第116話 竜の巣

「それでは準備はよろしくて?」

 朝早くに迎えに来た麗華に連れられて来たのは俺、咲希、明璃、それと俺の両親の5人。

 眼の前には、これがプライベートジェットってやつか…がグォングォンとエンジンを吹かせている。

「では、乗り込んでくださいな」

 促されるまま、ジェットに乗り込み、座席に座りシートベルトを締めた。

 やがて、ジェット機が走り出し、離陸する。

「それで、どこまで行くんだ?」

 機体が安定したので、麗華に話しかける。

竜の巣ドラゴンズネストと呼ばれるダンジョンですわ」

「富士の火口にあるダンジョンだよ」

 父さんが場所の補足をしてくれた。


 …


 着陸したのは、滑走路付きの大豪邸だった。

 まぁ、そりゃそうか…富士山に直接乗り込むってわけにはいかないもんな…


 …


「一時間後に出発しますわ」

 麗華がそう告げ、俺達は大豪邸の中の一室へと案内された。

「父さん、竜の巣ってどんなダンジョンなの?」

 過去にこのダンジョンに訪れたことのある両親に、ダンジョンの情報を求めて質問する。

「入り口の門が富士の山頂にあるんだ。中は火山ダンジョンで、出てくる敵は全て竜なんだよ」

「うへぇ…山頂まで登らないといけないのかぁ…空飛べる仲間を解放しとくんだった…」

 この後待っている登山に辟易しながら、話を続ける。

「登山と言っても、ステータスがあるからね。ダンジョンができる前と今とじゃ、感覚が大違いだと思うよ」

「そういうもんなの?」

「前のアタックの時も、5合目から1時間ちょっとくらいで山頂まで登れたしね」

「それなら、まぁ…」

(ドルフを先行させておこうかな…)

(お任せ下さい)

 心の声が伝わったようだ。


「ね、ねぇ!それよりも、敵が全部竜ってホントなの?あたしまだ本物の竜って見たことないんだけど…」

 明璃が竜と聞いて心配している。自分のステータスがすでに人間の限界を超えていることを忘れているようだ。

「竜といっても、以前の父さん達でも相手が1匹なら問題なく討伐できたからね。彼らは縄張り意識が強いのか、群れないから、複数に襲われるってことはなかったよ」

「そうなの?」

「種類によっては群れるやつらもいるし、竜のつがいが子育てとかしてたら、脅威になるんだけどな…こっちのダンジョンで魔物同士で子供を産むなんてことはなさそうだから、その心配はないかもなぁ…」

「真央、群れる竜がいるってのはほんとかい?」

「竜の中でも弱い部類の下級の飛竜なんかは群れる事が多いよ」

「そうか…僕らは前回はそれには遭遇しなかったってことか…」


「あ、そうだ!父さんと母さんにも渡しておく物があったんだ」

 前回の女神のかけら戦はイレギュラーだったから、軽装で臨んだけど、今回は本格的にダンジョン攻略になるからな…父さん達にも装備品を渡しておこうと思うんだ。


 俺はアルスに頼んで、次元収納から父さん達に合いそうな装備を取り出してもらった。

「まずは、父さんにはこれと、これと、これね」

 父さんに渡したのは、一振りの剣と大きな盾、そして、全身鎧。

 防御力の高い地竜から、竜牙刀と同じ素材で作られた、両刃の直剣、『竜殺しドラゴンスレイヤー』、1匹の竜から1枚しか取れない、竜の中で最も堅い鱗、逆鱗だけで作った盾、『逆鱗盾ラースシールド』、竜の鱗をふんだんに使った鱗鎧スケイルアーマーをミスリル合金で補強した『竜鎧ドラゴンメイル』だな。


 「母さんにはこれと、これと、これね」

 渡したのは、杖とローブとブーツ。

 火竜の魔石を核にした、古代魔樹エルダートレントの『火竜の杖』は火魔法全般の威力を上げる。

 ミスリル鋼糸で編み上げたローブに炎の魔神イフリートの魔力を馴染ませた。『炎の魔神の長衣イフリートローブ』、俺の不死鳥の長衣フェニックスローブが防御寄りなら、これはより攻撃的な防具となる。攻撃的な防具って意味分からないと思うが、こいつは全身から発する炎属性の魔力を3割増しで強化する特性があるんだ。ブーツは火竜の皮革と鱗を使った、耐久性重視の物『火竜のブーツ』と、まぁ名前も安直だが、防御力は馬鹿にできないレベルだ。


 元々、あっちの世界では下級の竜しか存在しなかったのだが、俺が好き放題強化と進化を繰り返していたら、世界の魔物の進化体系もめちゃくちゃになったみたいで、最終的には魔物の種類が増えていた。

 そうなれば素材は有り余るほど手に入ったからいいんだけど、初期は、こんな素材が欲しいなぁ…なんて呟くと、自分の尻尾や腕を切り取って、「お使い下さい!」なんて持ってくる奴らばかりで困ったものだった…

 一番酷いのは、俺の目の前で魔石を取り出して、力尽きたやつもいた事だ…すぐにミラを呼んで蘇生させた上、厳重に説教して、なんとか二度としないと誓わせたが…


 おっと…思考が逸れてしまった。


「真央…こんな凄いもの、本当にいいのかい?」

「あなた。まーくんからのプレゼントなんだから、素直に受け取りましょうよ」

「うん。今の父さんと母さんなら、適当な装備でも大丈夫だとは思うけどね…念のため、そこそこ強い装備を身に着けていてほしいんだ」

「これで、そこそこ?」

「私の目には最上級装備以上にしか見えないのだけど…」


 …


 みんなの装備や準備の確認をし、指定された一時間が過ぎた。

「そろそろ出発しますわ。準備はよろしくて?」

 麗華が迎えに来たので、

「ああ、大丈夫だ」

 代表して、俺が答え、屋敷から出る。

 用意された車に乗り込んで、富士の5合目を目指していく途中で、

(魔王様、山頂に到着しました)

 ドルフから連絡が来た。

(そうか、サンキュー。こっちに戻ってきてくれ)

(御意)

 足元の影からドルフが顔を出す。

「また後で呼ぶから、休んでいてくれ。送還」

 ドルフを送還し、みんなに山頂までの転移が可能になったことを告げる。

「真央…まったく…君は…」

「真央…お前なぁ…」

「まーくん…あんまり仲間の方に無理を言ってはダメよ?」

「おにぃ…流石というか何というか…」

「真央さんは、相変わらずですのね…」

「非常識な…」

 みんなが呆れたような目で俺を見ているが、山登りなんて短縮できるならそれでいいじゃんか。


 5合目の駐車場に車を止め、全員が降車すると、車は道を引き返していく。

「さて、それじゃあ、行こうか。ドルフ、頼んだ」

「御意。影渡り」

 景色が変わり、山頂にあるという竜の巣への門が視える場所へと転移した。


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