【閑話】真央のいない世界
第127話 side明璃
おにぃがいなくなってから、2ヶ月が過ぎた…
警察の留置場から逃走したことで、おにぃは全国指名手配犯になっている。
それを受けて、冒険者ギルドはおにぃの冒険者
あたしに何も言わずに消えたことは許せないけど!
あれから何の連絡もないけど、おにぃが元気なのはあたしのステータスを見ればわかる。
毎朝起きるたびにバカみたいにレベルが上がっているからだ…
今もどこかのダンジョンで女神のかけらを相手に無双しているんだろうな…
おにぃとの魂の絆は切れていないから、あたしは何の心配もしていない。
あたしの通う冒険者学校にも、大きな変化が訪れた。
おにぃから取り上げた迷宮核を使って、レベルアップポーションが作成され、学校側から選ばれた生徒にそれが渡された。
対象者は、レベルが上がりにくい職業を得ている者や、向上心があり、品行方正で真面目に課題に取り組んでいる者が選ばれることが多く、彼らは、新たに作られた「特選クラス」へ編入することになった。
そのクラスを率いるのは宗次先生で、先生はおにぃとの対談の時にレベルアップポーションを使わないようにと指摘されたことを気にして、まず自分の身体に使用して、副作用がないことを確認したらしい。
でも、あたしはその話を信じてはいない。
おにぃがいなくなる前、みんなでレベルアップポーションの副作用のことを話し合ったことがある。
冷静な判断と作戦を立てることでチーム
ベンジャミン・K・クルーマーは元々、女性が好きな軽薄さがあったけど、強引に女性との関係を迫るようになっているみたいだった。
レベルアップポーションの副作用は…
おそらく、人の持つ欲望を増幅させ、善悪の判断を鈍らせるのだろうと、おにぃは推測していた。
その根拠は、おにぃがいた異世界で女神を信仰していた人達は、己の欲望を満たすためには何をしても許されると信じていたらしいからだ。
その信者たちの行動があの3人の変わりようと重なるらしい。
早乙女博士が副作用のことを何も言っていないのは、自身でポーションを飲んだことで、人類への貢献やら名誉欲のようなものが肥大化したせいじゃないか?って、おにぃは考えていた。
正常な研究者が、薬の副作用を見落とすなんてことはありえないだろうって。
チームとしての活動が制限されたので、あたしは、普通に学校に通うことにしている。
ここには大切な友達もいるから…
「そういえば、あかりん!聞いた?」
「ん?何を?」
「特選クラスの話…」
「あ〜…あんまり良い噂聞かないよね…」
「私の友達も特選クラスに選ばれたんだけど、レベルアップポーションを飲むことを拒否したんだよね」
「そうなの?」
「あかりんに注意されてたからね、友達にも伝えといたんだ」
「そっか…ありがとね。ちーちゃん」
「でも…その子、宗次先生に無理矢理レベルアップポーションを飲まされちゃって…」
「ええっ!?無理矢理!??」
「そうなの…吐き出そうとしたらしいんだけど、すごい力で押さえられて抵抗できなかったって…」
「そんな…酷い…」
(そっか…やっぱり宗次先生にも副作用が出てるんだ…)
「で、その子はどうなったの?」
「それがね、その話を聞いた後から連絡が取れなくって…あっ!うっちー!!」
前を歩く集団の中に、今話した友人がいたみたいだ。あのバッジ…あれが特選クラスか…
ちーちゃんが駆け寄ったが、うっちーと呼ばれた子は振り返りもしない。
「ねぇ!うっちーってば!」
「なぁに?気安く話しかけないでくれる?」
それだけ言って、その子はあたし達など眼中にないかのように、仲間たちの集団と共に歩いて去っていった。
「そんな…うっちー…どうしちゃったの…?」
呆然と立ち尽くす、ちーちゃんが、悲しそうな顔をしている。
「今の子がそうなの?」
「うん…」
「なんだか、感じの悪い子だったけど…」
「違うの!あかりん!うっちーはあんな事言う子じゃなかったのよ!」
なら、やっぱりレベルアップポーションの副作用が出ていると考えるべきか…本当に厄介だな…
特選クラスの悪い噂はそれだけじゃない。
実技演習のときに、他クラスの生徒に大怪我をさせた…とか。
それを、「この程度で怪我をするやつが悪い!」と宗次先生が揉み消した。なんて話もある…
他にも、敵の出なくなった演習ダンジョンの中で、女子生徒に性的暴行を加えている…だとか…
装備やアイテムを無理矢理奪い去ったなんて噂もあったな…
そして、特選クラスに反抗的な態度を取った生徒は演習ダンジョンに連れて行かれて…
信じたくはないが…この2ヶ月の間に行方不明になった生徒が、何人かいるらしい…
そして、学校側はそのことを問題視していないのだ。
「どうしたらいいの?おにぃ…」
冒険者学校を蝕みつつある闇に、明璃は、いなくなった兄を想い、どう対処すればいいのか…と途方に暮れた。
―――――――――――――――――
あとがき。
宗次さんの副作用は、講師として、生徒を強い冒険者に育てる!というものです。その為には手段を選ばなくなっています。
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