ハズレ職業の召喚士〜かつての魔王は最強の魔物達を召喚します〜

第138話 演習ダンジョン消滅

　迷宮核の前に立つ俺の後ろには、宗次さんや学生達、貴志くんが並んでいる。

「迷宮核を壊すと、罠（トラップ）が発動します」

　俺は、この後に起こることを説明する。

「罠（トラップ）？」

　罠が発動するとわかっていて、意図的にそれを発動させるというのは冒険者にとっては意味がわからないことだろう。

「具体的に言うと、この迷宮核の中に蓄えられている魔力が、魔物の形となって襲いかかってくるんです」

「それはどんな魔物なんですか？」

「百聞は一見にしかずというやつだから、それを今から見せてあげるということになるんだけど…一つだけ、忠告しておく」

　ゴクリ…

　俺の真剣な言葉に、緊張で唾を飲み込む音が聞こえた。

「その魔物は通常の手段ではダメージを与えることはできても、倒すことができない」

「倒せない…って、それじゃどうするんですか！？」

「話は最後まで聞け。そもそも破壊自体が特殊な武器がないとできないんだ。そして、迷宮核を破壊できる者なら、その魔物を倒す手段も持っているということになる」

「あなたなら、それができる…ということですか？」

「そうだ。そして、その魔物の攻撃はありとあらゆる防御スキルを貫通する上に、回復阻害効果があり、一撃喰らえば、HPが1000以上減る」

「そんなの…どうやって戦うんだよ…」

　俺の説明で、相手を想像した学生が絶望する。

「そういうわけだから、以前、テレビ中継でダンジョンを消滅させた時には、俺一人でダンジョンに入ったってわけだ」

　その中継を見ていた者もいるみたいで、

「それで、あの時…あ！それじゃあ、私達がここに付いてきたのは、もしかして、完全にお邪魔だったのでしょうか？」

「まぁ、あの当時の俺なら、そう思ったかもしれないけど、あれから数え切れないほどの迷宮核を破壊してきたからな…」

　気にしなくていいと、その学生に向けて言葉をかけて、

「それじゃあ、始めるから、みんなはアルス…俺が召喚するスライムの中に匿われててくれ」

　スライムの中？と疑問に浮かんでいた学生もいたようだが、

「アルス、頼んだ」

　俺の一言で、本来の姿に戻ったアルスが、見学のみんなを飲み込んだ。

「うわぁ！！」

「えっ！？ちょっ…まっ…」

「嘘っ！きゃあ！」

　まぁ、突然スライムに覆いかぶされたら、そんな反応になるのもやむなし…ってところだけど、流石に離れて見ててくれ。では流れ弾に被弾する可能性があるからな…勘弁して欲しい。

　アルスの中で保護された学生達が落ち着きを取り戻すのを待ち、準備が整ったようなので、仲間たちを召喚する。

「リーナ、シルヴィ、ジーク、レオン召喚」

　俺の両脇に、蒼銀と銀の狼系魔物が2体。そして、袴姿の偉丈夫が一人、最後に巨大なオリハルコンゴーレムが姿を現した。

「うわっ！ロボ？」

「すげぇ！かっこいい！」

「あんな魔物もいるのかよ…」

「あれって…前に話題になってた、荒野ダンジョンのボスってやつじゃない？」

「あっちの狼も綺麗〜」

「尻尾ふさふさ…」

「あの、刀を持った御仁は…？」

「筋肉やべぇ…」

　まぁ、演習ダンジョンはCランクだからな…この戦力じゃ、過剰な気もするが…安全第一で行こう。

「さて、それじゃ、レオンやってくれ」

「カシコマリマシタ」

　レオンカイザーが輝煌剣を振り下ろす。

　パキィーーーーンン！！

　何度繰り返したかわからない行為は慣れたもので、迷宮核は綺麗に真っ二つに割れた。

「ほ、本当に、壊せた…？」

「じゃあ、あの巨大な剣が…」

「神の鋼（オリハルコン）の武器…？」

「やっぱり、あの人は嘘なんて言ってなかった…」

　学生達が驚く中、割れた迷宮核から黒い魔力が漏れ出して、だんだんと人の形に変わっていく…

(さて、さっさと倒して経験値になってもらうとするか)

　そんな事を考えていると、アルスの中に匿われている学生達が騒ぎ出した。

「い、嫌…来ないで！」

「嘘…やめて！私達に纏わりつかないで！」

「た、助けてくれ！もうあんな思いはしたくないんだ…！」

「こっちを見てる…？うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！こ、ここから出してくれ！嫌だ！」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

「もう…許してくれ…すまない…」

　学生達のあまりの狼狽ぶりが心配だが、まずは完全に人型へと変化した女神のかけらの動きを封じる。

「リーナ、シルヴィ！二重拘束（ダブルバインド）」

「はい！」

「お任せ下さい！」

　二体の神狼による、神の縛鎖（グレイプニル）の多重拘束なら、Cランク程度の女神のかけらなら完全に動きを封じることができる。

　安全を確保したので、学生達の方へ目を向ける。

「アルス、どういうことだ？」

「わからない…精神攻撃の類とかでもなさそうだし…」

　女神のかけらから攻撃を受けたわけじゃないのに、この有り様か…

　まさか、見ただけで…？

「あれをボーナスステージなんて言えるのは、おにぃだけだよ…」

　明璃に言われた言葉が脳裏に蘇る。

　この数ヶ月で、女神のかけらに対する感覚が麻痺してたらしい…

　これは完全に俺のミスだ。

　だが、俺の仲間たちは、あれを見てもあそこまで取り乱すことはなかった。

　…とすると、考えられるのは、魔力の親和性か？

　長い間、クソ女神の魔力が身体を蝕んでいたから、あの魔力に対しての反応が他の者より顕著に現れているのかもしれない。

　まずは元凶を取り除く！

「ジーク！」

「はっ！心得ました！」

　腰の刀を抜き放ち、拘束されている女神のかけらを横薙ぎに両断する。

　ギャァァァァァァァァァ！！！！

　断末魔の悲鳴をあげ、女神のかけらは消滅した。

　ドルフと影狼達を呼び出し、ダンジョンの外へと転移する。

　やがて…

　ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

　と地面が揺れ、冒険者学校の演習ダンジョンは綺麗さっぱり消えてなくなった。

「アルス、みんなの様子はどうだ？」

「うん…少し落ち着いたみたいだよ」

「そうか…」

　アルスの身体から排出された学生達は地面に座り込んで、呆然としている。

「真央くん…あれが、そうなのか？」

「そうです。あれが異世界の女神の力の一部です」

「あんな…あんな禍々しいものなのか…」

「私達…ずっとあんなものに身体を支配されていたんですね…」

「もし、真央さん達が治療してくれなかったら…」

　そんな想像をしてしまった学生が身体を震わせる…

　恐怖は伝播し、学生達の顔色がどんどんと悪くなっていくが、

「でも、もう…大丈夫…なんですよね？」

　一人の発言が希望を呼ぶ。

「ああ。君達はもう、悪夢から解放されているよ」

　俺もそれに答える。

「よかった…」

「ありがとう…ありがとうございます！」

「本当に…何て、お礼を言ったらいいのか…」

「私、みんなに伝えます！あなたの事、異世界の女神のこと！」

「お、俺も！あなたに助けてもらったこと、レベルアップポーションがどんなに、危険なのかをみんなに伝えていきます！」

「それに…今も苦しんでる人がいるかもしれない！そんな人達に治療ができるってことも教えます！」

　そんなみんなの表情と決意を見て、俺も安心した。

　救えなかった生命もあったけど、クソ女神に苦しめられている人達を救えたことは、素直に嬉しいと感じた。

　――――――――――――――――

「どういうこと…？女神様の御力がまた少し消えた？」

　日本の何処かで、真央による女神のかけらの消滅を感じる者がいた…