第163話 魔物氾濫

 フランス〜シャルル・ド・ゴール広場〜冒険者ギルド、パリ支部。


「今日はどこまで行くんだ?」

「俺達は3層で鎧牛アーマードバッファロー狩りだな。お前らは?」

「2層で月光花の採取だよ」

「あ〜…あれか。確か今日は満月だったな」

「そういうこと。ま、お互い頑張ろうや」

「そうだな」


 パリ住民の憩いの場であり、観光名所でもあった、エトワール広場の凱旋門のあった場所に、空間の歪み〜ダンジョンの入口が現れてから、ここはフランスの冒険者達が集まる有名なダンジョンとなっていた。

 その規模はヨーロッパでも有数の巨大さを誇る、積層型広域ダンジョンとなっている。


 今日もギルドのパリ支部では、いつもと変わらない日常が繰り広げられていた。


 グラララララララ………


「な、なんだ?」

「地震?」

「でかいぞ!」


 …

 …

 …


 バタンッ!


「ス、魔物氾濫スタンピードだ!」


 ギルドのドアが勢いよく開かれ、飛び込んできた冒険者が慌てながら叫んでいる。


「何、馬鹿なこと言ってるんだ?」

「昼間っから夢でも見たのか?」

「凱旋門ダンジョンで魔物氾濫スタンピードなんて起こるわけないだろ」


 日頃から、大勢の冒険者が活動している凱旋門ダンジョンは頻繁に魔物が狩られているため、魔物氾濫スタンピードの発生率は低いというのが常識的な認識だ。


「う、嘘じゃない!俺は見たんだ!3層の鎧牛アーマードバッファローの群れが2層に移動するところを!」

「おい…どう思う?」

「あの口ぶり…完全な嘘ってわけじゃなさそうだけどな…」

「それでも、にわかには信じられないが…」


「その話、詳しく聞かせてもらおう」

 現れたのは、このフランス、パリ支部の冒険者ギルドを束ねるギルドマスターで、名はジャンという。

 どうやら、ざわざわと騒がしくなるギルド内の様子を見た職員が上司へと連絡したようだ。


 …

 …

 …


 冒険者の報告を聞いたジャンが思案する。

「情報に感謝する。これより、パリ全域に緊急事態警報を発令。低ランク冒険者は市民の避難と護衛を、残りの者はここで魔物の氾濫を食い止めるぞ!」

「「「おう!!!」」」


 高らかに宣言されたギルドマスターの言葉に冒険者達が応える。

「念の為、他の支部と近隣諸国の冒険者達にも、協力を要請してくれ」

「わかりました」

 ギルドマスターからの指示に、職員も応じる。

 …

 …

 …

「ギ、ギルドマスター…」

「どうした?」

 他所との連絡を取っていた職員が青ざめた顔で報告を躊躇っているようだ。

「そ、それが…近隣諸国や国内の他のダンジョンでも魔物氾濫スタンピードが起きているらしく…支援要請には答えられないと…」

「何?…」

(日本支部から、全世界的な規模の魔物氾濫スタンピードの兆候があるとの通達を受けてはいたが…まさか本当に起きるとは…)

「仕方ない。なら、ここは俺達で何とかするしかないな」

「で、ですが…」

「幸い、ここに所属する冒険者の数は多い。皆で力を合わせて乗り切るしかないだろう」

「わかりました」

 不安を拭えぬまま、ギルド職員も魔物氾濫スタンピードへの対応をするべく動き始めた。


 …

 …

 …


「くそっ!いつまで続くんだ…」

「頑張れ!前回のことを踏まえれば、終わりは近いはずだ」

「前衛は適宜交代を!ここが抜かれればパリは崩壊すると思え!」


 狼、熊、牛、犀、豹、虎、獅子…

 獣系の魔物がダンジョンの門を破壊し、続々と現れる。

 対処する冒険者達の疲労の色は濃いが、その目にはまだ力強い意志が感じられる。

 そして、ついにが現れた。


 獅子の身体に、蝙蝠の羽、尻尾は蠍のそれで、何よりも特徴的なのは、人の顔をして、人語を解するところだろう。


 マンティコア…


「来たぞ!前回はやつが現れたことで、魔物氾濫スタンピードは収束した!ここが踏ん張りどころだぞ!」

「「「応!!」」」


 前回…世界的な魔物氾濫が起きたときにもこの魔物マンティコアは確認されている。ただ、その時はこの魔獣を倒せるような戦力はなく、たった一匹の魔獣による多大な犠牲…無抵抗な市民達が喰われることで、ダンジョンが必要な魔力を確保したと判断したのか、魔物氾濫が収束したという苦い過去がある。


 だが、その時と今では状況が違う。

 冒険者達には日々研鑽を積み、魔物を屠り、レベルを上げてきた。

 今、この場にいる者はあれマンティコアに絶望する者たちではなく、意思を持って倒すだけの実力を兼ね備えている。


「いくぞ!」

 ギルドマスターの声を切っ掛けに、冒険者達がマンティコアに立ち向かう。


 …

「ぐわぁ!」

 振り払われた爪によって、数人の冒険者が弾き飛ばされた。

「負傷者は下がって!回復します!」

 回復職ヒーラーが回復魔法で負傷者を癒やす。

 その様子を見てニヤリと笑ったマンティコアが醜悪な笑顔で再び爪を振り上げた。

「任せろ!」

 巨大な盾を構えた戦士が、ガキィン!!とその爪を受け止める。

「ぐぅっ…」

 その膂力を受け止めた、戦士が歯を食いしばりながら、耐える。


 そして、自身の爪を受け止められたことに不快感を顕にする、マンティコアが次の行動に移った。

「危ないっ!」

 マンティコアの攻撃を受け止め、身動きが取れなくなっている戦士の背後から、伸びた蠍の尻尾が襲いかかった。

 だが、それは別の剣士によって食い止められる。


 ザシュッ!


 蠍の尻尾の先端の毒針は剣士によって斬り飛ばされた。


 ギャァァァ!!


 思わぬ反撃を受けたマンティコアの顔が苦痛に歪む。

 その表情を怒りに染め、

「@#$#@%&@#%=$#@&€#§¢£℃」

 その口から、聞き慣れない言葉が漏れてくる。


「魔法を使おうとしているぞ!気をつけろ!」

 マンティコアの様子を見ていた冒険者が声を上げた。

 その直後、放射的に放たれた、光と熱が冒険者達を襲った。

「ぐおっ…」

「あ、熱っ…で、でも…これくらい…ならっ!」

「押し返せぇぇぇぇ!!!」

 かつて、一度の魔法で数百人を焼き尽くしたマンティコアの閃熱魔法も、鍛えた冒険者なら耐えられないというレベルではなく…


 そして…


 振り降ろされる、剣、斧、槍、戟…

 放たれる魔法と弓矢の雨…


「ギャアァァァァァァァ!!!」


 ついにマンティコアが地に伏した。


「やった…のか?」

「やったぞ!俺達の勝利だ!」

「「「わああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


 激戦を耐え抜いた冒険者達が勝鬨を上げた。






 そして…氾濫を起こしたダンジョンへ目を向けると…


「嘘…でしょ?」


 空間の歪みから、数十体のマンティコアが姿を現した。


 魔物氾濫スタンピードはまだ終わらない…

 ―――――――――――――――――

 あとがき。


 更新が遅くなって大変申し訳ありませんでした…


 やらかしました…予告詐欺。

 真央達が強すぎるので、一般冒険者達の戦闘ってどんなもんかなと考えながら書くのはなかなか難しいですね。


 不定期更新となってしまっていますが、もうそろそろ最後ラストが見えてきました。頑張って書き切りたいと思ってますので、お待ち下さい。


 次回こそは…

 勇者パーティーの一人を登場させて戦う予定です。


『面白い』

『続きが読みたい』

 と思っていただけたなら、


 フォローや☆☆☆評価をよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る