第121話 竜神皇

「な、何だ?何が起こっていやがる…」

 ダンジョンの中を物凄い数の竜達が移動しているのを目にしたドレイクが訝しむ。

「これは…魔物氾濫?いや…でも…出口に向かっているわけではなさそうね…」

「行けばわかるだろ?」

「そうだな」

 チーム皇帝エンペラーの面々が竜の後を追いかけて移動を開始した。


 ―――――――――――――――――

「グルゥオォォォォォォ!!」


 神の縛鎖グレイプニルに捕われ、地に伏せた竜神皇の咆哮が、ダンジョン内に存在する竜を呼び寄せる。


 地上からは、先程斃したような、地竜、火竜、走竜、剣竜などが地響きを立てながら集まってくる。


 空からは、ざっと見ただけでも風竜、空竜、飛竜、雷竜などが空を埋め尽くすように集まってきた。


「すごい数だな…」

「おにぃ!呑気なこと言ってる場合じゃないよう!」

「いや、しかし、この数は流石に厳しくないか…?」

 咲希も明璃も不安が顔に出ているな…


「リーナはそのまま拘束を」

「はい」

「麗華と零士は、父さんと母さんと一緒に竜神皇を倒してくれ!」

「わ、わたくし達だけで…ですか?」

「超えなきゃならない壁なんだろ?その代わり、集まってくる奴らは俺達が、引き受ける!」

「わ、わかりましたわ!やれるだけのことはやってみます!」

「父さんと母さんも頼むね」

「自分達の仇討ちって言うのもおかしな話だけどね…」

「そうね。焼かれた分はきっちりお返ししてあげなくちゃね」

 頼もしい返事が返ってきたので大丈夫だろう。


「咲希は地上を」

「わかった」

「明璃は空の竜を狙ってくれ」

「やってみる!」

 少し気負い過ぎ…か?

「危ない時はアルスが守ってくれるから、安心してくれていいぞ」

「そ、そっか。そうだね。うん。わかった!」 


 さて…さっきから念話が煩いんだが…待たせたな。

「ジーク。召喚」


 輝く魔法陣から現れた偉丈夫が片膝をつき、頭を垂れる。

「同族の非礼と遅参の汚名を返上させていただきたく存じます」

「気にするな。久しぶりの戦場だ。思う存分暴れて来い」

「承知つかまつる!」


 男の身体が輝く黄金の竜となり、空へと駆け上がった。


「愚王に仕えたことを呪うがいい」


 ゴガァアァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!


 黄金の竜の口から放たれた竜息吹ドラゴンブレスが空を埋め尽くす程に集まっていた多種多様な竜の群れを、たったの一撃で焼き尽くした。


【名前】ジークヴルム・バハムート

【種族】竜神皇

【LV】999

【HP】99999/99999

【SP】35000/35000

【力】9999

【知恵】3500

【体力】9999

【精神】3600

【速さ】5400

【運】99

【スキル】

 王権、竜言語魔法、王の威圧、咆哮、竜息吹、竜鱗、真武術、絶対切断、

 言語理解、念話、人化、気配察知、魔力感知、高速思考、並列思考、

 物理攻撃耐性、魔法攻撃無効、精神攻撃無効、状態異常無効

 ―――――――――――――――――


(あれは…何だ?)


 竜神皇は混乱する。

 自分は生まれながらにして王であった。いや、王であることを自覚していた…と言うべきか。

 この狭いダンジョンの中で、自分に従う者は庇護下に置き、従わぬ者は力ずくで排除した。

 たまに訪れる小さき人間が庇護下にある竜を倒すような動きを見せたので、王自ら動いて、小さな人間を燃やし、喰らい、撃退したこともある。

 やがて、このダンジョン内の全ての竜を従えた頃、自身の身体に変化が起こった。

 竜王であった自分が竜神皇へと進化したことで、自分の力には絶対の自信を持っていたのだ。


 だが、今はどうだ?

 わけも分からぬ鎖に縛られ、空を飛ぶどころか、身体を動かすことすら封じられている…

 それも、相手は竜ではなく、たかが獣に…だ。


 無様を晒す、自分自身に怒りを感じ、このダンジョン内の全ての竜を呼び寄せた。

 愚かな人間も生意気な獣も、全て我が配下の餌となるがいい!


 だが、突如現れた、たった1体の竜がその全てを覆した…

 たった1発の竜息吹ブレスで配下の竜が消し飛んだのだ…


(あれは…何だ?)


 自分の見た光景が信じられない…

 王である自分の竜息吹ブレスでもあそこまでの威力はないとわかっているからだ。


(俺は…王ではなかったのか…?)


 頭に浮かんだその疑問に答えてくれるものはいない…


「鉄壁!」

 今まで、どんな敵をも引き裂いてきた自分の爪による攻撃が、小さな人間ごときに受け止められている。


 グガァァァァァァァア!!!


 全ての竜を従えてきた、自慢の竜息吹ブレスですら、その男を焼き尽くす事ができずにいる…


「限界突破…神気開放…被弾反撃ダメージカウンター


 ガ…ガハッ


(まさか…小さな人間ごときの攻撃で、これほどのダメージを受けるとは…)

 自身の受けたダメージ量に驚愕する。


神炎アルイグニス

 その後ろにいる女から放たれた魔法は、炎に対する完全耐性を持つ自分の身体を燃やした…


(ば、バカな…)


 炭化した翼が、いつの間にか近づいていた男の持つ、小さな刃によって斬り飛ばされた…


 ギャオォォォォォ!!


 小さな者から受けた痛みが、己に屈辱を与える。


氷剣のアイス鎮魂歌レクイエム!」


 グ…グガガ…

(わ、我が…このような小さな人間に…)


 燃やされ、斬り裂かれ、絶対の防御を誇る龍鱗が剥がされたところに突き刺された剣から、絶対零度の冷気が竜神皇の身体の内部に伝わる。

「ぐ…くぅぅ…」

恐らく、持てる全魔力を注ぎ込んでいるのだろう。麗華の口からうめき声が漏れた。


 パキィィィィインン!!!!


 完全に凍りついた、竜神皇の身体が砕け散り、氷の結晶が空中に散らばって降り注いだ。


「や、やりましたわ!わたくし達の勝利ですわ!!」


 麗華が勝鬨をあげ、再戦リベンジマッチは幕を閉じた。

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