第146話 礼拝堂

「て、天使の軍勢が、ぜ、全滅したようです…」

 恐る恐る、事実を報告する女神教の信者の男の声が震えている。


「ちっ!忌々しい魔王め…」

 まるで玉座かと見間違えるような豪華な椅子に座りながら、悪態をつきながら舌を打つのは女神教にて聖女と呼ばれている女だ。

「それで?やつらは今どこに?」


「は、はい。竜に乗って、下層より吹き抜けを通って、現在、礼拝堂へと到達したようでして…」

「礼拝堂…今の時間ですと、信者達が祈りを捧げているはずですよね?」

「は、はい」

「なら、この先は関係者以外立ち入り禁止だと伝えて、お引取願いましょう。貴方、それを伝えてくださる?」

「それで、奴らは帰りますでしょうか?」

「その場合は力で排除することもやぶさかではありませんね」

「ですが、それでは、信者達に犠牲が…」

「心配いりません。礼拝堂で守りについている大天使には秘策を授けてあります」

「秘策…ですか?」

「ええ。万が一の場合には、信者達に女神様の加護を与えるためのアイテムを渡してあります。安心なさい」

「なるほど。わかりました。聖女様の御慈悲に感謝いたします」

 聖女から秘策の話を聞いた男は、侵入者への対処をするべく部屋を出て、礼拝堂へと繋がる魔法陣の上に乗り、それを起動させた。


(礼拝堂にいる信者達もそろそろ女神様の御力に馴染んだはず…なら、刈り取りの時期かしらね…女神様降臨のための生贄になってもらわないと…)

 元より、異世界の人間など、女神様のための生贄としか思っていない聖女が思案する。

(魔王が信者達を虐殺するようなことになれば、その様子を全世界へ発信してしまえばいい。そうすれば魔王は世界の敵となる…更には死した信者は女神様降臨のための贄となる…まさに一石二鳥ですね)

「ふふっ」

 思いついた良案に、聖女の口から笑みが溢れる。

(女神様から授かった、福音スキル“色欲”による魅了なら、いくらでも生贄信者は増やせますが…今、魔王に邪魔されるのは面白くありませんからね…)


 一人残った部屋の中で、この先の未来の絵図を思い浮かべながら、聖女は嗤うのだった。


 ――――――――――――――――


 ドカァーン!


「キャアァァァ!!」

「うわぁぁぁ!!」

「な、なんだ!?」

「何が起きた!?」

 突然床が抜けたたことで、大騒ぎになっている。


 土煙がもうもうと上がる中から現れたのは、黄金の竜。

 その背から3人の人影が降りてくる。


「ここは?」

 降り立った部屋は、とても広いドーム状の空間で、色とりどりのステンドグラスから光が差し込んでいる。


 そして、神官服を着た者や、簡素な貫頭衣を身に着けたもの、冒険者の装備をした者達など、ざっと見渡して数百人の人間がいた。

 騒ぎ立てているのは俺たちに近いところにいる者たちで、離れた場所にいる人間はそのような騒ぎなど耳に入らないのか、床に跪き、一心不乱に祈りを捧げている。


 さらに、ドームの一番奥には、祭壇のようなものがあり、その中心にはクソ女神ルフィアかたどった像が見える。そして、巨大な天使が5体。その女神像を囲むような配置で仁王立ちしていた。


「女神教の礼拝堂ってところか」

「なるほど。言われてみれば確かにそんな感じだな」

 咲希が俺の言葉に頷く。

 大勢の人間が俺達を遠巻きに見て、戸惑っているようなので、俺は明璃に頼み事をする。

「明璃、こいつらのステータス、鑑定できるか?」

「え?わかった。やってみるね。鑑定…」

 …

 …

 …

「わ!おにぃ!この人達、全員、“魅了”の状態異常にかかってる!」

「魅了…か。やっぱりな…狂信ってやつはいないか?」

「狂信?…ん〜…とりあえず、今見えてる人の中にはいないかな。でも、この魅了の後ろに(色欲)って出てるのは何だろ?」

「色欲だと!?」

「知ってるの?」

「ああ。色欲ってのは、7つある大罪スキルの一つだ」

「大罪スキル…なんか凄そうだね…」

 大罪スキルは人間専用の唯一ユニークスキルだから、魔王の権能でスキルの効果は確認できても、魔物に付与することはできなかったんだよな。


 色欲による魅了は、通常の魅了や洗脳と違って、基本的には術者を倒さない限り解けないので厄介だな…

 いや、日本の国民の大多数が魅了の影響下にある今となっては、むしろ好都合か?


 よし!なら、やることは決まりだな。

 このダンジョンの何処かにいる、色欲使いを倒す。

 ついでにこのダンジョンも消滅させてしまえればベストだな。


 とすると、まずはここを抜けなければいけないわけだが…狂信者がいないとなると、この人達も女神教の被害者だ。

 なら、全員倒して進むってわけにもいかないな…


 俺がこの先をどうやって進むか悩んでいると、一人の神官服を纏った男が俺達の前に進み出てきた。


「貴方達は、新たに女神教へと入信なさった方々ですか?このような強引な手段でここに来ていただいては困りますので、きちんと手続きをしてください」

「いや…俺達は…」

 俺が言葉を濁していると、

「まさか…信者ではない…と?」

 ニヤリと笑う男の表情を見ると、とうやら、俺達の素性は知っていたようだ。

「此処から先は、関係者以外立ち入り禁止となっておりますので、お引取ください。入信するというのならば歓迎いたしますが…」

 神官の言葉を遮るように、俺が主張する。

「いや、俺達は冒険者だ。冒険者にはダンジョンを攻略する権利がある!」

「それはおかしなことを言いますね?」

「おかしなことだと…?」

「このダンジョンは完全に管理されているので、魔物氾濫スタンピードの可能性はありません。冒険者ギルドには、攻略対象から除外するよう通達がされているはずですが…?」

 そんな話は聞いたことがないが…よく考えると、俺は今、冒険者資格が失効している状態で、ギルドも信頼できないと考えているため、冒険者ギルドには顔を出していない。


「どうするの?おにぃ…」

「そうだな…」

 向こうの言い分はおそらく正当性があるんだろう…だが、このままここを放置するわけにもいかない。

「そうか。どうしても道を開けないというなら、押し通るまでだな!」


「なっ!野蛮な!武装している者は前に出て、こ奴らの暴挙を食い止めなさい!」

 神官が号令を発すると、冒険者の装備をした者たちが、ゾロゾロと俺達の前に立ち塞がった。


 そして、俺は、その中に、見知った顔を見つける。


「宗次さん…?」

 ――――――――――――――――

 あとがき。


 異世界では欲望を司る大罪スキルを福音スキルと呼んでいます。



 更新が遅くなってしまいまして、申し訳ありません…

 不定期更新となってしまっていますが、最後まで書き切りたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします。


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『続きが読みたい』

 と思っていただけたなら、


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