第119話 地竜

 横穴の奥は、大きなドーム状の空間になっていて、その中央に翼のない巨大な竜が眠っていた。


「準備はいいか?」

「ええ。よくってよ」「こっちもOKだ」


「魔物鑑定」

【名前】なし

【種族】地竜

【LV】70

【HP】6000/6000

【SP】3000/3000

【力】500

【知恵】330

【体力】750

【精神】360

【速さ】250

【運】65

【スキル】

 突進、噛みつき、咆哮、烈震、竜息吹、堅牢、土魔法、物理攻撃耐性、状態異常耐性


 地竜は防御力重視で土属性を得た、下位竜から進化した、属性竜だ。

「防御力が高くて、物理耐性があるぞ。魔法主体か防御無視系の技で攻めろ!」

「わかりましたわ」「了解だ」 


 地竜に対峙する、麗華と零士のステータスはこうなっている。

【名前】竜咲 麗華

【職業】聖氷の戦乙女ヴァルキリー

【LV】76(7up)

【HP】1550/1550

【SP】1540/1540

【力】388

【知恵】390

【体力】312

【精神】318

【速さ】238

【運】76

【スキル】

 剣術、氷剣術、氷魔法、光魔法、勇士の行軍、属性強化、勇士の鼓舞、魔力操作、闘気開放、消費魔力半減、SP自動回復(NEW)、勇士の叡智(NEW)

【希少スキル】

 絶対凍柩コキュートス、直感


【名前】進藤 零士

【職業】闇夜の探索者ナイトサーチャー

【LV】71(8up)

【HP】1090/1090

【SP】740/740

【力】296

【知恵】222

【体力】230

【精神】293

【速さ】370

【運】79

【スキル】

 暗殺術、夜目、気配察知、魔力感知、罠探知、罠解除、隠密、魔力操作、集団隠秘、幻影、危機察知(NEW)、必殺の刃クリティカルエッジ(NEW)


 麗華が新しく覚えた、【勇士の叡智】はパーティ全体に知恵UPの強化。

 そして、零士の【必殺の刃】は防御無視の攻撃だ。

 なら、この地竜戦は二人に任せても大丈夫そうだな。


 俺の鑑定を受けた、地竜が目を覚まし、こちらを見て、矮小なる人間であることを確認すると、愚かな獲物が自分に狩られるためにやってきたのだと嘲笑うように、

「グオォァァァァァァァァァ!!!」

 と凄まじい咆哮が俺達に向けて放たれた。だが、俺達のレベルで、この咆哮を受けて戦意喪失するような者はいない。


 その咆哮が開戦の合図だと言わんばかりに、麗華が地竜に向けて走り出した。

 その隙に零士は隠密と幻影を発動し、自身の気配を周囲と同化させていく。


 手に持った氷の魔剣アイスブリンガーを地面に突き刺し、

絶対凍柩コキュートス

 希少スキルの絶対凍柩コキュートスを地竜に向けて放つ。地面を伝わる冷気が氷の魔剣アイスブリンガーによって増幅され、いつもより速く、それは相手へと到達する。


「グォォォ…」

 矮小なる人間の小賢しい攻撃だと侮っていた地竜の足が凍り、ほんの一瞬身動きが取れなくなった。

必殺の刃クリティカルエッジ

 気配を消して近づいていた零士が、その一瞬の隙をついて、防御無視の攻撃を刃に乗せる。

 スキルが乗った影の刃シャドウエッジの連撃が地竜の尻尾へ炸裂する。

 本来なら硬い鱗に阻まれるはずの斬撃が、まるでバターでも斬るかのようにするりと地竜の身体を斬り裂いた。

「ギャオォォォォォ」

 このダンジョンに産みおとされてから、初めて感じる痛みという感覚に、地竜が悲鳴をあげた。


 かつて、下級の竜だった自分が迷宮から流れてくる魔力を溜め込み、属性竜へと進化を果たした。

 その自分の巣穴へ、自らやってきた獲物に痛みという感情を呼び起こされ、地竜は今目の前にいる者共が、獲物ではなく、明確な敵だと認識を改める。


「グオォァァァァァァァァァ!!!」

 再び咆哮を上げ、自分に攻撃を仕掛けてきた人間へと意識を向けた。


 だが、地竜の攻撃はことごとく空を切り、麗華も零士も攻撃を躱しながら、逆に地竜へと攻撃を加え、地竜のHPを削っていく。

 一撃でも食らえば、戦闘不能になりかねない地竜の攻撃だが、麗華のスキル【勇士の行軍】によって、ステータスの速さが地竜を上回っていたからこそ、なんとかそれを可能にしていた。

 とはいえ、精神は徐々にすり減っていく。それでもなんとか耐え抜いているのは、この程度の竜に苦戦するようでは、到底あの竜には敵わないという意地と誇りによるものだった。


 自身の攻撃が躱され、ちまちまと刃を向けてくる人間にしびれをきらした地竜がその巨大な足を持ち上げた。

 ズドォォォォン!!!

 と足が地面に打ち鳴らされ、地竜が烈震のスキルを使った。


 地竜を中央に、まるで地面が波打つかのような揺れに、俺たちはバランスを崩して地面に倒れ込んだ。

 そんな俺達の方を向いた地竜の口の中に魔力の高まりを感じた。


竜息吹ブレスが来るぞ!」

 俺はみんなに警戒を伝える。

 俺の警戒を聞き、すぐに立ち上がった父さんが俺たちの前に立ち、逆鱗盾ラースシールドを構えた。

 地竜へと攻撃をするために、近寄っていた麗華と零士はその地竜の攻撃を阻もうと、側面へと移動し、攻撃を加えようとしている。

 その動きを見た俺が麗華へと指示を出す。

「麗華!竜息吹ブレスを撃つと硬直する。そのまま撃たせて、硬直した奴に攻撃を!」

「わかりましたわ!」


 なにやら小細工でもしているのか?だが、属性竜となった地竜は自身の放つ竜息吹ブレスに絶対の自信を持っていた。

「ガアァァァァァァァァァァァァ!!!」

 地竜の口から放たれた、土属性の竜息吹ブレスは砂塵や礫を伴う、巨大な散弾銃とでも呼べるような凶悪なブレスだった。

 だが、俺達の前で逆鱗盾ラースシールドを構える父さんの防御はそれを軽々と受け止めた。

「さすかだね、父さん」

「まぁ、これくらいはできないと、鍛えた意味がないからね」

 そんな軽口を叩きながら、竜息吹ブレスの効果時間が過ぎるのを待つ。


 そして、竜の口から放たれた竜息吹ブレスが止まった瞬間を狙って、まずは零士が防御無視の必殺の刃クリティカルエッジで地竜の身体を斬り裂いた。

 その傷口へと、麗華が氷の魔剣アイスブリンガーを突き刺し、

氷剣の鎮魂歌アイスレクイエム

 必殺の一撃を叩き込む。


 地竜は混乱していた。今まで自身の竜息吹ブレスは目の前に立つ全ての者を破壊してきた。それ故に絶対の自信を持っていた。

 だが、目の前にいる小さな者たちは、それを平然と受け止めた。そして、竜息吹ブレスを放ったあと、ほんの少しだけ身動きが取れなくなる瞬間に再び身体に痛みを感じたのだ。


 絶対の防御を誇る地竜でも、身体の中から絶対零度の攻撃を受けては防ぎようもなく、麗華の剣から伝わる冷気が、地竜の心臓を凍らせた。


 薄れゆく意識の中、地竜は自分が獲物だと思っていた矮小なる人間を敵だと認めたが、それすらも間違っていたことに、ようやく気づく。

 獲物は自分の方だったのか…と。


 ズズゥゥゥゥンン


 と大きな地響きを立てながら、地竜が地面へと倒れ込み、やがて黒い靄となって消えていった。

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