第110話 生中継2

 ダンジョンに入った俺は、まず、女神のかけらとの戦いに備えて、それなりの広さのある場所へ移動することにした。よく考えてみると、このダンジョンの通常ボスは討伐していないので…スライム道場のあった罠部屋へと転移した。


「全員召喚!」

 地面にこのダンジョンの迷宮核を置き、仲間達を呼び出す。


「頼んだぞ。レオン」

「了解デス」


 前回と同じく、レオンカイザーの輝煌剣が迷宮核を砕くと、女神のかけらが現れる。

「魔物鑑定」

【種族】女神のかけらF

「やっぱりFだったか…」


神の縛鎖グレイプニル!」

 すかさずリーナが女神のかけらを拘束する。

 またあの黒い刃の乱発が来るか!?と思ったが、女神のかけらは拘束されたまま動く気配がない。

「もしかして…あの攻撃が使えないのか?」

「ランクが低い分、戦闘力が低下していると考えられますね」

 ミラが見解を述べる。


「レオン!斬り裂け!」

「了解デス」

 レオンカイザーが光の属性を纏った輝煌剣を振るう。

「ふむ…物理攻撃はやっぱり効かないか…」


「ミラ、光魔法で攻撃してみてくれ」

「わかりました。聖光ホーリーライト

 女神のかけらの上方から聖なる光が降り注ぐ。

「ギャァァァァァァァァ!」

 致命傷にはならないが、ダメージは与えられるみたいだな…


「さて、仕上げと行くか」

 先の女神のかけらとの戦い後、明らかにおかしな数値になっている、自身のステータスを、今回の女神のかけらを相手にして試すことにする。

「神気開放…」

 魔を纏い、気を練り、仙を経て、神に至る…

 異世界で、神気を扱うために必要とされる情報が、口伝としてのみ、密かに残されていた。

 神ならぬ身で扱えば反動ダメージを受けてしまうが、前回のレベルアップでステータスに記載されたので、反動ダメージの確認も含めて、神気を開放する。

 全身から発する神々しい光が刀へ伝わる。

「神気滅刀…神威!」


 神気を纏った、竜牙刀の一撃が女神のかけらを斬り裂いた。


「ギャァァァ………」


 女神のかけらが崩れていく。影の身体が霧散するとともに、レベルアップを告げるアナウンスが鳴り始めた。


“レベルが上がりました…”

“レベルが上がりました…”

“レベルが上がりました…”

“レベルが上がりました…”

 …

 …

 …

“レベルが上がりました…”

“レベルが上がりました…”


「どうやら、多少の反動はあるみたいだが、問題なく神気も扱えるようになったみたいだな…」

 となると、竜牙刀では厳しくなってくるか…?

 父から伝えられた、鍛冶神の神刀という情報に期待してしまうが、

 自分でも武器に関しては考えないといけないな…と思う、真央であった。


 ―――――――――――――――――――――


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!


「じ、地震ですか!?」

 リポーターの女性が慌てている。

「どうやら、終わったようじゃの」

 神崎会長が落ち着いた様子で放った一言で、リポーターも落ち着きを取り戻したようだ。

「あの?終わったとは?もしかして…」

「ダンジョンの門を見なさい」

 会長の言葉で、カメラマンもダンジョンの門へとカメラを向ける。


「あれは何なんでしょうか?」

 ダンジョンの門の上に黒い球体が浮かんでいる。

「あれが、ダンジョン消滅の最終段階じゃよ。原理はわからんがの」

 黒い球体が、ダンジョンの門を吸い込もうとしているように見える。やがて、周囲の空間ごと捻じれ、ひしゃげた門が黒い球体に吸い込まれた。

 ダンジョンの門が跡形もなくなった後、黒い球体も空に溶けるように消えてしまった。


「み、見て下さい!ダンジョンが!ダンジョンが、すっかり消えてなくなっています!」

 リポーターの女性が興奮している。


「おかえり」

 興奮しているリポーターを横目に、俺の帰りを仲間が待っていてくれた。

「ただいま」

「前より早かったね」

「ランクFだったからな…それに俺のステータスおかしなことになってるし」

「たしかに」

「それにしても、またいきなりレベルアップしちゃったんだけど…」

「低ランクなら、ボーナスステージみたいなもんだよな」

「そんなこと言えるのは真央だけよ?私達じゃまだ足手まといでしょ?」

「そんなつもりで言ったんじゃないけどさ…」

「ふふ、いいのよ。本当のことだし。でも、いつか隣に立って戦えるように私も頑張るから!」

「おう!期待しとくよ」

 …

「いやぁ、しかし、本当に綺麗さっぱりなくなるんですね〜」

「あなた、冒頭で疑ってたでしょう?」

「ははは、この目で見るまでは信じられなくて…」

「竜咲さんも、ダンジョンの消滅というのは初めてご覧になられたんですか?」

「はい、わたくしも初めてのことで、驚いておりますわ」

「そうなると、一体、ダンジョンの中でどのようなことが行われたのかが気になるところではありますね〜」

「まぁ、危険な魔物が出現するという話ですので、カメラさんに入ってもらうのは難しいですかね〜」

「いっそのこと、獅童さんにカメラを持って入ってもらうというのはどうでしょう?」

「あ!それいいですね〜。次があるならお願いしてみましょうか。あははは」

「各地のダンジョンがなくなって、みんなが安心して暮らせる日がくるといいですね!それでは、今日も一日頑張っていきましょう!さよなら〜!!」


 こうして、ダンジョンを消滅させるという生中継番組は無事終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る