第130話 side麗華

 真央さんが姿を消してから4ヶ月が過ぎました。

 美智子さんが目を覚まし、会見を開いたことで、真央さんの容疑は晴れたのですけれど、真央さんは依然として姿をくらましたまま、わたくし達の前に姿を見せることはありませんでした。

 毎日上がるわたくしのステータスを見れば、今もどこかのダンジョンで戦っているのでしょう。


 美智子さんの会見は世論を動かし、内閣支持率が最低レベルまで落ち込んだため、政府がようやく重い腰を上げましたわ。レベルアップポーションの調査を行うと宣言し、副作用があることを認めたんですのよ。

 政府は、レベルアップポーションの作製、所持、使用を禁止した法律を制定し、事態の沈静化を図りましたが、思うようにはいっていないみたいですわね。


「それで、お父様…総理は何と?」

「全ての責任を河田君に押し付けて、更迭し、解散して有耶無耶にする腹積もりらしい…」

「トカゲの尻尾切りですか…もはやお家芸ですわね…」

「全く…あの男は、世の情勢を読めないところは変わっていないね…今回はただの選挙とはわけが違うというのに…このままでは政権交代も有り得るかな?」

「潜在的な被害者が多すぎますもの。政府が副作用を隠蔽したことで、レベルアップポーションを飲んでしまった加害者ですら、政府の被害者と言えますから」

「せめて、レベルアップポーションを飲んでしまった人の治療法でもあれば話は変わってくるんだけどね…」

「真央さんなら、何かご存知かも知れませんわ。小夜さんの弟さんがレベルアップポーションを飲んでしまった後、真央さんの召喚獣が彼を連れ去ったと聞いていますから」

「それは本当かい?」

「ええ。でも、真央さんは連絡しても姿を見せてはくれませんわ。彼はもう俗世のことに興味はないようですから…」

「それで、その連れらされた子はどうなったかわかるかい?」

「まだ帰ってきてないということくらいしかわかりませんわ」

「そうか…殺されたという可能性は?」

「それはわかりませんけど、殺すつもりなら、わざわざ連れ去る意味がないと思いますわ」

「なるほどね…何にせよ、こちらには判断できる材料がないということか…」


 ―――――――――――――――――


 そして、数日後…

「この度のことは、私の不徳の致すところで…レベルアップポーションに関連した被害を受けた方々には申し訳なく思っております…」

 河田大臣が辞任した。事実上の更迭である。


 官邸から足早に立ち去ろうとする総理に記者が質問を投げかける。

「総理!今回のことで総理の任命責任を追求する声が上がっておりますが!どうお考えでしょうか!?」


 ピタリと足を止め、

「任命責任は私にあります…早急に後任を選出し、国民の皆様にご理解を得られるよう、邁進まいしんしてまいります」


 一言だけ答え、再び歩き出す。

 そして、公用車へと乗り込もうとする瞬間にそれは起こった。


 ヒュン…ヒュン…ヒュン


 続けて聞こえた風切り音の後、


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!


 と、いう鈍い音がして、

「あがっ…」


 ドサリ。


 飛来した3本の矢が、正確に、総理の眉間と喉と心臓に刺さって、総理がその場で倒れ込んだ。


 総理を守っていたSP達が騒然として、総理の身体を車に押し込め、病院へと搬送する。

 それと同時に周囲を警戒し、

「あそこだ!」

 ビルの上に怪しい人影を捉える。弓を構えたままの男が、その場から逃走しようとしていたところに駆けつけ、身柄を拘束した。


 …


 治療の甲斐なく、岸部総理はこの世を去った。

 捕まった犯人はレベルアップポーションに依存しており、犯行の動機は、先日決まった、レベルアップポーションの作製、所持、使用を禁止する法案が可決されたことに対しての恨みからだった。


 真央から預かっていた迷宮核を横流しし、レベルアップポーションを世の中へ流通させた総理は、自らの行いによる報いを受けた結果となった。


 現職の総理大臣が暗殺されるというニュースは世の中に衝撃を与えたが、レベルアップポーションが関わっていると報道されたことで、自業自得だという声も根強い。

 そして、屈強で優秀なSPに守られていても、レベルを上げた冒険者が本気で人を殺そうとした場合、容易く実行できてしまうことが、奇しくもこの事件で証明されてしまった。

 レベルアップポーションが危険だということが、国民の間に広く周知されることとなる。


 そして、かねてから、レベルアップポーションに警鐘を鳴らしていた、獅童真央という人物が再び世間の関心を集め始めていた…

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