第129話 side里奈 side美智子

 真央さんが逮捕された。

 容疑はダンジョン内殺人と拾得物横領だとか。お爺ちゃんが、警察に、真央さんの無実を訴えているのだが、向こうには証拠映像と、世界的に知名度の高い冒険者の証言があるため、なかなか思うようにはいってないみたいだ。


 真央さんが殺したとされる相手は、家で預かっている、美智子さんだ。美智子さんが目を覚ませば、真央さんの無実も証明できるはずなのだけど…。

 美智子さんは、チーム皇帝エンペラーの策略で、真央さんの攻撃を受けるように身代わりにされたと聞いている。

 仲間の裏切りのショックで、蘇生は成功しているが目覚める気配がない。

 今は、お母さんが側について、深層心理に眠っている美智子さんの魂と話をしながら、覚醒を待っている状態だ。


 その夜、小夜さんから真央さんのことが聞きたいと連絡があり、その数日後に、小夜さんと弟の貴志くんが、家にやってきた。なんでも、怪しい人影に見張られているようだと彼女が言うので、しばらく家にいればいいということになった。


 それを機に、お爺ちゃんが、真央さんの仲間達をみんなこの家に集めて話をしようと言い出した。

 そして、その話し合いの結果、私達で、迷宮核の確保をしてしまおうという結論になった。


 それから3ヶ月… 

 どこから手に入れたのか、小夜さんの弟の貴志くんがレベルアップポーションを飲んでしまった…

 それ以降、小夜さんは貴志くんが凶行に走らないようにと、ずっとつきっきりで側にいる。

 経緯を考えると、小夜さんの役に立ちたいという想いからレベルアップポーションを飲んだので、凶行に走るとは思えなかったのだが、あれの副作用を私達は、甘く見ていたのかもしれない。

 あの日以来、小夜さんがつきっきりで、ダンジョンに潜る回数が減ったことを、貴志くんは私達が小夜さんの行動を縛っていると思い込んだらしく、通りかかったメイド長の君恵さんに突然襲いかかったのだ…

 貴志くんの振るった凶刃が君恵さんに届く前に、咄嗟に小夜さんが間に入り、貴志くんの刃は姉である小夜さんを斬り裂いた。

「そんな…姉さん!どうして…!?」

 カラン…と剣を落とし、貴志くんが呆けているところを、騒ぎを聞きつけた父さんが貴志くんに当身を当てて気絶させた。

 レベル差があるため、小夜さんの傷はそこまで深刻なものではなく、私の癒しで回復したのだが…

 貴志くんの凶行を防げなかったことで、小夜さんは気落ちしていた。

 その夜のこと、どこからともなく現れた銀色の狼が輝く鎖で貴志くんを縛り上げ、どこかへと連れて行ってしまった。

「真央…なの?」

「きっと、小夜さんの助けを呼ぶ声が届いてたんですよ!」

「そうかな?」

「あとは、真央さんに任せましょう」

「うん…真央、貴志をお願い…」


 それから、しばらくして、美智子さんが目を覚ましたと母さんから報告があり、病み上がり?でまだ身体が自由に動かないはずの美智子さんのたっての希望で、会見が開かれた。


「獅童真央さんに殺人容疑がかけられていると聞きましたが、彼が殺したとされる私はこの通り生きています。彼の容疑は冤罪です」

「ですが、貴女を斬った証拠映像があり、彼はそれを事実だと認めたと聞いていますが?」 

「その映像は私も確認しました。一部を切り取られた、チーム皇帝エンペラーにとって、都合のいい映像であることを申し上げます」

「詳しく説明してもらってもいいですか?」 

「まず、最初に攻撃をしかけたのはMr.ドレイクです。真央さんはそれに反撃をしたのですが、Mr.ファルコンのスキルによって、私とMr.ドレイクの身体が入れ替わり、真央さんの攻撃を私が受けるという形になったのが、この映像の真実です」

「それではまるで、チーム皇帝エンペラーが貴女を殺害するように仕向けたと聞こえますが?」

「その通りです。そして、私は真央さんに殺されたのではなく、治療してもらって、一命をとりとめました。」

「とても信じられません。彼らは世界的にも知名度の高い、英雄的存在ですよ?」

「英雄的存在だったと言うべきでしょうね。彼らはレベルアップポーションを飲んでから、変わってしまったのです」

「レベルアップポーションですか?何故ここでレベルアップポーションの話が出てくるのか、わかりかねますが…?」

「レベルアップポーションには重大な副作用があります。ご存知ありませんか?」

「重大な副作用…ですか?」

「レベルアップポーションは人の持つ欲望を肥大化し、善悪の判断を鈍らせる効果があるんです。この数ヶ月で、強盗、殺人、婦女暴行など、凶悪な犯罪の発生率が上がっていることはご存知ですよね?」

「まさか、それらの犯罪にレベルアップポーションが関係しているとでも?」

「全てではありませんが、9割以上の犯人はレベルアップポーションの服用歴がありました」

「そんな情報は公開されていませんが…?」 

「私は貴方の言う英雄的存在のチームで情報収集や管理を担っていたのですよ?そのくらいは調べればわかることです」


 そう、美智子さんは目覚めてから、この会見までのわずかな間に、レベルアップポーションに関する情報を集めて纏めていたのだ。その手腕は凄いの一言では表せないくらい凄かった…

 祖父が広めた、この凶悪な薬を止めることが自分の役目だと言ってくれた。


「更に、先日の冒険者学校で起きた凄惨な事件は記憶に新しいと思いますが…」

「演習中に多数の死者が出てしまったという話ですよね?」

「真相は違います。レベルアップポーションを服用した講師の命令で、同じくレベルアップポーションを飲んだ生徒達が集められた特選クラスの生徒達が最後の一人になるまで殺し合ったんですよ」

「そんな、まさか!そんな非人道的なことが許されるはずないじゃないですか!」

「その非人道的なことですら、正しいことか悪いことかの判断すらできなくなってしまうんです…」


 美智子さんの話は続く。


「獅童真央さんが、迷宮核をチーム皇帝に渡さなかったのは、私が彼らと先に手に入れた方が所有するという約束をしたからで、迷宮主を討伐した彼らに正式な所有権があるので、横領にはあたりません」

「待ってください!迷宮主はチーム皇帝が倒したと発表されてますが?」

「これまでの経緯を考えれば、それも操作された情報であることはわかっていただけると思いますが…」

「そんな…」


「それと、彼はレベルアップポーションの危険性にいち早く気がついていたため、迷宮核の譲渡を拒んだのです。以前、彼が冒険者学校の講師と対談した時に、迷宮核の危険性を訴えていたことは覚えていますか?」

「あれは、彼のついた嘘だったというのが世間の意見ですが?」

「嘘だったら良かったんですけどね…少なくとも、迷宮核が危険なものであるという彼の主張は真実です」


 毅然とした態度で会見を終えた美智子さんのレベルアップポーションに関する話は世の中に衝撃を与えた。

 それと同時に、そんなものの危険性を隠していた政府に批判が集まる結果となった。

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