第147話 リリス

「宗次さん?」


 俺たちの前に立ち塞がったのは、警察に勾留されてから、行方不明となっていた宗次さんだった。


「宗次さん!何であなたがここに!?」

「ゔゔゔ…」

「先生!どうしちゃったの?」

「明璃、待て、様子がおかしいぞ!」

 駆け寄ろうとする明璃を咲希が止める。

 宗次さんには俺達の言葉が聞こえていないようだ。

 それよりも、うめき声のようなものを発している。とても正気には見えないが…


「ふはは!そいつは女神様の恩恵を拒絶した罪を認め、自らの行いを懺悔し、再び女神様の恩恵を受け入れたのだ。女神様はお赦しにならなかったがな。その男にとっては当然の報いだろう」

 神官の男が、今の宗次さんの状態について語りだした。

「なんだと?なら、お前たちが宗次さんをこんな風にしたのかっ!」


 俺が神官の男に怒りをぶつけていると、宗次さんが刀を抜いて襲いかかってきた。


 ガキィン!


 俺も竜牙刀を取り出して、斬撃を受け止める。

「くっ…宗次さん!」

「先生!やめてっ!」


 俺達の言葉は届かずに、宗次さんが一歩引いて、仕切り直す。

 だが、その後の彼の攻撃は、洗練されていた剣筋は見る影もなく、ただ乱雑に刀を振り回しているだけだった。

 今の宗次さんの攻撃には脅威を感じないが、やりにくいことには変わりない。そして、それに釣られて、他の冒険者達も武器を持ち、俺たちへ敵意を向けてきた。

「どうしたらいいの?おにぃ!」

 明璃がそれらの対処に困り、俺に聞いてくる。

「みんな被害者なんだ。さすがに全員倒して進むってわけにもいかないだろ」

「その顔は、何か考えがあるんだな?」

「ああ。少しだけ食い止めててくれ」

「わかった!」

 …

 多数の敵を無力化するなら、あいつが適任だな。

「リリス。召喚」


 魔法陣が輝き、そこから妖艶な女性が現れる。

 燃えるような赤い髪、背中には真っ黒な蝙蝠の羽があり、先端がハートの形をした尻尾が揺れている。

 主張の激しい胸と抜群のプロポーションの身体を包む衣服は、布面積が小さくて、目のやり場に困る姿なのは彼女の種族的に仕方がないことだろう。(そのように作り上げた俺が言える台詞ではないのだが…)

「呼んでくれて嬉しいわぁ。魔王様」

「リリス。早速で悪いが、こいつらを眠らせてくれ」

「ふふっ。了解よ〜。夢魔の誘い」

 軽い返事のあとに、リリスを中心にフワリと甘い香水のような香りがドームの内部に広がったかと思えば、スッとその香りは霧散した。

 まるで何事もなかったかのように…



 バタッ…バタッ…ドサッ…ドサリ…グシャッ…


 その現象が引き起こしたことは、俺達の目の前にいる数百人の人間が全員床に倒れているのを見ればわかるというものだ。

 何人かは勢いよく床に激突したような音も聞こえたが…

 リリスの夢魔の誘いによって眠らされた場合、リリスがスキルを解除しない限り、目を覚ますことはないからな…

「うふふ。いい悪夢ゆめが見れるといいわね…」


「おにぃ?これ、どういう事?」

 突然のことに、明璃は困惑気味で、

「説明してくれるんだよな?真央?」

 俺が呼んだ魔物リリスの姿を見た咲希の圧がちょっと怖い。


 ――――――――――――――――

【名前】リリス・ナイトメア

【種族】悪夢の淫魔ナイトメアサキュバス

【LV】850

【HP】21300/21300

【SP】80000/80000

【力】2100

【知恵】8000

【体力】2200

【精神】8500

【速さ】2800

【運】

【スキル】

 夢魔の誘い、永眠の柩、魅了チャーム精力吸収エナジードレイン、闇魔法、魔力同調、魔力収束、

 超再生、HP自動回復、HP回復量増加、SP自動回復、SP回復量増加

 念話、言語理解、気配察知、魔力感知、並列思考、高速思考、無詠唱、催淫、睡眠耐性貫通、

 物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効


 ――――――――――――――――

 咲希の様子に気づいたリリスが、悪戯を思いつたような顔をして、咲希に近づいていく。

「貴女が咲希さんね!会いたかったわぁ!」

「わっ!」

 突然抱きつかれた咲希が吃驚ビックリしている。

 そして、リリスが咲希の耳元で、ごにょごにょごにょと何かを囁くと、

 ボンッ!という音がしそうな勢いで、咲希の顔が真っ赤になってしまった。

「うふふ!可愛いわぁ!!」


「おい、リリス!咲希に変なことを吹き込むんじゃない!」

「あら!に知識は必要でしょ」

「今じゃなくていいだろ!」

「なら、今度は魔王様の寝室に呼んでくださいね♡」

「断る!リリス、送還」

「あん!もう〜…魔王様のい・け・ず」

 若干頭に痛みを覚えるが、リリスは魔法陣に消えていった。


 ちなみに俺の名誉のために言っておくが、魔物たちは俺の大切な家族だからな。になったことはない。


「咲希?大丈夫か?」

「にゃ、にゃんでもない!私は大丈夫だぞ!」

 大丈夫そうには見えないぞ?


「ちょっと!おにぃもサキ姉も!イチャついてないでさ!まだ敵はいるんだよ?」

「お、おう。ごめん明璃…」

 イチャついてたつもりはないんだが…

 まさか明璃に窘められる日が来るとはなぁ…


「明璃殿。魔王様も奥方様もそれがしが守りについている以上、傷一つつけさせるつもりはないので、御安心くだされ」

 ジークが明璃を安心させるように話しかけた。

「むぅ。わかってはいるんだけどさ…」


 緩んだ気を引き締めて、この場に残っている敵に目を向ける。

 祭壇にいる、大天使が5体。その姿から察すると、

 ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルだろうな。

 そして、真ん中にいるのが大天使長ルシフェルか。

 思わず、ニヤリと笑みが浮かんでしまう。


(嗚呼…やっぱりここにいたか。悪魔系ダンジョンをどれだけ探してもいなかったからな…)


 俺達はアルスを分裂させて、寝ている人間達を戦いの邪魔にならないように退避させ、祭壇に向かって歩き出した。


 ――――――――――――――――

 あとがき。


 咲希がどんなことを言われたのかは内緒ですw


 不定期更新となってしまっていますが、最後まで書き切りたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします。


『面白い』

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