第139話 女神教

「女神様の御力がまた少し消えた?」

 この世界に来て、世界が女神様の御力に満たされつつあることに歓喜しました…

 それを害するものがいるなど…許せるはずもない…


「どうかなさいましたか?

「愚かしくも、女神様に弓引く輩がいるようです。わたくし、何の報告も受けていないのですけれど…」

 寒気のするような笑顔を向けられた男が青ざめる。

「も、申し訳ありません!すぐに調べあげ、報告いたしますので!」

「そう?わかっているとは思うけれど…女神様は役に立たない者へ恩恵を授けてはくださらないわよ?」

「は、はい!重々承知しております!で、では、失礼いたします!」

 逃げるように男は部屋から出ていった。

 …

「よろしいのですか?聖女様」

 柱の陰から数人の男たちが現れる。

「女神様のお役に立ちたいと言うのですから、そう無下に扱うものではありませんよ。それに、この世界に来たばかりの我々よりは、この世界の者の方が情報を集めるのは適しているでしょうし…」

 と溢しながら、先程の男が出ていった扉へ目を向ける。

「猿も使いよう…というわけですな」

 こちらの世界の住人は、総じてレベルが低く、魔力の扱いが拙い。その代わり、科学とよばれる分野が発達しているようで、我々でも知らない未知の文化が存在していることはわかった。

「焦ることはありません。もう少しすれば、我々のような先遣隊ではなく、各国の軍もこちらへと渡って来れるようになるでしょうし…」

「わかりました。それでは、我々は、当初の予定通り…」

「ええ。お願いしますわ」

 その言葉を最後に、柱の陰より現れた男達は姿を消した。

 …

 それから数刻の後、

「聖女様…畏れ多くも、女神様に弓引く輩というのは、この者のことではないかと思われます」

 調べると申し出て、部屋を出ていった男が、手に持った薄い板をこちらへと向けてくる。

 薄い板には映像が映っていて、こちらの世界の映像魔道具なのだろうということがわかる。

 私はそれを見て、目を見開いた。

「そんな…!なぜこの男が…?あの時確かに、によって討ち取られたはず…」

 そこに映っていたのは、少し様子が違うが、紛れもなく、滅ぼしたはずの魔王のように見えたからだ。

「他人の空似…ということも…いや、しかし…明確に女神様に楯突く人間が、ただ似ているなどという偶然があるのか…」

 思考が口から漏れていたようで、

「あ、あの…聖女様はこの、『獅童真央』という者をご存知なのですか?」

 映像を持ってきた男が私に対して不躾に質問を投げかけてきた。

「シドー?では…やはり…?貴方、この男の所在はわかっていますか?」

「い、いえ…数ヶ月前に犯罪者として指名手配されましたが、現在は行方不明だそうで…」

 チッ…

 使えない情報を寄越した男に、つい舌打ちをしてしまった。

「調べなさい!草の根分けてでも探し出すのです!」

「か、かしこまりました!」

 新たな命令を下し、男を退室させた。


 何の因果かはわかりませんが…

 魔王が再び私の前に現れるとは好都合。

 こちらにはもありますし…

 再三の魔王討伐ともなれば、私は次は女神様の眷属として召し抱えられるかもしれませんね…

「ふふふ…」


 巡ってきた好機と、未来の自分に夢を馳せ、私の顔には自然と笑みが浮かぶのだった。


 ――――――――――――――――

《咲希視点》


「マオー様が帰ってくるよ」

「えっ?」

「アルスちゃん、それ本当?」


 ダンジョンで魔物が実体化したことを確認し、私達は神崎邸に集まっていた。

 今後のことを話し合おうとした矢先、護衛という名目で渡されていた、アルスちゃんの分体から、真央の帰還が告げられたのだ。

 アルスちゃんの分体は、私達に危険が迫るなどの緊急時以外はあまり喋ったりはしない。本人に聞いたら、「意識の分散は疲れるからね〜」

 とのことだった。

 そんな、普段は喋らないアルスちゃんの分体が突然口を開いたものだから、つい驚いてしまったのだ。


 そんな事を考えていると、部屋の影から、闇が吹き出し、人影が現れた。


「ただいま」


 全く…数ヶ月ぶりの再会だと言うのに、本人は、ちょっと出かけてた。くらいの気軽さで現れるんだから!


「真央っ!」

「わっ!え〜っと…咲希?」

 久しぶりに真央に逢えたことが嬉しくて、つい、抱きついてしまった。

「会いたかった…」

「うん…。俺も咲希に会いたかったよ。心配させてごめん」

「ううん。大丈夫。こうして無事に帰って来てくれただけで十分だよ…」



「サキ姉、大胆だねぇ〜」

「あらあら。仲がいいのは、いいことだわ」

「うんうん。孫の顔もそのうち見れるかな?」

「完全に儂らのことは目に入っておらんようじゃが…」

「久しぶりの恋人との再会なのですから…仕方ありませんわね」

「そうですね〜。それに、あんな顔見せられたら文句なんて言えないですよね」

「ほんと…ごちそうさまって感じよね」



 などと、外野の声が耳に届き、私は顔を真っ赤にさせて、真央から離れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る