第104話 竜討伐依頼

「真央は、これからどうしますの?」

「どう…とは?」

わたくしはあのドラゴンにもう一度挑んでみようと思っていますの」

「麗華ちゃん…」

「麗華さん…」

 父と母が悲痛な表情をしている。そのドラゴンの恐ろしさを身を以て知っているからだ。

「勝算はあるのか?」

 俺も麗華に問う。

「そ…それは…」

 麗華が口籠る。

「あの時と比べたら、多少レベルは上がりましたけど…勝算と言えるほどの根拠はありません…わ」

 麗華は目を逸らしながら、そんなことを言った。

「じゃあ、なんで…?」

「あの…その…」

 なんだか煮えきらない態度だな…

「真央さんに協力を願えないかと思いまして…」

 そういうことか。

「どう思う?父さん」

「真央のしたいようにすればいいよ」

 なら、やるか。元々そいつはぶちのめすつもりでいたしな…

「わかった。国からの依頼だとか言ってたが、俺が加わることは問題ないのか?」

「依頼主に確認してみますわ!」

 パァっと明るい笑顔で答える麗華。

「一つだけ忠告しておく。もし、万が一の場合に蘇生があるなんて考えているんだったらやめておけ」

「それは何故ですの?」

「蘇生は何度も可能なスキルじゃないってことだ。2度目はないと考えていい」

 これは、異世界で検証したのだが、蘇生は回数を重ねる毎に成功率が下がる。2度目の成功率は実質50%くらいだ。そして、失敗した場合は、魂が消失ロストする。

 もっとも、俺はあっちじゃ死んでも生き返るとかいう訳のわからないスキルで死ねなかったし、仲間の不死者アンデッドは蘇生スキルなんてなくても蘇るし、他の魔物に関しても、ほぼ死なないレベルで鍛え上げたから、検証と言っても、完全に把握したわけじゃないけどな…


「わかりましたわ。隆さんと真由子さんの身の安全に関しては、細心の注意を払うよう心掛けますわ」

「おい!その考えが、そもそも自分なら一度くらい…って思ってるってことじゃないのか?」

「そ…それは…」

「約束しろ。俺が無理だと判断したら撤退だ。それができないなら最初から別行動だな」

「うう…わかりましたわ!確かに真央さんなら、あの竜も簡単に屠ってしまうんでしょうけど、あれはわたくしが乗り越えなければならない壁なんですの!」

 麗華の決意は固い。


「出発は?」

「今すぐに…と言いたいところですけど、メンバーの追加を依頼主に確認するのと、あの町の引き継ぎもありますから…一週間後にお迎えにあがりますわ」

「一週間後だな。こっちとしてもやるべきことがあるから、丁度いい」

「やるべきこと…ですか?」

「ああ。ダンジョンを完全に消滅させる方法がわかったからな。試してみる」

「!!ダンジョンの完全消滅!?」

「まだ、できるかどうかはわからないって段階だけどな。これから、会長に話をしてこようと思ってたところなんだ」

「わかりましたわ。後ほど詳細を教えてくださいましね」

「わかったよ」

「では、わたくしは行きますわね。零士」

「かしかまりました。お嬢様」

「隆さん、真由子さん、ごきげんよう」

 こうして、麗華達は帰っていった。


「さて、俺も行くとするか」

「神崎会長によろしく伝えてくれ」

「わかったよ。父さん」

 …

 俺はドルフの影渡りで会長宅に転移した。

「おはようございます」

「真央くんか。こんな朝早くにどうしたんじゃ?」

「実は会長に相談がありまして」

「相談?」

「父さんと、母さんの蘇生は無事成功しました」

「それは、良かった」

「それで、父さん達は死後、神様にお会いしたらしく…」

「神様…じゃと?」

「はい。俺も一度会ったことはあるんですが…」

 掻い摘んで説明する。会長は審眼があるから、どんな荒唐無稽な話でも、信じてくれるのでありがたい。

「ダンジョンの完全消滅…」

「はい。今からでも、試してみようと思っているんですが…」

 今俺が持っている迷宮核は5つ。

 スライム道場のFランクダンジョン、荒野のCランクダンジョン、冒険者学校の演習ダンジョン、そして先日の吸血姫ダンジョン…Aランクダンジョンのは会長に預けてあったはずだ。

「会長、Aランクダンジョンの迷宮核はどこにありますか?」

「すまんな、まだ返却されておらんのじゃ。政府によって、厳重に保管せれておるはずじゃが…」

「そうですか…実はその件に関しても重要な懸念があるんです」

「それは何じゃね?」

「はい。迷宮核には女神の力が込められているようでして…魔力を抽出して利用したりするのだけは絶対にやめてください」

「それは、真央くんから迷宮核を預かるときにも言われておったからな、必ず守ってくれと申し送ってあるはずじゃが…」

「そうですか…でも、できれば早めの返還をお願いします」

「わかった。先方に伝えておこう」

「それで、ダンジョンの完全消滅の件ですが…」

「うむ」

「今から試してみるということでいいでしょうか?」

「いや、少し待ってくれ」

「何か問題でも?」

「ダンジョンの消滅は儂らの悲願じゃ。なら、そのような世紀の瞬間なので、どうせなら、カメラを入れて大々的にやってみてはどうかの?」

「それは、マスコミを呼んで、その瞬間をメディアに流すということですか?」

「どうじゃろうか?」

「俺は別に構いませんけど…危険はないですかね?ダンジョンの崩壊がどんな風になるか、全く予想がつかないんですが…」

「それもそうじゃの…なら、今から儂も同行しよう」

「え?会長が?」

「なんじゃ?儂がいたらまずいのか?」

「いえ…そういうわけじゃないんですけど、お忙しいのでは?」

「なぁに…儂がフラッとダンジョンに潜るなんてのはいつものことじゃから、問題あるまい」

 それは…秘書さんとかが困るやつじゃなかろうか…?

「では、今日は荒野のCランクダンジョンへ行きます」

「了解じゃ」

 冒険者学校の演習ダンジョンや、ギルドに近いFランクダンジョン、復興中の吸血姫ダンジョンだと、問題が起きた場合に大騒ぎになりそうだからな…

「では、一旦、家に帰ります」

「儂も行こう」

「ドルフ、頼んだ」

「御意。影渡り」

 ―――――――――――――――――――――


 その頃、とある場所で…

「では、これで…」

「うむ。確かに受け取った」

「頼みますよ。あちらさんからは厳重に保管しろなんて言われてるんですから…」

「よいよい。これは政府からの正式な依頼じゃ。これだけの代物を利用しないなどありえんじゃろ」

「ならいいんですけどね」

「これで世界中のエネルギー問題が解決するとなれば、あちらさんも文句は言えまいよ」

「期待してますよ。博士」


 欲深い一部の人間によって、真央の懸念は現実のものとなる日が近い…

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