第137話 ハイエルフ

「魔王様…申し訳ありません!」

 シルヴィの謝罪から今日という日が始まった。

「どうしたんだ?シルヴィ」

「昨夜、保護していた学生が生命を絶ちました…」

「なにっ?」

「申し訳ありません…」

「いや、いい。これは俺の責任だ」

 学生達の様子を見て、案外大丈夫そうだな…と警戒を緩めたのは俺だ。


「それで、その学生は今どこに?」

「部屋に安置されております」

「わかった。とりあえず行ってみよう。ミラ!」

「はい。お側に控えております」

 ミラを召喚し、生命を絶ったという学生の部屋へ向かう。


「内田さん…」

「内田くん…」

「諒子ちゃん…」

「うっちー…」

「りょーちゃん…」

 部屋の中には白い布を被せられた遺体を囲むように、学生達が涙を流している。

「すまん…内田…」

 宗次さんも後悔の念に押しつぶされるように下を向いて、嗚咽している。そして、俺の気配に気づいたのか、顔をあげ、

「真央くん!こんなことを頼めた義理ではないのだが…内田を…内田を生き返らせてやってくれないか?!」

 そんな台詞に、他の学生たちも期待を込めた眼差しを俺に向けてきた。

「お願いします!内田さんを!」

「私達の時みたいに…できるんですよね?」

「なぁ!頼むよ!あんたは死んだ人間を生き返らせることができるんだろ?」

「お願い!私はもう一度、うっちーと話をしたい」

「俺も!彼女には謝らないといけないんだ!」

 みんなが口々に頼み込んでくる。


 もちろん、俺もそのつもりでミラを召喚してきたんだが…

「ミラ?」

 隣りにいるミラが首を横に振った。

「魔王様…残念ですが…すでにこの者の魂は黄泉路へと旅立ってしまったようです…」

「そうか…」

 魂と肉体の両方が揃ってないと、蘇生はできない。このまま行なっても、動く死体リビングデッドになるだけだ。


「真央くん…?」

「どうしたんだ?」

「ねぇ…どうしたの?」

「まさか、できないとか言わないよな?」

「そんな!…どうして…?」


 一向に動かない俺に対して、学生たちも騒がしくなっていく。

「すまない…彼女を蘇生させることはできない」

 俺は、集まった学生達に、蘇生の条件を満たしていないことを説明し、不可能であることを告げた。

「そんな…」

「嘘でしょ…」

「なんでだよっ!」

「うっちー!!」

「嫌だよ…どうして…」

「すまん!内田!俺が君にあのポーションを飲ませたばっかりに…」


 みんなの悲しみがその場を支配していく…


「ミラ…せめて、彼女が輪廻の輪に迷わず還れるように、鎮魂を」

「かしこまりました」


 …


 厳かな鎮魂の儀式を終え、各自が悲しみに向き合う。

 そして、宗次さんが、

「真央くん…これを」

 俺に黒い魔石…迷宮核を手渡してきた。

「どうして、宗次さんが迷宮核これを持っているんですか?」

「特選クラスの担任として、管理していたんだ…君ならこれをんだろう?」

 ぐっと唇を引き締め、さらに話を続ける。

「もう二度と、こんな悲劇が起きないように…頼む!」

「いいんですか?この学校から、ダンジョンが消滅しますよ?」

「構うものか!俺達は迷宮核これの危険性を十分すぎるほど知った。だが、これがあれば、その実態を知らないものがまた利用しようとするかもしれない…」

「わかりました…」

 俺は宗次さんから、迷宮核を受け取った。

「これから迷宮核を破壊します。見届けますか?」

 俺は今回の被害にあった人達に結末を見届けるかと問う。

「いいのか?」

 この数ヶ月で、いくつもの迷宮核を破壊しているので、慣れたものだ。女神のかけらが現れたところで、彼らに危険は及ばないだろう…

「はい。以前約束もしましたし…」

「約束?」

「これを壊すための武器を見せます…って」

「そうだったな…」

 その時の事を思い出したのか、宗次さんはバツの悪そうな顔をする。

「では、移動しましょうか」


「あの!私達もついて行っていいですか?」

「知りたいんです…それの正体を」

「お願いします!邪魔になるようなことはしませんから!」

「内田に代わって、せめて俺たちが見届けないと…」

「そうだ!彼女が安心して眠れるように!」

 一人の犠牲が、学生達の結束を更に固めたようだ。


「わかった。アルス、少し多いけど、守れるな?」

「まかせて!」


 俺は、宗次さんと学生達を引き連れて、演習ダンジョンの最下層へと転移した。

「すごい…」

「一瞬で…こんな…」

「こんなスキルがあるなんて…」

 初めての転移体験に学生達が驚いている。 


 そうだ、彼も呼んでおかないと…

「ドルフ、貴志くんを連れてきてくれ」

「御意」

 …

「真央さん…あの?ここは?」

「これから迷宮核を破壊する。君にも見届ける権利があるからね」

 そう言うと、貴志くんは苦い顔をした。

「その節はお世話になりました…」

 小夜のSOSをアルスの分体から伝えられ、貴志くんをシルヴィに頼んでここへ連れてきて、世界樹の浄化で治療していたのだ。

 彼の身体にレベルアップポーションの影響はもう残っていない。

 それでも、自分の姉をその手で斬った記憶は残っているからか、貴志くんは後悔に顔を歪める…

「君が悪いわけじゃない。全ての元凶をこれから君にも知ってもらうよ」

「わかりました…」

 貴志くんも、学生達と共にこれから起こることを見届けてもらう。


 ダンジョンを破壊する前に、世界樹を保護しなくちゃな…


 俺は世界樹の元へと足を運び、召喚する。

「エリー。召喚来てくれ


 魔法陣から現れたのは、この数ヶ月の間で開放することができた、仲間のハイエルフの女性だ。

 雪のように真っ白な肌に、きめ細かな金髪が腰まで伸びている。その種族の特徴たる尖った耳と、翡翠のような瞳。草色のチュニックと革鎧を身に纏い、腰からは銀色の細剣レイピアを下げている。

 その名を、エリーティア・グラスウインドと言う。


「お呼びですか?魔王様」

「ああ。エリー。この世界樹を移動させたい。保護してくれ」

「わかりました…大地鳴動ガイアコントロール!」

 ハイエルフのエリーティアの魔法により、世界樹が根本から掘り起こされる。

森の精霊ドライアドよ!」

 続けて使われたのは精霊魔法だ。森の精霊ドライアドにお願いして、世界樹を保護してもらう。

「これで大丈夫ですわ」


 エリーティアの魔法によって保護された世界樹は、空間魔法や魔法袋マジックバッグに収納が可能になった。まぁ、ここは万が一に備えて、アルスの次元収納を使う。

「アルス、世界樹を頼んだ」

「オッケー」

 アルスが世界樹に触れると、世界樹が消えてなくなった。


 世界樹の守りを任せていたシルヴィを労う。

「シルヴィ、今まで世界樹を見守ってくれてありがとうな」

(勿体ないお言葉です!)

「少し、休んでいてくれ。シルヴィ送還」

 銀色の狼が、魔法陣に消えた。


「さて、それじゃ、やるとしよう」

 俺は迷宮核を取り出して、地面に置いた。


 ――――――――――――――――


【名前】エリーティア・グラスウインド

【種族】ハイエルフ

【LV】800

【HP】24000/24000

【SP】68000/68000

【力】2200

【知恵】6500

【体力】2100

【精神】3020

【速さ】2300

【運】99

【スキル】

 神弓術、細剣術、精霊魔法、地魔法、風魔法、水魔法、魔力収束、精霊同調、

 HP自動回復、HP回復量増加、SP自動回復、SP回復量増加

 念話、言語理解、気配察知、魔力感知、並列思考、高速思考、無詠唱、空間収納、神気開放

 物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効


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