第131話 side咲希 side???

 現職の総理大臣が暗殺され、世の中が騒然としている中でも、私のやるべきことは変わらない。

「アルスちゃん!もう一度だ!」

「は〜い」

 竜の巣で、女神のかけらとの戦いで、隆さんと、真由子さんだけが真央の隣に立つことを許された。

 理由はわかってる。“神気”が使えるかどうかだ。

 神との戦いにおいて、それが使えるかどうかが最低限の分水嶺だとわかっているから、私は無理を承知で、隆さんと真由子さんに神気を使えるようになるための特訓をお願いしたんだ。

「今日はこのくらいにしておこう」

「いえ!まだやれます!」

「焦ったところで、技は身につかないよ」

「それは…」

「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?咲希ちゃんがそこまで、頑張るのはまーくんのため?」

「…違います。これは私の我儘なんです…」

「そう?」

「真央はきっと、私なんかがいなくたって、女神と戦ってしまうと思うんです」

「そうね。あの子ならそうすると思うわ」

「真央のことを想うなら、私は安全な場所に隠れてたほうがいいんです。足手まといになることはわかってるから…」

「私もそう思うわ」

「だから、これは私の我儘なんです。私は真央の隣に立ちたい。その為には、神気を使えるようにならないといけないんです!」

「咲希ちゃんの気持ちはわかったわ。でも、簡単にはいかないってことは覚悟してちょうだい。神様から直接教えてもらった私達でも、使えるようになるのに数十年かかったんだから」

「数十年…」

「やめる?」

「いえ…たとえ会得できないとしても、何もしないよりはいいから!教えて下さい!」

「わかったわ。でも休憩も大事だからね」

「うぅ…はい。わかりました」


 真央の許可をもらって、アルスちゃんの分体から空間拡張テントの予備を出してもらっているから、野営とは名ばかりの、快適な休憩を取ることが出来ている。


 …


 私達が修行の場に選んだのはSランクダンジョンの「悠久の平原」だ。

 Sランクダンジョンはそもそも挑戦できる資格を持っている人が少ないのだが、ここは攻略こそされてないものの、情報が多い。

 迷宮の端を確認した者がいないほど広大で、出てくる魔物は多種多様で、集落を形成する傾向があり、集落単位で魔物同士の闘争を行いながら、進化と淘汰を繰り返しているのだ。

 ただ、各地の迷宮が活性化し始めて、過去の情報はすでに当てにならない可能性がある…


鬼人皇帝オーガエンペラーかな?」

 ここに籠もるようになって、6ヶ月が経とうとしている。拠点キャンプを襲ってくる魔物の対処にも、そろそろ慣れてきたなと感じるようになった。

「私に任せて下さい!」

 咲希が前に出る。

 咲希の身体を覆う魔力と闘気は安定して彼女の力となっている。

 問題は仙気か…

 この悠久の平原は、そのフィールドが広大すぎるため、自然の魔力が膨大すぎるのだ。仙気は自分を取り巻く環境の自然から魔力を集めるため、このフィールドではコントロールが難しくなる。

 自然界から集めた魔力を自分の身体の中に留めることが出来なければ、反動ダメージを受ける。

 私はまだ、仙気を自在にコントロールできるレベルには達していないため、集めた魔力がダメージとして、自分に跳ね返ってくる段階だ。

 反動ダメージを受けながらも、実戦に勝る修行はないとして、今日も拠点キャンプを襲撃してくる魔物と戦っている。


「はぁっ!」

 速さの数値が桁違いなため、鬼人皇帝オーガエンペラーの繰り出した拳がスローモーションのように見える。

 紙一重で避けながら、カウンターで、伸び切った鬼人皇帝オーガエンペラーの腕に拳を叩き込んだ。


 ドガンッ!


 鬼人皇帝オーガエンペラーの肘から先が私の拳撃によってバラバラに吹き飛んだ。

 まだ進化したての若い個体なのだろうか?戦闘経験が低いように感じる。

 失くなった片腕を押さえながら、1歩2歩と後退る姿を見て思う…


 怯えている?


 それでも、魔物の感情などどうでもいい。私の糧となれ!


 背を向けて逃げ始めた鬼人皇帝オーガエンペラーを追いかけ、前へと回り込む。

 一回りも二回りも小さな私に怯える姿に多少の同情は感じるが、飛び上がり、その顔面に蹴りを放つと、


 グシャッ!


 と頭部が爆発するように吹き飛んだ。


 ズズゥゥーン!!ドサリ。


 倒れ、いつものように黒い靄へと変化するものと思っていたが…


「これは!?隆さん!真由子さん!」


 私はその異常を目の当たりにして、二人を呼ぶ。


「これは…!?」

「魔物の死体が消えない?」

「一年の猶予があるという話だったけど…」

「まさか…異世界からの侵攻が早まったのか…?」

「一度、みんなのところへ戻りましょう!」

「「はい」」


 ――――――――――――――――


「ちっ!なんであの女が生きてやがるんだ!?ジーン!」

「俺にもわからん…確かに鑑定では死亡を確認したんだが…」

「まさか、やつらは死人を生き返らせることができるとか言うんじゃねぇだろうな!?」

「おいおい…さすがにそれは、ないだろう…?」

「今はそんなことを言っている場合じゃない」

「あの女のせいで、俺達が悪いみたいになっているからな…」

「早いとこ、この国を出たほうが良さそうだ…」


 …


 レベルアップポーションの依存者による首相暗殺事件が起き、世論はレベルアップポーション服用者を隔離し管理すべきだという方向へ傾いていく。


 先駆者であったはずのチーム皇帝エンペラーも例外ではなく、出国許可は下りず、祖国であるはずの米国からも入国禁止を言い渡されることとなった。


「くそっ!こんなはずじゃ…」

「今更そんなこと言ってもどうしようもないだろ!」

「静かに!」

「どうした?」

「誰かが来る…気を抜くなよ?」


 カツカツカツカツ…


 近寄ってくる者は、足音を隠そうともせずにやって来た。


 トントントン


 ドアがノックされ、3人は緊張を保ちながら、ドアを少しだけ開ける。


 ドアの外にいたのは、真っ白い神官衣に身を包んだ男だった。

「お初にお目にかかります。チーム皇帝エンペラーの皆様。私は、女神様の祝福を受けた貴方がたを迎えるべくやって参りました」


 男がそんな台詞を口にした。

「俺達を迎えに来ただと?」

「はい。その通りでございます」

「女神の祝福ってのは何のことだ?」

「我々が信仰する、女神様の恩恵でございます。女神様の魔力から作られたポーションに心当たりはありませんか?」

「まさか、レベルアップポーションのことか?」

「世間ではそのように呼称されているそうですね」

 …

「おい、どうする?」

「いきなりやってきて、訳のわからないことを言ってやがる…女神だと?そんなもんは知らんぞ」

「だが、このままここに隠れていたところでどうにもならないだろ?」

「そうだな…よし。こいつに着いていくことにしよう。もし、ヤバい奴らなら、力尽くで逃げればいいだろ?俺達は、レベル上限まで鍛えてあるんだからな」

「オーケー。その通りだな。気に入らなければ出ていけば良い」

「ふん!それよりも、その訳のわからん団体ごと乗っ取ってしまうってのもいいんじゃないか?神様の信者だっていうなら、女もいるだろ?もう何日も抱いてないんだぜ?」

 …

「相談は終わりましたか?」

「ああ。あんたに着いていくことにする」

「わかりました。それでは、我らが拠点へとご案内致します。着いて来てください」

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