第143話 治療法の発表

 女神教のダンジョンへと行く前に、レベルアップポーションの治療に関して、施設に紹介するために、宗次さんを迎えに行った。


 そこに待っていたのは、宗次さんと、被害にあった生徒達の他に、

「すみませんね、このバカが迷惑かけて…」

「ほら、リーダー。ちゃんと礼を言ったか?」

「全くですよ!私達がどれだけ心配したと思ってるんですか!」

 緋色の刃の面々が宗次さんを取り囲んでいた。


「いや、すまない…みんなにもかなり迷惑かけたな…」


「ある日突然、性格がかわったみたいになって、私達のことなんて無視してましたからね!」

「心配になって声をかけるたびに、うるさい!って言われて追い返される私達の気持ちわかります?」

「そんな矢先にあんな事件を引き起こすものだからな…もう俺達ではどうすることもできないのかと、諦めかけたものだ」

 そりゃあ、同じチームのメンバーがああなれば心配するよな…

 仲間からの非難は甘んじて受け止めてもらおう。

「返す言葉もない…本当にすまなかった…」


「まぁ、そのくらいにしてあげてください。宗次さんはこれから、他にもレベルアップポーションを飲んでしまった人達の治療に貢献してもらいますから」

「そうね。しっかりやりなさいよリーダー」

「そうですよ。あのポーションが原因だったとはいえ、自分のしたことの責任は取らないと!」

「そうだぞ、リーダー。迷惑かけた分はみんなに返さないとな」

「わかってるさ。俺にできることなら、何でもするつもりだ」


 俺は、宗次さんと、生徒達を連れて、世界樹の下へと転移した。

「では、美智子さん、後はお願いしますね」

「ええ。わかりました」

 …

 そして、後日。

 レベルアップポーションを飲んだことにより、生徒たちに殺し合いをさせた教師が、その罪を認め、それがレベルアップポーションの影響であったこと、そして、その影響から解放されるための治療法が存在することが竜咲グループの医療チームから発表され、その内容が世間に激震を走らせた。


 ――――――――――――――――

「失礼する。こちらに織田宗次さんがいるはずだが…」

 竜咲グループのレベルアップポーション治療施設に刑事が訪れた。

「織田宗次は私です…」

「あなたには殺人教唆の容疑がかけられています。ご同行願えますか?」

「…わかりました…」

「いいんですか?生徒達は助かったじゃないですか!?」

「助けられなかった命もある…それは全て俺の責任だ…最後まで治療のデータとして役に立てなくてすまないな…」

 宗次さんは自らの罪に向き合うために、大人しく刑事さんに同行し逮捕された。

 …

 ガチャリ。

「これは一体?」

 取調室で身柄を拘束され、さらに椅子に縛り付けられた宗次さんが訝しげに刑事に質問を投げかける。

「高位の冒険者に暴れられたら、我々一般人はひとたまりもないのでね。必要な措置だと思ってくれ」

「そういうことなら…わかりました」

「さて…今回の君の罪は、生徒達に殺し合いを命じたことによる。殺人罪の教唆ということになるのだが…」

「はい。間違いありません」

「ふむ。すんなりと認めるか…結構。そして、罪はもう一つある」

「もう一つ…ですか?」

「女神様の恩恵を拒絶した罪だ!」

「な!…何を…!?」

「安心したまえ。女神様は寛容だ」

 刑事が小瓶を取り出す。

「そ…それは…まさか…嫌だ!やめろっ!やめてくれ!!!」


(どうして?先生だって…嫌がる私に無理矢理飲ませたじゃない…)

「う、内田?」

 宗次の深層心理に残っていた罪悪感が、幻聴を聞かせた。

「そうか…そうだな…これは、俺に与えられた罰か…」

 ゴクリ。

 宗次は刑事が取り出した小瓶の中身を飲み込む。

「真央くん…願わくば、俺が誰かに害をなす前に俺を終わらせてくれ…」


 宗次の意識は再び闇の中に囚われた…


 ――――――――――――――――

 レベルアップポーションの治療法があるという発表は女神教にも伝わっていた。


「女神様の恩恵を治療だの、浄化だのと…この世界の者共の愚かしさは許せませんね…」

 聖女と呼ばれている、この教団のトップの女が顔を歪めながら怒りを隠そうともしない姿に、側近たちは震え上がっている。

「あの3人を呼びなさい」

「はっ!ですが…あの3人はもう役には立たないかと思われますが…」

 ギロリ。

 聖女の命に、口答えをした側近がその視線に言葉を飲み込む。

「も、申し訳ありません!た、ただいま連れてまいります!」


 部屋を出ていく信者の一人に対して、聖女は、やはりこちらの世界の人間は使えないわね…とため息を吐いた。


「ううう…」

「ぐがが…」

「ぎぎぎ…」


「連れてまいりました!」

「ご苦労様。あなたは下がっていいわよ」

「はっ!失礼いたします!」


 聖女の元へと連れてこられたのは、かつて、チーム皇帝と呼ばれていた、ドレイク、ファルコン、クルーマーの3人だった。だが、その口から理性的な言葉はもう出てこない。レベルアップポーションの侵食は彼らの人格を消し去ってしまったのだ。


「貴方達に命じます。忌まわしい、世界樹と呼ばれる樹を切り倒してきなさい!それを成し遂げたのなら、貴方達は女神様の御下へと導かれるでしょう」


 返事はないが、3人は踵を返し、部屋から出ていった。


 ――――――――――――――――

 あとがき。


 宗次さんは、事件後、ダンジョン内で治療されていたことと、関係者は全員死亡したものと思われていたため、治療法の発表で表舞台に出てきたことで逮捕されることになりました。


 更新は不定期になってしまっていますが、最後まで、書き切りたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします。


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