第128話 side小夜
今から3ヶ月くらい前に、私の住んでいる街に真央がフラッとやってきて、攻略済みの迷宮へと入っていったのを目にした。
しばらくして、街全体が揺れるほどの地震が起きて、揺れが収まると同時に、この街からダンジョンが消えた。
どういうことなのか?と聞こうとした時には、すでに、真央の姿はなくて、Dフォンを鳴らしても繋がらなかった。
その後、ニュースで真央のことを知って驚き、詳しい話は、里奈と連絡取ることで聞くことができた。
まさか、そんなことになっているとは…
真央の事情を聞いた次の日に、私のところにも刑事が来て、真央という人物について尋ねられたので、
「数日パーティを組んだだけの相手に、一生遊んで暮らせるほどの秘薬を無償で譲ってくれるほどのお人好しが、私利私欲のために他人を殺害するとは思えません」
と言っておいたのだが、彼を擁護するような発言をしたためか私も彼の一味だと判断されたようで、その後、私達を見張るような気配を感じるようになった。
怖くなったので、だいぶ回復した弟の貴志を連れて、里奈の家を訪れたのだが…
「うえぇ!!姉さん!いつの間にダンジョン協会の会長なんて偉い人と知り合いになったんだよ!?」
なんて言うので、
「あんたの命を救ってくれた、真央って人との繋がりのおかげよ」
と、説明しておいた。
それからの私達は、里奈の家を拠点として行動することになって、3ヶ月が過ぎようとしている。
仲間の誰もが真央とは連絡が取れないらしいけど、真央が無事なことはわかっているから、みんな、それほど心配はしていない。
毎日、レベルがぐんぐん上がっているのを見ると、少し顔が引き攣るんだけどね…
真央を罠に嵌めたという、チーム
私は、公開したほうが、チーム皇帝が嘘を言っていると証明できるんじゃない?と言ったのだが、
レベルの最大値を突破できるのは、真央との関係者だけなのだ…
しかも、再現性が、著しく低い。
私の場合は、この世にたった一人残された家族である弟を助けてもらった恩を返したいと思うことで彼の仲間と認めてもらうことができたけど…
一緒にダンジョンを攻略した零士って人は弾かれたらしい…
つまり、レベル上限の突破を真央のおかげだとすると、世間的に、また真央が嘘をついている…とされてしまう可能性が高いわけだ…
ただでさえ、逃亡中の指名手配犯を心の底から信用しろだなんて、無理に決まっている…
更に、レベルアップポーションの影響がどこまであるかもわからない中で、レベル上限を突破した人間なんて、格好の研究材料だ。監禁されて実験やら研究やらの対象として扱われる危険もある。
最悪の場合は私達までレベルアップポーションを飲まされる可能性だって否定できない…
レベルアップポーションの副作用については仲間内でも共有されているので、その危険性はわかっているつもりだ。
現に、治安が悪化している街も増え始めている。
特に顕著なのは、真央の妹が通っていた冒険者学校だろう。
つい先日のことだが、冒険者学校内のダンジョンで大規模な死者が出たというニュースが流れたばかりだ。
結局、今、私達ができることは、より多くのダンジョンを攻略し、迷宮核を確保することくらいだ。
チーム
これを放置すると、レベルアップポーションが世の中に蔓延し、取り返しのつかないことになるだろう。
その前に、私達でダンジョンを攻略し、迷宮核を確保しようという計画だ。
ランクの更新をしていないので、私はBランク以下の低ランクダンジョンの攻略を担うことになっている。
弟の貴志もリハビリを兼ねて、一緒に低ランクダンジョンを攻略することになった。
さすがに二人では心許ないので、里奈や明璃にも協力してもらっている。
咲希はやることがあるとかで、隆さんや真由子さんと行動を共にすると言っていた。
迷宮核を攻略するためには、まず迷宮主を出現させる必要があるのだが、これがなかなか難しい。
大量の魔物を倒すことで迷宮主が現れるということはわかっているが、真央のようにスライムを無数に分裂させて、ダンジョン内の魔物を殲滅するくらいの勢いで倒せるならばともかく、普通の冒険者パーティが数人で倒せる魔物の数というのはたかが知れている。レベル差がとんでもないので、魔物を倒すことは簡単なのだが、私達は未だ迷宮主を倒す事はできていなかった…
そして、この時の私は気づいていなかった…この世の中でたった一人の家族の、弟の表情が曇っていたことに…
そして、ある日のこと…
「なかなか迷宮主が出てこないわね…」
「真央さんが当たり前のように迷宮主が出現した!とか言っていたのがどれだけ規格外なことをしていたのか、よくわかりますね…」
「まぁ、おにぃだし…」
今日もダンジョンへと挑もうと入口でそんな話をしていた時…私達の少し後ろを歩いていた貴志の足が止まった。
「貴志、どうしたの…?」
「…」
「貴志…?」
「姉さん達はすごいよな…!俺が…ちょっと寝ている間にこんなに差がついてるなんて思ってなかった…」
「それは…」
「俺…弱くてさ…完全にみんなの足をひっぱっちゃってるもんな…」
「何言ってるのよ!貴志!そんなこと…ないわ」
「ううん!いいんだ…で、でも!安心して!今日からは俺だって、みんなの役に立てるからっ!」
そう言った貴志の手には1本のポーションが握られていた。
「それはっ!まさか!ダメ!それを飲んではダメよっ!」
私が止めようとしたのは一瞬遅く、貴志はそのポーションを飲み干してしまった…
「へへっ!これで、俺も姉さん達の役に立てるな!」
私はがっくりと、その場に項垂れて膝をついた…
私達は使わないし、手に入れることもないと思っていたから、貴志にはレベルアップポーションが危険なものだと言うことを教えていなかったことが、こんな風に災いするなんて…
わ、私は…どうしたらいいの…?助けて、真央!
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