第140話 情報整理
「それで、みんなはどうしてここに?」
「うん…それがね、ダンジョンの魔物が実体化したんだ…」
「うむ。その報告を受けて今後の対策を考えるべきかと思うてな…」
「なるほど…なら、俺と同じですね」
「なるほどのぅ。真央くんもそれに気づいて帰ってきたというわけか」
「おにぃは、今までどこで何をしてたわけ?連絡もなしでさ!」
明璃がちょっと怒っているようだ。
「ああ、悪い…日本のダンジョンには入れなくなってたみたいだからさ、海外に行ってた」
「え?」
「そうか…
「そういうこと」
「海外…?もしや…?」
「おじいちゃん、何か知ってるの?」
「いや、噂で世界中のあちこちで
そう言いながら、神崎会長が真央の方に視線を向けると、
「あはは…」
と真央が苦笑した。
「はぁ…やっぱり真央くんじゃったか…」
「
「魔力感知しながら、ジークに乗って高速で移動してると、結構見つかるもんだったな」
「おそらく、ダンジョンが成長している結果じゃろう」
「そうですね…ダンジョンが成長すると
「そして、ついに魔物の実体化まで起きるようになった…ということじゃ」
「そのことなんですが、魔物の実体化が起きたということは、異世界と繋がったと考えるべきです。何か異変はありませんか?」
「関係があるかはわからんが、真央くんは女神教というものを知っておるか?」
「女神教…異世界にそう名乗る団体はいましたが…もしかして?」
「うむ。こちらの世界で急速に信者を増やしておるのじゃ」
「そうですか…あの
「少し前に、日本の総理が暗殺されるという事件が起きたんじゃが…」
「総理が暗殺!?」
「やはり、知らなんだか…」
「すいません…ダンジョンにかかりっきりだったもんですから…」
「その犯人はレベルアップポーションの依存者でな、政府がレベルアップポーションを規制する方向に舵を切ったことが、犯行の動機だったそうじゃ…」
「レベルアップポーションを規制ですか?」
「うむ。冒険者学校での惨劇を皮切りに、レベルアップポーション服用者による事件が多発したことで、ようやく政府が重い腰を上げたのじゃよ」
「冒険者学校での惨劇…ああ、そのことでしたら…」
「それは知っておったのか?」
「ええ。連絡を受けてましたから。その事件の被害者は全員蘇生させて、レベルアップポーションの影響も治療しておきました」
「なんじゃと!?」
俺の唐突な報告に神崎会長も目を見開いて驚いている。
「ちょ、ちょっと待って!レベルアップポーションの影響を治療?治療できるんですか!?」
俺の説明に食い気味に入ってきたのは、たしか、美智子さんだったかな?
「え〜っと…美智子さん?目が覚めたんですね?よかった…」
「あ、はい。その節はご迷惑をおかけしました…いや、それよりも!レベルアップポーションの治療ってどういうことなのか、教えてもらえますか!?」
「え〜っと…」
俺が美智子さんの剣幕に戸惑っていると…
「美智子さんは、早乙女博士が広めてしまったレベルアップポーションの撲滅に力を注ぐことを決意したんですよ」
と、里奈から補足説明が入った。
「ああ、そういうことか…なら、ドルフ、彼を連れてきてくれ」
俺がそう言うと、影の中から、一人の少年を連れてドルフが現れた。
「貴志!」
現れた少年を見た小夜が声をあげ、少年を抱きしめた。
「大丈夫なの?身体はなんともない?」
「姉さん…苦しい…」
「あっ!ごめん…」
力を緩め、そっと抱擁をやめるが、その手はもう離さないとばかりに握られたままだ。
「彼もレベルアップポーションを飲んでしまったみたいなので、今回、治療して、完治してます」
「真央…ありがとう」
「そうなんですね…それで、治療方法は…」
「冒険者学校の演習ダンジョンにあった世界樹には邪悪な力を浄化する能力があるんですよ。その力で体内の女神の魔力を浄化することで、レベルアップポーションの影響をなくすことができたんです」
「世界樹…」
「ね、ねぇ、真央。あった…ってことは今はもうないってこと?」
「ここに来る前に、演習ダンジョンは消してきたからな」
「そんな…」
俺の言葉に美智子さんが絶望するような表情に変わった。
「あ!いや、世界樹は植え替えようと思って、保護して持ってきてますよ。会長、どこかいい場所ないですかね?」
「ふむ…そういうことなら、ギルド本部の総合医療施設がいいとは思うが…」
「何か問題があるんですか?」
「今や、ダンジョン協会や冒険者ギルドには政府の手が入っておってな…」
「今の政府に問題が?」
「うむ。さっきも言ったが、総理が暗殺されたことで、解散総選挙が行われたんじゃが…そこで、政権の交代が起こったのじゃよ」
「政権の交代ですか?そんな有力な政党ありましたか?」
「そこに女神教が関わっておるんじゃよ。新政権は全面的に女神教の支持を得ておるんじゃ」
「女神教が…」
「今回の選挙の争点は、レベルアップポーションについてじゃった。前政権がそれを規制したことで、総理が暗殺された。その意思を継いで、あれは規制されるべきだと訴えた」
「世論も、あれは危険だと認識していて、飲んだ人間は犯罪者のように見られてましたね」
「魔女狩りじゃないけど、そうとう非難されてたもんね」
「でも、レベルアップポーションを飲んでいる人達は総じて高レベルになっているから、反撃されると怖いから、武力衝突みたいにはならなかったんだけどね」
「そこで現れたのが女神教じゃ。奴らは、レベルアップポーションは神の恩恵で、正しく導かれれば道を踏み外すことはないと主張し、レベルアップポーションの使用者達を擁護し始めたのじゃよ」
「そんな話をみんなは信じたんですか?実際に事件が起きているのに?」
「それがね、女神教が現れてから、レベルアップポーション服用者の犯罪が全くと言っていいほどなくなったのよ」
「なるほど…元々が女神の魔力が原因なんだから、女神教なら、それを操る術があるのかもしれませんね…」
「まぁ、どうやっているのかはわからんが、犯罪が減ったという事実が支持を集め始めたのは間違いない」
「でも、そんなことくらいで政権が代わるほどの支持を得られますかね?」
「それは儂も疑問に思っておってな、調べてみると、怪しい噂がみつかったのじゃ」
「怪しい噂?」
「女神教の説法を聞いた者は、考え方が180度変わるくらいに女神教を支持するようになるらしい…」
「それは…」
「うむ。真央くんに聞きたいんじゃが、人の心を操るようなスキルは存在するのじゃろうか?」
「…ありますね」
「やはりか…」
どうやら、思った以上に異世界の侵攻が進んでいるらしい。
「そういうわけで、女神教が背後にいる現政権が、ダンジョン協会や冒険者ギルドに手を伸ばしておるんじゃ、そこに世界樹を植えるというのは危険じゃと思う」
「そうですね…」
「そういうことでしたら、
俺達が悩んでいるところに、麗華から思わぬ申し出があった。
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