第141話 植樹

「そういうことでしたら、わたくしが力になれるかもしれませんわ。竜咲グループにも医療施設はありますから」

「いいのか?」

 麗華からの申し出に対して、確認する。

「ええ。レベルアップポーションは危険な物ですわ。治療できる方法があるなら、否はありませんわよ」

「わ、私からもお願いします!」

 美智子さんもその提案を強く希望しているようだ。

「わかった。そういうことなら頼めるか?一応、世界樹の護衛と世話役はこちらから出すつもりでいるけど…」

「護衛と世話役…ですか?」

「世界樹がレベルアップポーションの治療に使えるとなれば、女神教が排除に動くかもしれないからな…」

「ああ、そういうことですのね…では、後ほど、紹介してくださるかしら?」

「わかった」

 それだけの取り決めをすると、麗華はどこかへと連絡をし、早々に許可を貰ったようだった。 


「あの…真央さん?世界樹の移植と管理については問題ないとのことなのですけれど、お父様が貴方にお会いしたいと仰ってまして…」

「麗華の父親が?」

「はい。断ってくださっても構わないのですけれど…」

「いや、世界樹の件で迷惑かける事になるかもしれないからな…いつでもいいって伝えてくれるか?」

「わかりましたわ」

 …

 それから数日後…

「これが、病院?」

「すごいわね…」

「さすが竜咲グループってとこだね…」

 俺と咲希、明璃の3人で麗華に言われた場所へとやって来た。

 俺達の目の前に広がるのは広大な敷地の中に数々の真っ白い建物が立ち並んでいる光景だ。

「あ!真央さん!お待ちしておりましたわ」 

 麗華が俺達を迎えてくれて、世界樹を植える予定の場所へと案内してくれた。

「こちらですわ」

 …

 暫く広い敷地の中を歩いていくと、まさに今建設中と言わんばかりの真新しい病棟の前の大きな広場へ到着した。

「やぁ!よく来てくれたね。待ってたよ」

 そこで待っていたのは、ピシッとしたスーツ姿に、似合わないヘルメットを被った紳士だった。


「お父様!どうしてここに?後で案内しますと申し上げていたでしょう?」

「いや、すまんな。麗華。どうしても早く真央くんに会いたくなってしまってね。それに、現場を視察するのも大事な役目だろう?」

「それはそうですけど…」

 若干、呆れたような視線を麗華が眼の前の男に向けるが、何を言っても無駄だと悟ったのだろう。諦めて、その後の言葉は飲み込んだようだった。

「麗華、もしかして…この人が?」

「ええ。今の会話からわかるかもしれませんが、わたくしのお父様ですわ」

 そっと耳打ちをするように、隣の麗華に小声で尋ねると、麗華は頭痛を抑えるように額に手を当てながら、答えてくれた。


 俺達の様子を見ていた男は、待ち切れないとばかりに手を差し伸べ、

「やぁ、わざわざすまないね。私が麗華の父親の、竜咲光臣みつおみだ」

 と自己紹介をする。

「あ、どうも。獅童真央です」

 そう応えて、差し伸べられた手を握った。

「真央くんには、うちの麗華が随分とお世話になったようだね」

「いえ、そんな…大したことはしてないと思いますよ」

「謙遜しなくてもいい。麗華がドラゴンに挑んで、敗退したときは肝を冷やしたものだよ。そして、また再戦すると聞いたときの私の気持ちがわかるかい?」

「それは…」

「だが、見事に再挑戦リベンジを成功させたと聞いて安心した。聞けば、君の助力あってのことだと言われてね。おかげで娘は一回りも二回りも成長したようだ。本当にありがとう」

 こうも手放しで褒められると、どう対応していいかわからなくなるけれど、感謝されて、照れくさくはあったけど、悪い気はしなかった。


「総帥…」

 光臣さんの後ろに控えている、秘書?の女性が、話を切り上げるかのように声をかけてきた。

「おっと…すまない。あまり時間が取れなくてね…積もる話は後にして、今日の目的を果たそうじゃないか」

 そう言った、光臣さんが移動を始めた。

 …

「言われた通りの条件だと思うけど、ここにお願いできるかな?」

 連れてこられた場所は病棟に囲まれた広場で、

『植樹予定地』

 と書かれた看板が立っている。

「はい。大丈夫です。では、やりますね」

 俺はエリーティアを召喚する。


 魔法陣が輝き、そこから美しい一人の女性が現れる。

「…」

 初めて見る召喚に、光臣さんや秘書さんは息を飲んだ。

「じゃあ、エリー。頼んだよ」

「お任せくださいな」

 そう言って微笑んだ、ハイエルフの女王に、周りにいた作業員が顔を赤らめているのが目に入ったが、さもありなん。といった感じだな。


大地鳴動ガイアコントロール!」

 エリーの魔法によって、地面にぽっかりと大穴が開く。

「アルス、出してくれ」

「は〜い」

 次元収納から、保護されている世界樹を取り出して、地面の穴に合わせて置く。


 ズドォーーーーン


 あの時、苗木だったはずの世界樹も今では、幹の直径が2mくらいの大木になっている。

 まぁ、世界樹は成長すると、その直径が100mを超えるので、まだまだ苗木と言えるのだが…


 今回はその成長のことも含めて伝えてあるのだが、あまり世界樹から離れると浄化の効果が得られないため、植樹した世界樹の周りに急遽、病棟を建設してもらったという運びだ。

 ゆくゆくはこの病棟は世界樹の成長とともに移動させる計画になっている。


「これが世界樹…」

「すごい…」

「あの時はまだ苗木だったのに…」

「こんなに大きくなってるのね…」


 各々が世界樹に対しての感想を呟いていた。


森の精霊ドライアド水の精霊ウンディーネ!」

 エリーが森の精霊と水の精霊に呼びかける。

 緑色の髪に、茨の冠を載せた、緑色のドレスを着た女性と、

 水色の髪に水色のドレス、その背に薄水色の羽衣を纏った女性が現れる。

 森の精霊ドライアドが世界樹の根を大地へ根付かせ、水の精霊ウンディーネがその根に魔力が豊富に含まれた水を注ぐ。

 ざわざわと世界樹の葉が揺れ、まるで喜んでいるかのように見えた。太陽の光を浴び、キラキラと輝く世界樹を見上げるみんなの目からは、神秘的な光景を目の当たりにしたことで感動しているのがわかる。


 仕上げに、掘られた穴へ土を被せ、しっかりと固まったことを確認すると、エリーも満足気に、精霊たちを精霊界へと送り返した。


「さて、それじゃ最後の仕上げだな」

 俺はそう言いながら、仲間を召喚する。

召喚来い、シルヴィ。ヴェルグ!」

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