第164話 強欲

「嘘…でしょ?」


 ダンジョンから現れた数十体のマンティコアを見て、今さっき、ようやく倒したマンティコアが、ただの魔獣の一匹だということがわかった冒険者達が絶望に沈む…


「諦めてはダメよっ!」


 突如現れた声に、冒険者達が顔を向けると…

「あれは…!」

「まさか!」

「来てくれたのか!」


 2つの影が戦場へと舞い降りた。

「ジャンヌ姉さん!やるわよ」

「OK!マリー。合わせるわ」


「「流星雨プリュイメテオール!!」」


 金と銀の髪を靡かせた、二人の女性の冒険者が手を繋ぎ、もう片方の手を頭上へ翳す。

 天空に輝く魔力の星が、現れた数十体のマンティコアへと降り注いだ。


 ズガガガガガガァァァァァァァァンンン!!!!!


 巻き上げられた土埃が次第に晴れていくと…そこには死屍累々と倒れ伏すマンティコアの群れの姿があった。


「すごい…」

「あれだけの数を一瞬で…」

「流石は私達の国が誇る、トップランカーね」

「あれが…フランスの双子星エトワールジュメレか…」


「やれやれ…これじゃあ僕の出番がないじゃないか」

 白銀の鎧を身にまとった騎士が、二人の後を追うように、この戦場へと駆けつけた。

「あなたは…」

「ピエール卿!」

聖騎士シュヴァリエサクレの…?」

「おっと、ここでは一人の冒険者にすぎないよ。さぁ、気合を入れて乗り切ろうじゃないか!」

「「はい!!」」


「遅かったじゃない。ピエール」

「君等も今来たところだろうに」

「はいはい。挨拶はそれくらいで。ジャンのところへ行くわよ」

「了解だ」

 …

 …

「すまない。来てくれて助かった」

「当然でしょ」

「ごめんなさい。私達のいたところでも小規模な魔物氾濫スタンピードが起きてしまって…片付けるのに少し手間取ってしまったわ」

「そうだったのか…いや。それでも、よく来てくれた。感謝する」

「それで?今後の話だけど…」

「うむ。マンティコアが複数現れるなど想定外だった…」

「ってことは、それより強い魔物が出てくる可能性があるってことよね?」

「ああ。警戒してくれ」

「まぁ、僕が来たからには大船に乗ったつもりでいたまえ。どんな攻撃でも受け止めてみせよう」

「はいはい。頼りにさせてもらうわね」


「!!?」

 ゾワリ…と迷宮から強い魔力を持った存在が出てくることを感知した。


「どうやら、ゆっくり話している時間はないらしい」

「ええ。行くわよ」

 新たな魔物の出現に対処するべく、彼らは、再びダンジョンの前へと足を進めた。

 …

 …

「そんな!あれは…」

 ジャンヌの顔が青ざめる。

「知っているのかい?」

「ええ。嫌という程に…ね」

 新しくダンジョンから現れた魔物は、獅子の身体に鷲の頭と翼が特徴の魔物…

「グリフォン…」

「手短でいい。あの魔物の情報をくれ」


「以前、戦ったことがあるのよ。Aランク帯30人による集団戦闘レイドで、その半数が再起不能の大怪我を負ったわ」

「なんだって…?」

「力も速さも、マンティコアが可愛く思えるほどよ。そして、息を吸うかのように無詠唱で暴風魔法を使ってくる。身に纏う風が遠距離攻撃を完全に防ぐから、近接でダメージを与えるしか倒す手はないわね」

「ヒュウ〜…まさに化け物だね…」


 情報を伝えながら、出てきたグリフォンの様子を注意していると、グリフォンが空を見上げ、翼を拡げた。

「いけない!空を飛ばれたら、こっちからの攻撃手段がなくなる!」

「わかった。任せ給え!」

 ピエールがグリフォンへ向けて駆け出す。


挑発プロボケーション!!」


 空を眺めていたグリフォンの双眸がピエールを捉える。

「くっ…殺気だけでこれ程とは…」


「グルゥォォォォォォォォォォォ!!!!」


 雄叫びをあげたグリフォンの周りに魔力が渦巻く。


「うわぁぁぁぁ!!!」

「ぐわっ!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 実力の劣る冒険者達が、グリフォンを中心に吹き荒れる風によって吹き飛ばされてしまった。


 自分に敵意を向ける雑魚共に隙ができたことを理解したグリフォンは、今もなお自身の意識を縫い止める忌まわしい男に狙いを定め、ピエール目掛けて突進した。


 ガシィィン!!

「ぬおぉぉぉぉ!!」

 それを、構えた盾を前にして、ピエールが全身で受け止める。

「止めた!?」

「流石、言うだけのことはあるわね。私達も行くわよ!」

「OK!姉さん!」

 双子の姉妹が短剣を手に、疾走する。

 …

 …

 …

 グリフォンとの戦闘を見つめる眼差しがあった。

(へぇ〜。こっちの世界の冒険者にもなかなかやるのがいるじゃない…ふふっ。いいわぁ。あの男はどんな輝きを見せてくれるのかしら?)

 …

 …

「た、助けて!」

 グリフォンとの戦闘が繰り広げられる中、、魔物に追われながら逃げてくる赤い髪の女性冒険者の姿があった。

「何っ!?」

 声のする方を見てピエールが驚く。

御婦人マダム!僕の後ろへ!」

 ピエールが覚悟を決め、女性冒険者を呼び寄せる。

「は、はい!ありがとうございますっ!」

 ピエールに庇われる形でピエールの背後に回った女性冒険者がニヤリと笑う。


「ダメっ!ピエール!そいつ!そいつは!ダンジョンの中から出てきたのよっ!」

 警笛を鳴らすジャンヌの声と、女性冒険者が行動に移るのは同時だった。

「うふふ。もう遅いわ。強欲グリード

 いつの間にか女性冒険者の手に握られていた禍々しいナイフがピエールの背中に突き刺さる。

「ぐっ…な、何を…」

「さぁ、貴方の輝きを私に見せて頂戴」


 ガシャン!カランッカランッカランッ……


 ナイフを突き立てられたピエールの身体から眩い光が漏れ、それが収まると、剣と盾、そして一つの宝石が地面に転がっていた…

 その宝石を、無造作に拾い上げた女冒険者…シャルネ・ハーメスが、その宝石を光に翳して眺めると…

「ちぇっ…この程度の宝石クズにしかならないのか…見掛け倒しね。これなら要らないわね…でも、まぁ、使い道ならある…か」


 思ったほどの収穫は得られず、興味はなくしたようだが、ピエールだった宝石を無造作に懐へとしまい込んだ。

 女はくるりと踵を返し、一連のやり取りを見届けるかのように大人しくしているグリフォンの方へと向けて歩き出した。


(姉さん…今なら!)

(ダメ!無防備に見えるけど、完全に罠よ…)


 シャルネがグリフォンの首筋を撫で、振り向くと、中級冒険者のような格好から、高級そうな毛皮と綺羅びやかな宝石類を身に着けた姿へと変貌した。

「うふふっ。さぁ、仕切り直しね。貴女達は私を満足させてくれるのかしら?」


「お前が、魔物氾濫スタンピードを引き起こした黒幕かっ!?」

 不敵に笑う女に向かってマリーが問いかける。

「ここで死ぬ貴女達に教えてあげる義理はないわね」

「何ですって!?」

 挑発するような言い分にマリーがキレる。

「あはは…貴女いいわね。素敵よ。そうね…双子か…なら、私のイヤリングにしてあげましょうか?」

「ふざけないでっ!」


「一つ聞かせてもらえるかしら?」

 冷静に問うのはジャンヌだ。

「貴女程の実力なら、騙し討ちあんな真似などしなくてもピエールを倒せたはず…」

「魂って、人によって輝きが違うのよ」

「何を言って…?」

「その人の魂が最も美しい輝きを放つときに宝石にしたほうが綺麗な宝石になるってわけ。あの男は、か弱い女性を守ろうとする時が一番美しく輝くようだったから…ね?良い演出だったでしょう?」

「そう…わかったわ。貴女はここで殺す!」

 ジャンヌから殺気が放たれる。


「残念だけど、貴女達の相手は後。私、メインディッシュは最後に楽しむことにしてるの」

 そう言いながら、吹き飛ばされ、未だ立ち上がることのない冒険者達へ女は視線を向け、歩き出した。

「させないっ!」

 女の凶行を察知し、それを止めようと、マリーが動く。

「やめなさいっ!彼らには満足するだけの価値がないと言っていたじゃない!」

 ジャンヌが呼び止めるも、

「クズ宝石でも庭に敷き詰めるなり、使い道はあるでしょ?」

「貴女には人の心ってものがないの!?」

 女のあまりの言い分に激昂するが、それを嘲笑うかのようにグリフォンが立ち塞がった。


「少し遊んであげなさい」

「グルゥ」

 了解したとでも、答えているのだろうか?従順に従うグリフォンの姿はあの凶悪な魔獣だとはとても思えなかった。


 倒れた冒険者達を助けに行く術もなく、グリフォンを倒す手立てもなく…八方塞がりな状況にジャンヌとマリーが臍を噛む。


 その時!!


「ワォオーーーーーォォォォォンン!!!」


「何?」

「見て、姉さん…グリフォンが怯えてる?」

「そんな…グリフォンより上位の魔物が現れるってこと…?」


 目にも見えぬスピードで、何かが、蒼銀の輝きを放ちながら戦場を横切った。

 ―――――――――――――――――

 あとがき。


 ようやく、リーナ参戦です。


 またしても予告詐欺で申し訳ない…

 なかなか予定通りに進まないなぁ…


 不定期更新となってしまっていますが、もうそろそろ最後ラストが見えてきました。頑張って書き切りたいと思ってますので、お待ち下さい。


 次回こそは…

 彼女の退場は確定ですよね(仮)


『面白い』

『続きが読みたい』

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