第126話 真央が消えた日
いきなり現れた刑事さんに連行されるようにパトカーに乗り込むところで、家の中から、父さんと、母さん、明璃が出てきた。
「真央!」
「まーくん!」
「おにぃ!」
「心配しないで、多分、やつらの仕業だと思う…」
そこまで言えば、家族はわかってくれた。
「影狼のナンバーズとアルスの分体は、預けておくから、何かあったら連絡して」
「ああ、わかった」
「まーくんに何かあったら、警察署ごと燃やしちゃうから、安心して!」
いや、それは…逆に安心できないんだが…
「父さん…母さんを止めてね」
「あはは…」
「おにぃの無実は必ず証明するから!待ってて」
「明璃、そんなに気負わなくていいんだよ。いざとなったら逃げるしな」
笑いながら、明璃を宥めて、
「逃げるって…」
俺の宣言に明璃が呆れている。
「もうっ!いきなり来て逮捕だなんて…おにぃが怒らないからこっちまで調子狂っちゃうよ…」
「咲希にもよろしく言っておいてくれ」
「わかった!でも、サキ姉は心配すると思うよ」
「そうだな…咲希には、ちゃんと俺の口から説明したほうがいいか…」
「うん。その方がいいと思う」
…
「もういいかい?」
「あ、はい!お時間を取らせてすみませんでした」
「いや、大人しく従ってくれてこっちも助かるよ」
「じゃあ、行こうか」
…
警察署に着き、取調室というのだろうか?部屋に通され、椅子に座らされた。
刑事さん達はステータスに覚醒していて、ダンジョン関連や冒険者の犯罪を取り締まる部署の所属らしい。
「さて、もう一度言うけれど、君にはダンジョン内殺人と拾得物横領の容疑がかかっている」
「詳しく説明してもらってもいいですか?」
「そうだな…まずはこれを見てもらいたい」
刑事さんから見せられたのは、俺が美智子さんを斬り殺す場面が撮影された映像だった…
「これは、とある筋から提供された物なんだけどね…」
とある筋ってのは、チーム
「ここに映ってるのは君で間違いないよね?」
確かにここに映ってるのは俺だし、この場面は覚えがある…
「はい…これは俺で間違いありません…」
認めたくはないが、嘘をつくわけにはいかないだろう…
「この映像を提供してくれた方々は、君が仲間の1人を斬り殺したと証言しているんだ。それは間違いないかな?」
「いえ!それは間違いです!彼女は生きていますから!」
「嘘を言ってはいけないよ…この映像が撮影された時に、提供者である方が仲間の死亡を鑑定で確認している。君はその人が嘘を言っているというのかね?」
あいつら…鑑定までしてるのか…
「こんな事を言いたくはないんだがね…君は世間から嘘を吐く人間だと言われていることを知っているかい?」
宗次さんとの対談のことか…
「嘘吐き魔王…君はそんな風に揶揄されているそうじゃないか」
世間が俺のことをどう噂しているかという話は聞いたことがある…
「それは…」
美智子さんの生存を警察に確認してもらえれば、殺人の容疑は晴れるだろうけど…
今の美智子さんは動かせない状態にある。魂が覚醒を拒んでいるとしたら、何かの衝撃で再び魂と肉体の
そうなった場合、2度目の蘇生はリスクが大きすぎるからな…
俺は刑事さんの言い分に反論する言葉が見つからなかった…
刑事さんの追求が続く。
「そして、本来なら彼らが拾得したはずの魔石を返却せずに、自分の懐に入れたそうじゃないか!」
「それは違います!彼らとはボスを討伐したチームが戦利品を取得すると約束してありました!」
「はぁ…そんな報告はなかったよ。それに、映像を見る限りでは、ボスの討伐は彼らが行ったそうじゃないか。君らは疲弊した彼らの隙をついて、魔石を奪い取ったんだろう!?」
「そんな!?それこそ言いがかりです!ボスを討伐したのは俺達です!」
「それを証明できるかね?」
「いや…それは…」
討伐の証明なんて、試験証のようなものがなければ不可能だ…
「まぁ、君には君の言い分があるだろう」
「じゃあ!」
「少なくとも、君がボスを討伐できると証明できるだけの確証が欲しい。ステータスを公開してくれるかい?」
俺のステータスはどうみてもおかしなことになっている…公開なんて出来るはずがない…
「それは…強制ですか?任意ですか?」
「もちろん、任意だ。だが、やましいことがないのなら公開すべきだろう?」
どうすればいいか、悩んたが…
「すみません…ステータスの公開は拒否します」
「なんだって!?君にとって不利になるとわかっていても、公開はしないと言うのかね?」
…
「すみません…公開はできません…」
「そうか…残念だよ…今日の聴取はここまでにしよう。明日になって気が変わったなら言って欲しい」
逮捕され、事情聴取を受けて、自分が不利になるとわかってもステータスの公開を否定してしまった…
俺は刑事さん達の不信感を払拭することができずに、留置場で一晩を明かすこととなった。
…
それから、数日間の留置場生活を送り、
チーム
「いい加減、認めたらどうだ!君は、チーム
「違いますよ!何度言ったらわかってくれるんですか!?」
「なんだ!その態度は!?」
ドンッとテーブルを叩く刑事さんに対して、もう何を言っても無駄なのか…と半ば諦めの境地に達していた。
次の日…
「出ろ!面会だ!」
留置場に勾留されている俺の元に、面会を希望する者がいると告げられた。
「真央…」
「まーくん…」
「父さん…母さん…」
「大丈夫?だいぶ
物騒なことを言っているが…それもいいかもな…なんて思う自分がいることに気づいた。
「おいおい…真央…本気か?」
「父さん…ごめん…少し疲れてるみたいだ…」
「あまり無理をするなよ。真央のことを信じてる人は父さん達も含めて、たくさんいるんだからな」
「うん…わかってるつもりだよ」
「また来る。会長も動いてくださっているようだからな。もう少しの辛抱だぞ」
「そっか…会長も…うん。わかったよ。またね、父さん」
…
一人になって考える…
俺はこの世界で何をしたかったんだろう?
どうして、異世界からの侵略を防ごうとしていたのだろうか…?
この世界のため?
違うな…
人々を守りたいから…?
これも違う…
浮かんでは消え、浮かんでは消え…
今まで、この世界でやってきたことの全てが意味のないことのように思えるようになってきた…
そうか…そうだな…
俺は…ただ…
女神の思いどおりにはさせない!
その為には、俺の中に封印されている全ての仲間を開放しなくちゃな…
自分の原点を思い出し、行動に移すことにする。
「ドルフ、影渡りだ」
「御意」
留置場から消えた俺は、まず両親の元へ。
「父さん…母さん…」
「真央…行くのかい?」
「あなたがそう決めたのなら、好きになさい。でも、これだけは忘れないで。私達はいつまでもあなたの味方よ」
「ああ。世界中が君の敵となっても、僕らがいることを忘れないでくれ」
「ありがとう…父さん…母さん。明璃にもよろしく言っといて。じゃ、行くね」
「気をつけてね」
次に訪れたのは咲希の部屋…
「う…うぅん…」
「咲希…」
「!!えっ!?真央?ど…どうして…ここに?」
「咲希の顔を見たくてさ…」
「バカ…」
咲希が顔を赤らめているが、俺の表情を見て、何かに気がついたようだ。
「行っちゃうの?」
「うん…俺は俺のやるべきことをするよ」
「そっか…私も…!いや…ううん。いい」
「ごめんな」
「わたしももっと強くなって待ってるから!」
「ああ、必ず帰ってくるよ」
二人の顔が近づく。そっと唇を重ね、咲希の瞳から溢れた涙を拭って、真央は、影の中へと消えていく。
この日を境に、獅童真央という一人の人間が消息を絶った。
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