第145話 突入

 俺達が女神教の本部への進入方法を考えていたところで、ヴェルグから念話が届いた。

(魔王様。世界樹を狙う襲撃者が現れました)

(来たか。それで?)

(はい。シルヴィと共に撃退したのでご安心を…ただ…)

(ただ…?何があったのか?)

(襲撃してきた人間が、女神の魔力を帯びた魔人へと変異しました)

(わかった。こっちも気をつけるとしよう。引き続き、護衛は任せたぞ)

(はっ!)


「おにぃ?何かあったの?」

 念話に集中していたため、しばらく黙り込んでしまっていた俺が心配になったのか、明璃が声をかけてきた。

「世界樹のほうに襲撃者が現れたらしい」

「えっ!?」

「大丈夫なの?」

「ああ。ヴェルグ達が撃退したそうだ」

「そっか…」

女神教あっちも動いたってことは、あまり悠長にしてる間はなさそうだな」

 世界樹の襲撃の話を聞いた俺は、女神教の本拠地であるこのダンジョンの攻略をなりふり構わずに急ぐことに決めた。

「召喚。レオンカイザー!」


 大きな魔法陣から現れた、オリハルコンの巨人に命令する。

「門ごと、たたっ斬れ!」

「え!?」

「ちょっと!?おにぃ?」

「了解シマシタ!」

 輝煌剣を上段に掲げたレオンカイザーが、ダンジョンの門に向かって振り下ろす。


 ズガァァァァァァァン!!


 もうもうと土煙をあげながら、ダンジョンの門が破壊された。

「よし」


 パコーン!


「痛っ」

「何がよし!よ!門、壊しちゃって!」

「どうせ攻略しちゃえばダンジョンは消えるから問題ないだろ?」

「敵に気づかれるでしょ!?」

「どうせ全部倒すつもりなんだから問題無い」

「うわ…脳筋の発言だ…」

 ――――――――――――――――

 その頃、最上階では…


 ズガァァァァァァァン!!


「何事ですか!?騒々しい!」

「ここへ侵入者が現れたようです!」

「侵入者?契約書は?」

「それが、契約せずに門を壊して強引に侵入してきた様でして…」

「なんですって?映像をこちらに回しなさい!」

「はっ!」


 …


「これは…まさか…魔王自ら乗り込んできた?」

「あの…聖女様…?」

「いえ、何でもありません」

(飛んで火に入る夏の虫とはこのことですね)

「全ての天使を迎撃に向かわせなさい」

「全ての…ですか?」

「二度も言わせるつもりですか?」

「も、申し訳ありません!すぐに手配いたします!」


 鬼気迫るような聖女の命令を受けた信者の一人が退室していった。


 ――――――――――――――――


「いくぞ!」

 明璃の言葉は無視スルーして、ダンジョンへと足を向けた。

 壊れた門の先にはマーブル模様の渦がある。これがダンジョンの入り口だ。

 ダンジョン内に入ると、清潔感あふれる真っ白な壁と床。広い空間が目に入ってきた。

「すごい…」

「こんな綺麗なダンジョンもあるんだね…」


 元々は高層ビルだったダンジョンは吹き抜けの塔型になっていて、おそらく、ここの最上階には女神教の幹部達がいるのだろう。

「レオンはここで待機だ。魔物が外に出ないように見張っていてくれ」

「了解デス」


「さて、おいでなすったぞ」

真央あんたが門を壊すからでしょうが!」

 広いホールの吹き抜けは天井すら見えないほど、ここは高い塔なのだろう。その上層から、羽の生えた人間のような魔物が大量に降りてくる。

「ここの敵は天使系か…しかし、いきなり熾天使セラフまでいるとはな…」

「おにぃ、熾天使セラフって?」

「天使には位階があってな、熾天使セラフってのはその1位、あの上の方にいる6枚羽のやつだ」

「1位!?」

「まぁ、今の俺たちからしてみたら、そんなに警戒するほどの相手でもないよ」

「そっか…それにしても、すごい数だね」

「もしかしたら、ダンジョン内の全ての天使が集まっているのかもな…」

「う〜…空飛ぶ敵は苦手なんだよなぁ…」

 明璃は弓を構えながら上空の天使達に狙いをつける。

 咲希は闘気弾で迎撃するつもりのようだ。

 そして、俺は…

「ジーク!召喚来い!」


 魔法陣からジークが現れる。

「ほぅ。羽虫が湧いてますな」

「焼き払ってくれ」

「お任せくだされ」

 ジークの身体が黄金の竜へと変わる。


「ゴハァァァァァァァァ!!!」


 ジークの口から放たれた、竜息吹ドラゴンブレスが天使の群れを焼き尽くす。


「わ、私達がいる意味って…」

「うん。わかってる…おにぃだからね…」


「何してるんだ?先へ進むぞ?」


「あ、うん。今行くよ」

「考えてもしょうがないね…」


 半ば呆れているような、咲希と明璃だったが、気にせずに、先を急ぐことにする。

「ジーク!このまま行けるか?」

「問題ないかと」

「よし、なら頼む」

「お任せくだされ」


 竜化したジークの背に俺達を乗せてもらい、この吹き抜けを上層階まで突破するつもりだ。


「うわぁ…まさかドラゴンの背に乗る日が来るなんて…」

「ほんと。冒険者になってから考えたこともなかった経験ね」

「じゃあ、ジーク、頼んだ」

 俺達を背に乗せたジークの身体がフワリと浮き上がる。


 その静かで滑らかな飛翔に、咲希と明璃が驚いているので、

「飛竜や翼竜と違って、上位竜は翼で飛んでるわけじゃないからな」

 俺は少し竜について説明をする。

「そうなの?」

「ああ。翼だけで飛ぶには、身体が大きすぎるからな。ほとんどの竜は竜言語魔法で飛んでるんだよ」

「へぇ〜」

「だから、猛スピードで飛んでても、風の影響とか感じないだろ?」

「なるほど」


 呑気な会話を繰り広げている俺達だったが、襲いかかってくる天使達の攻撃が止んだわけではなく、今もなお、夥しいほどの数の天使の群れが行く手を阻もうとしている。


 前面の敵は竜息吹ドラゴンブレスによって消し炭と化し、

 側面や背後から襲いかかろうとしている者は、竜言語魔法によって操作された気流が風の刃となり、その肉体を細切れになる迄切り刻まれて落ちていった。


 何人なんぴとたりとも、竜の王の飛翔を阻むことはできないのだ。


 地上から飛び立ち、行く手を阻む天使を殲滅しながら、およそ数分でついに吹き抜けの天井が見えてきた。


「おにぃ、あそこに通路があるよ!」

 吹き抜けの天井は行き止まりとなっており、明璃が指さした先に見える通路を進んだ先でダンジョンの上層へと登る階段を探さなければならないだろう。


 この吹き抜けには各階層へと繋がる通路があり、俺達に襲いかかってきた天使達は、各階層からこの吹き抜けへと出てきたのだと思われる。

 上級天使から下級天使までが一斉に襲いかかってきたのはそれが理由だろう。


 だが、ここから迷宮部へと入り、階段を探す時間すら惜しいと思った俺は、ジークへ命令する。

「ジーク!」

「はっ!」

 ジークの絶対切断の能力を使った風の刃が吹き抜けの天井を切断した。


 塔型や建物型のダンジョンの場合、床や天井を破壊して、先の階層に進むことは可能なのだ。

 もっとも、生半可な力ではダンジョンの壁を壊すことはできないはずだが、ジークの絶対切断はそれを可能としている。


 そして、ポッカリと開いた天井の穴から、俺達はこのダンジョンの上層階と思われる部屋へ進入した。


 ――――――――――――――――

 あとがき。


 更新が遅くなってしまいまして、申し訳ありません…


 不定期更新となってしまっていますが、最後まで書き切りたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします。


『面白い』

『続きが読みたい』

 と思っていただけたなら、


 フォローや☆☆☆評価をよろしくお願いします。

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