第109話 生中継


「すみません…突然の訪問をお許しくださいませ」

「いえ。日本が誇るSランクで竜咲グループの御令嬢ともなれば、いつでも歓迎しますよ。それで今日はどのようなご要件ですかな?」

「はい。実は、以前お受けした、竜の討伐の件で…」

「ほう…あれですか…」

「新たな協力者の助力を得れば、今度こそ確実に依頼を果たせると思うのですわ」

「新たな協力者ですか?」

「はい。先日世界ランキングのトップに立った彼から、協力の要請を取り付けることができましたの」

「なるほど。それは頼もしいですな」

「では、彼を連れて、再びわたくし達はかの竜に挑もうと思いますわ」

「いや、それには及ばないですよ」

「それは、どういうことですの?」

「貴女方の依頼失敗の報告を受けた後、別のチームに依頼を打診したんですよ。もうすぐ、彼らも来日してくれる算段となっていますからな」

「来日?」

「アメリカから、今までランキングのトップに位置していた、チーム皇帝エンペラーがこの依頼を受けてくれたんですよ」

「チーム皇帝エンペラー…」

「もし、どうしても。というのなら、バックアップとして、同行することは許可しましょう」

「そうですか…わかりましたわ。ではわたくし達を、チーム皇帝エンペラーの皆さんに同行させてください」

「いいでしょう。彼らには私から伝えておきましょう」

 こんなやりとりをして、麗華は依頼主である、首相官邸を後にしたのだった。

 …

「よろしいんですか?お嬢様」

「仕方ありませんわ。最初の依頼で失敗したわたくし達が力不足だった…ということですから」

 麗華は悔しそうな顔をしている。

 ―――――――――――――――――――――

「いや、しかし、驚きましたね」

「そうですね。まさかダンジョンを完全に消滅させることかできるとは…」

「その話、本当なんですかぁ〜?」

「すでに、Cランクのダンジョンが跡形もなく消えているそうなんですよ〜」

「では、現場に繋いでみましょう。和久井さ〜ん」

 …

「はい!こちら、現場の和久井です!今日は初心者御用達のFランクダンジョンへ来ています」

 へぇ〜…あれが現場リポーターってやつか…中継車やら何やら、すごい人の数だなぁ…

「え〜。ここは数ヶ月前から魔物の発生が止まっており、通う冒険者もいなくなり、すっかり閑古鳥が鳴いているのが現状なんですよね」

 お?そろそろ出番かな?

「今日はこのダンジョンの迷宮主ダンジョンマスターを倒し、迷宮から魔物を排除した、チーム魂の探索者ソウルシーカーの皆さんと、ダンジョン協会の神崎会長にお越しいただいてまーす」

「どうも…」

(ぷっ…おにぃ、緊張してる)

(しょうがないだろ!テレビに映るなんて慣れてないんだから…)

「では、色々と質問をしていきたいと思います。え〜。獅童さん達がこのダンジョンのボスを倒したんですよね?」

「はい。そうです」

「それはどんなボスだったんですか?」

「えと…大きなスライムでした」

「獅童さんは、召喚士なんですよね?」

「はい。そうです」

「ここのボスを倒して契約しているなんて噂があるんですけど、本当なんでしょうか?」

「えと…まぁ。」

「ここで召喚して見せてもらうこととかできますか?」

(どうしよう…?)

(んー。いつものアルスちゃん紹介しちゃえば?)

「わかりました。アルス召喚おいで

 魔法陣から白いワンピースを着た少女が現れる。

「え?え?…女の子?」

 リポーターの女性がアルスを見て混乱している。

「マオー様、この、おねーさん、誰〜?」

(え?かわいい〜)

「あの…」

「はっ!すみません!えっと…この女の子は?」

「今言っていた、このダンジョンのボスのスライムなんです。普段は人間の姿でいる方がいいみたいなんですよね。本人も気に入ってますし」

「そ、そうだったんですね」

(え?めちゃくちゃ興味ある…ってか、もっと聞きたいんだけど…時間が…)

「いや〜。驚きました!一旦スタジオにお返ししま〜す!」

 …

「いやぁ〜。驚きましたね!」

「そうですね。人の姿をしている魔物なんているんですね〜」

「スライムってあれでしょ?プニプニしたやつ?」

「僕もあのダンジョンのスライム部屋には行ったことありますよ。才能なかったんで、すぐ辞めちゃいましけど…」

「今日はスタジオに現役の冒険者の方をゲストにお招きしているので、話を聞いてみたいと思います。現役Sランクの竜咲麗華さんです!」

「ごきげんよう」

「竜咲さんは、あの女の子のことを見て驚いてなかったようですが、ご存知でしたか?」

「はい。彼らとはパーティを組んでダンジョンを攻略したこともありますから」

「なるほど。で?あの子本当にスライムなんですか?」

「そうですわよ。わたくしも初めてお会いしたときは驚きましたけど…」

「あ!ここで、向こうの方で動きがあったようです。和久井さ〜ん」

 …

「はい!こちら、和久井です!今から、魂の探索者ソウルシーカーの皆さんがダンジョンへ潜るようです」

 俺達は、打ち合わせ通り、ダンジョンへ潜る準備を始める。いや、正確に言うと、だが。

「え?あれ?あの…獅童さん、お一人だけですか?」

「あ、はい。ダンジョンに行くのはお兄ちゃんだけです」

「え〜っと…私達がついて行くと足手まといになってしまうんで…」

「足手まとい…?あの…これから一体何が行われようとしているのでしょうか?」

「それには、儂が答えよう。先日、迷宮には迷宮主というボスがいて、それを倒せば迷宮から魔物が生まれなくなるという話はしたと思うのじゃが…」

「はい。あの記者会見は日本中が注目してましたね」

「そのドロップアイテムである迷宮核ダンジョンコアを破壊することで迷宮が完全消滅することがわかったのじゃ」

「なるほど。では、これから、その迷宮核の破壊が行われるんですね?」

「そうなのじゃが、迷宮核を破壊すると、罠が起動しての…かなり強力な魔物が出てくるんじゃ。今のところ、その魔物の対処が真央くんにしかできない。ということじゃな」

「え?…あの獅童さんって、そんなに強いんですか?」

「まぁ、儂が知る限りでは、彼に匹敵する人物はおらんな」

「そうなんですね…あ!今、獅童さんがダンジョンの門に消えました!」

 …

「さて。ちゃちゃっと片付けてきますかね」

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