第148話 救済

「おいおい…信者達が全員倒されてしまったぞ」

「生命活動を停止しているようではなさそうですね」

「あれが聖女様の仰られていた魔王か…」

「所詮は人間ゴミ虫よ。我らの敵ではない」

「そうやっておごっていると足元を掬われるぞ?」

「ふっ…大天使長ともあろう者が人間風情に恐れをなしていると見える」

「ウリエル!ルシフェル様は例え相手が下等な人間だといえども、油断するなと言っているのですよ!」

「獅子は兎を狩るのにも…とは言いますが…どうもルシフェル様は人間に肩入れしすぎるきらいがあるようですね…」

「そうだな。聖女様もルシフェル様のその有り様を懸念されているご様子だった」

「だから、これを我らに託されたのだろう」

 ウリエルが懐から取り出したのは、黒い炎が中で燃えているように見える水晶玉だった。

「ミカエル。ウリエルが持っているものは何だ?私は聞いていないぞ」

「ルシフェル様。あれは聖女様が、万が一の場合には信者達の救済に使うように。と託されたのです」

「聖女様が…?」

 この時、ルシフェルは自身の心の奥にチクリと刺すような痛みを覚えた。


「ルシフェル様。今がまさに、信者達へ救済を施す時だと思うのですが…よろしいでしょうか?」

「あ、ああ。そうだな」

「ではウリエル。聖女様より託された宝玉を…」

「わかったぜ」


 パリィ〜〜〜〜〜ン


 ウリエルが手に持つ水晶玉を砕く音がホール内に響くと、割れた水晶から、一瞬、黒い炎が燃え上がるように立ち上り、やがてその炎は黒い靄となってホールの中へと広がっていった。

 ――――――――――――――――

 祭壇が近づくに連れ、そこにいる5体の大天使の様子もはっきりと見えるようになってきた。


 その時、ウリエルが手に持っている水晶玉が目に入る。


「あれは…?」

 あれが何かはわからないが、あの水晶玉から禍々しい魔力を感じる。

「おにぃ?」

 俺の様子が変わったことを明璃が感じとったようだ。

「何故はわからないけど、あれはヤバい気がする」

 俺が明璃に答えた瞬間、ウリエルが手にしていた水晶玉を砕いた。


 砕かれた水晶玉から、黒い炎が燃え上がり、それはやがて黒い靄となり、ホールの中へ広がっていった。


「真央っ!」

 咲希がその異変に警戒度を高める。


 黒い靄は俺達の身体を通り抜け、ホール内に満遍なく広がったと思えば、そのまま何事も起きること無く霧散した。


「今のは一体…?みんな、無事か?」

「う、うん。特に異変はない…かな?」

「あ、ああ。何だったんだろうな…?」


 戸惑う俺達だったが、その黒い靄が齎した影響はすぐに現れた。


「ゔゔゔ…ぐぁああああ!!!」


 リリスのスキルを受けて眠りについていた信者達の様子が一変したのだ。


「な、何?」

「何?何が起きてるの?」

「みんなの様子が…」


 真っ先に変化が現れたのは、自我を失っていた宗次さんだった。


 ピシッ…ピシッ…バリリリリ!!!


 宗次さんの顔に亀裂が入る。


「何…!?あれ…!?」

「宗次さん!」

「嘘でしょ…?先生!」 


 顔面の亀裂が徐々に大きくなり、やがて身体全体が真っ二つに裂けた。

 その中から黒い影のような人影が現れる。


「あれは…まさか…」

「真央?何か知ってるの?」

「ああ。世界樹の守りについていたヴェルグから聞いていた話と似ているんだ」

「それは、世界樹に現れた襲撃者のこと?」

「ああ。人間が、影のような人型の魔物に変貌したらしい」

「そんな…助ける方法はないの?」

「わからない…」

 だが、身体が真っ二つに割れた人間が無事だとは到底思えない…


 俺達が宗次さんの変化に戸惑っていると、その変化は宗次さんだけに留まらず、全ての信者へと広がっていった。


「くそっ!やつら、ここまでするのか!」


 間違いなく、ウリエルが砕いた水晶が発端だろう。

 おそらく、あの黒い靄がを強制的に魔物へと変えるのだ。


 そうこうしているうちに、影の魔人はどんどん増えていく。


「#※%#$#※@!」

「@#%$#※%#@!!」

「$#※%@#%※$$※%#@!!!」


 最早、聞き取れないような奇声を発しながら、影の魔人達は俺達を取り囲むように動き出した。

 真っ二つに裂け、抜け殻となった人間の皮を踏みつけながら、ワラワラと集まってくる。


「ど、どうすればいいの?」

 明璃が戸惑っている。

「こうなったら倒すしかない…のか」

「真央…」

 俺の言葉に咲希も覚悟を決める。


 やがて、数百体の影の魔人は完全に俺達を包囲した。

 手に武器を持つ者もいれば、魔力の高まりを感じる者もいる。

 何かのきっかけがあれば、即座に襲いかかってくるであろう緊張感が場を支配する。


「召喚!!!!!」


 俺は、咄嗟に仲間たちを召喚する。


 ジーク、アルス、ミラ、リーナ

 幹部を筆頭に、魔法陣から数々の魔物たちが現れた。


 ――――――――――――――――


 なんだ…これは…?


 ルシフェルは眼の前で起きている光景が信じられなかった。


 大天使たちは、確かに、信者達を救済すると言っていたはずだ。

 だが、これは…

 信者達の生命活動が次々と停止していく。その後には影のような人型が産まれる。


「ミカエル!これはどういうことだ!」

 思わず、配下であるはずの大天使へ強い言葉で糾弾する。


「聖女様より、信者達を救済するようにとのことですので」

「これの…これのどこが救済だというのかっ!」

「彼らは、人という殻を脱ぎ捨て、痛み、嘆き、苦しみ、悲しみ、そのような負の感情から解放されたのです」

「バカなっ…!」

「そして、女神教の御力をその身に宿し、やがては女神様の元へと導かれ、未来永劫、女神様と一つになるのですよ」

「これが…聖女様の救済だと言うのか…」

 ルシフェルの中にある、が鳴動を始めた。


――――――――――――――――

 あとがき。


 不定期更新となってしまっていますが、最後まで書き切りたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします。


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