャルネの腕を掴み、拘束する。
「な、何?動け…ない?」
「
驚愕するシャルネの身体に巻き付いているのは、髪の毛ほどに細く絞られた鎖。神ですらも拘束すると言われている
「じっとしててくださいね」
リーナの指先がシャルネの心臓…胸にそっと触れた。
「何をするつもり…?」
その表情に恐怖の色が浮かぶ。
「模倣
「くっ…うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
リーナの指先に触れられたシャルネの胸の辺りが光り輝き、苦悶の声をあげる。
眩い光の奔流が収まった時、そこにはシャルネの姿はなく、地面には、一つの石が転がっていた。
「どうやらうまくできたみたいですね」
シャルネのスキルを分析し、術理を理解したことで、完全にとは言えないまでもその再現に成功した。
「魂の輝きが強い程、美しい宝石に変わる…でしたか?」
何の変哲もないただの石を拾い上げ、語りかけるように呟く。
「案の定とでもいいますか…やはりあなたの魂では道端の石よりも劣るようですね」
拾い上げたシャルネだった石ころに力を込め、握りつぶすと、それは、砕け散り、その塵がサラサラと手のひらからこぼれ落ちた。
ヒュウ〜
一陣の風がその塵を運び去り、一片の肉体すらも残さずにシャルネはその生涯を終えることとなった。
―――――――――――――――――
あとがき。
ようやく、一人目が決着しました。
不定期更新となってしまっていますが、もうそろそろ
次回は…
別の国へ視点を変えます。次に登場するのは誰かな?
『面白い』
『続きが読みたい』
と思っていただけたなら、
フォローや☆☆☆評価をよろしくお願いします。
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