第107話 ダンジョン消滅
「真央…」
荒野のCランクダンジョンの門の前で真央の帰りを待つ咲希の口から、心配のあまり真央の名前がもれる。
「咲希ちゃん…まーくんは大丈夫よ」
咲希をそっと後ろから抱きしめて、声をかけてきたのは、真央の母の真由子。先程のスキル反動のダメージは渡された霊薬によって完治している。
「真由子さん…でも…」
「あの子は約束は守る子だから…信じて待ちましょう」
「はい…」
「すまんの…まさか、こんな事態になるとは…」
「会長のせいじゃないですよ。それを言うなら、迷宮核の破壊という情報を教えたのは僕ですから…」
父の隆の傷も転移後にアルスの分体から霊薬を渡されているので、もう大丈夫のようだ。
「おにぃ…」
明璃はダンジョンの門の方へと目を向け、今にも、何事もなかったように、ひょっこり兄が出てこないかと思いながら、兄の無事を祈っている。
みんなが不安を掻き消すように、心を強く振る舞っていた。
ドクンッ!
心臓が一つ強い鼓動を打ったような感覚がして、真央と魂の絆で繋がっているメンバーの頭の中にアナウンスが響く。
“レベルが上がりました…”
“レベルが上がりました…”
“レベルが上がりました…”
“レベルが上がりました…”
…
…
…
…
“レベルが上がりました…”
“レベルが上がりました…”
“レベルが上がりました…”
「何?これ…」
「真央が勝ったんだな…よかった…」
咲希がいち早くその現象の意味を悟る。
「そうか…そういうことなのね。さすが私の息子だわ!」
「私達の…だろう?それにしても…これほどとはね…」
「なら、もうすぐ帰ってくるんだよね?」
「ああ。きっとすぐに帰ってくるさ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!
「何!?地震?」
突如として、地面が大きく揺れた。
「みんな!気をつけて!」
受付のおばちゃんは机の下に隠れて身体を丸めている。
突然、咲希の足元の影から闇が吹き出した。
「キャアッ」
驚いて尻もちをついた咲希の視線の先に、影人狼に守られた、最愛の人の姿を確認する。
「…真央っ…」
立ち上がり、涙を堪えながら抱きついた。
「バカッ!…心配…したんだからね…ううっ…うわぁぁぁぁ!!!」
愛する人が生きてそこにいることに安心し、涙腺が決壊した。
「ご、ごめん…」
ただ謝ることくらいしかできない真央だったが、咲希が落ち着くまで、そのまま抱きしめてあげることにした。
まわりの家族がニヤニヤしているのに気がついてはいたが、触れたら負けとばかりに、無視を決め込んだ。
地震のような揺れは収まったが、地鳴りのような響きは聞こえている。
「うっく…ひっく…」
「落ち着いた?」
「うん…ごめん…」
「いや、俺も…みんなを邪魔者みたいに扱って…ごめん。本当はみんなで力を合わせて乗り越えなきゃいけないはずなのにな…」
「謝る必要はないさ。父さん達が力不足だった。それだけのことだよ」
「相手の強さが未知数だったから…みんなを守って戦うだけの自信がなかったんだよ…」
「でも、勝ったんだよね?」
「ああ、間違いなく、ヤツは消滅した。あ、そうだ!ドルフ!」
「はい」
「お前達、あんな攻撃をして平気なのか?」
おい…目を逸らすんじゃないよ。
「鑑定」
【名前】ドルフ・ドライセン
【種族】シャドウワーウルフ
【LV】850
【HP】20000/25000
【SP】18500/18500
【力】3500
【知恵】3200
【体力】2500
【精神】3100
【速さ】8500
【運】99
【スキル】
爪術、体術、暗殺術、影渡り、影分身、絶影、闇魔法、眷族招集、身体強化、
HP自動回復、HP回復量増加
念話、言語理解、気配察知、魔力感知、熱源探知、千里眼、並列思考、高速思考、影収納、
物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効
めちゃくちゃダメージ受けてるじゃねぇか!
「次から、あの攻撃は禁止な」
「いや、しかし…それでは…」
「瞬殺しろとは言ったけど、身を削ってまでとは言ってないからな?」
「わかりました…」
納得いかないって顔をしてるが、仲間が危険な目に合うのは承知できないんだよ。
「すまんかった!!」
突然、俺の目の前で神崎会長が土下座をする。
いきなりのことで面食らったが、
「あ、頭を上げて下さい。会長」
「いや。今回のことは完全に想定外じゃった…儂の好奇心で真央くん家族を危険に晒してしもうた…謝って済むことではないが、すまん!」
「いえ!元々、俺がやろうと言い出したことですよ。それに…遅かれ早かれ、これはやらなければいけないことだった。違いますか?」
「それは…そうじゃが…」
「会長…実は…もうあまり時間がないんです…」
「どういうことじゃ?」
「とある筋からの情報ですが…あと1年程で、異世界の軍勢がこの世界へ攻め込んできてしまう」
「なんじゃと?…嘘ではないんじゃな…」
「だから、それまでにできるだけ多くのダンジョンを潰さないといけないんですよ」
「わかった。なら、この
“神崎政繁と魂の絆を結びました”
神崎家には命を差し出す家訓でもあるんじゃなかろうか?
俺がそんな事を考えていると、地鳴りのような響きも収まろうとしていた。
「見て!ダンジョンの門が!」
ダンジョンの門の上に、さっき見た黒い球体が浮いている。
門が周囲の空間ごと捻れて球体へと吸い込まれていく。
「ひっ…」
その光景を見ていた受付のおばちゃんが震えている。
「何?あれ?」
「すごい光景ね…」
「危ないから近づいちゃダメだぞ!」
「まさか…本当にダンジョンが…」
「あれに飲み込まれたら、どうなるんだ…?」
「でも、おにぃ、門以外の物は吸い込まれてないみたいだよ」
「ほんとだ…」
これもダンジョンの不思議ってやつなのだろうか?
どうやら周囲に影響は与えなさそうなので、みんなで結末を見守ることにした。
完全に門を吸収した黒い球体は、そのまま黒い靄となり霧散してしまった。
こうして、この町にあったCランクダンジョンは完全消滅したのだった。
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