第105話 迷宮核の破壊

「ただいま。父さん」

「お?真央、帰ったのか…って、会長?」

「うむ。お邪魔しておるよ。隆くんも復活おめでとう…で良いのかの?」

「ありがとうございます。それで、今日はどうして?」

「真央くんから、ダンジョンの完全消滅の話を聞いての」

「ああ、それで!」

「儂がその瞬間に立ち会わないなんて事はないじゃろ」

「会長の悲願ですからね」


「父さん、他のみんなは?」

「明璃はさっき起きてきたし、咲希ちゃんも来てるよ」

「そっか、ならみんなを集めて移動しようか?」

「どこに行くつもりだい?」

「うん。実験は荒野のCランクダンジョンでやることにするよ」

「あそこか。確かにダンジョンがなければ、のどかな田舎町だからな」

「あっ、真央。おはよう」

「おにぃ、帰ってたんだ?」

「おう。今から、ダンジョンを完全に消滅できるかどうか試しに行くところだ」

「ほんとっ!?あたしも行く!」

「私も着いていくぞ」

 そんな食い気味に来なくたって、元々一緒に行くつもりだったからな。

「何が起きるかはわからないから、一応、装備は整えて来てくれ」

「わかった!」

 …

「準備はいい?」

「うん」

「OKだ」

「家の戸締まりもしたし、大丈夫よ」

「儂はいつでも準備出来とるぞ」

「そういえば、転移は初めてだから、緊張するね」

「ドルフ、頼んだ」

「影渡り!」

 …

 景色が一瞬で変わり、以前来た荒野のCランクダンジョンの門の前に俺達はいた。

「これが、転移か…凄いね」

「ほんとね。雨の日のお買い物とか便利そうだわ」

 主婦目線だと転移ってそんな存在なの!?


「さて…と。どこでやろうか?」

「どこって?」

「ダンジョンの外でやるか、中でやるか…」

「う〜ん…ダンジョンの中で試して、もしダンジョンの消滅に巻き込まれたら危なくないかい?」

「それもそうだね…」

「でも、外で迷宮核を壊したりして、もしも、女神の力が暴走でもしたら…町が大変なことになるわよ?」

「そうか…その心配もあるね…」

 みんなで相談をして、関係ない人を巻き込む可能性があるなら、ダンジョンの中でやったほうがいいということになった。

 ドルフや影狼達に待機してもらって、ヤバそうなら瞬時に転移できる体制で望む。

「じゃあ、迷宮に入ろう」

 …

 閑散とした受付のビルでは、暇を持て余した受付のおばちゃんがこっちを眺めている。

「あら?冒険者が来るなんて珍しいわね。ここのダンジョンは攻略されて、魔物が出ないんだけど、それでも入るのかい?」

「はい。手続きをお願いします」

「はいはい。無事の帰還をお待ちしてますね」

 定例の決まり文句を聞きながら、俺達は手続きを済ませ、ダンジョンに入っていった。

 …

 ダンジョンに入ってすぐ、だだっ広い荒野でここで手に入れた迷宮核を取り出して、地面に置いた。

「みんな、離れて。レオンカイザー召喚!」

 魔法陣が輝き、10mの巨体が姿を現す。

「御命令ヲクダサイ」

「レオン!輝煌剣でそこにある魔石を砕いてくれ」

「カシコマリマシタ」

 レオンが背中に背負った大剣を両手で持ち、上段に構える。

 ブォン!!

 という風切り音と共に、勢いよく輝煌剣が振り下ろされる。

 ガキィン!!!

 金属と金属がぶつかるような甲高い音が響く。

 ピシッ…ピシピシ…バキッ

 ほんの少しのかすり傷から、迷宮核にヒビが入り、それは少しずつ広がって、ついに迷宮核が真っ二つに割れた。


 キャアァァァァァァァァァ!!!


 女の悲鳴のような声が響き渡り、割れた迷宮核から、黒い靄が吹き出す。

「みんな!気をつけろ!!」

 その靄の持つ凶悪な魔力を感じて、仲間に警戒を呼びかける。


「何…あれ?」

 黒い靄が、段々と人の姿のようなものへと変わっていく。

 女性の姿シルエットの黒い影はその場に立ったまま、動く気配はない。


「魔物鑑定」

【種族】女神のかけらC

 咄嗟に鑑定をかけてみると、どう考えてもヤバそうな鑑定結果が表示された。

 鑑定を受けた女神のかけらという名の魔物が、こちらを敵と認識する。


 魔力の高まりを感じた俺は影狼達に撤退を命じる。

「ナンバーズ!全員を連れて撤退!」

「了解!」

「待って!おにぃは?」

「あれを野放しにはできない!」

「そんな…おにぃを残してなんて行けないよ!」


 そんなやりとりをしている内に、敵の魔法が完成する。

 真っ黒い風が俺達に向かって放たれた。

「ヤバい!アルス!全力防御!」

 アルスが本来の姿に戻って、俺たちの前に立ち塞がってくれた。


神の盾イージス!」

 そんなアルスの前に光り輝く盾の幻影が現れた。

 これは…父さんのスキルか?

「ぐうぅ…」

 輝く盾で黒い風を受け止めている父が苦しそうなうめき声をあげる。

「父さん!それ以上はダメだ!身体がもたない!あとはアルスに任せてくれ!」

 スキルを使う父の全身から血が吹き出す。スキルの強さに身体が耐えられないんだ…


 そんな父の横で母が魔力を高める。

神の焔ディバインフレイム!」

 かざした手の先、神々しい焔が影の女神を燃やす。

「くっ…」

 母の口元から血が流れた。

 やはり無理をしているようだ…


「ドルフ!強制転移だ!行けっ!」

「はっ!」


「真央っ?嫌だよ…?」

「おにぃ!ちゃんと帰ってきてね?」

「真央くん…すまん!」

「くそっ!これじゃ何のために鍛えたんだ…真央、死ぬんじゃないぞ!」

「まーくん…死んじゃダメだからね!母さん、待ってるから!」

 影が全ての仲間を飲み込み、この場から消え去った。


「アルス、守りは任せるぞ」

「マオー様を守ることがボクの使命だよ」

「リーナ、ミラ、ガルム、グリム、ドルフ、影狼達!全員召喚!」


 さぁ、女神ルフィアとの前哨戦だ。

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