第103話 猶予

「それで、神様からの伝言があるんだ」

「神様からの伝言?」

「今、この世界が異世界の女神によって侵攻を受けているって話は知ってるだろ?」

「うん。そのために、今はダンジョンの迷宮主を倒すことを目標にして活動してるんだ」

「そうか。異世界からの侵攻にはダンジョンが関係してる。だから、迷宮主を倒すってのは間違ってないんだ。でもね…」

「でも…?」

「本当に重要なのは、各ダンジョンに一つだけある、女神の力の込められた魔石なんだ」

「それって…迷宮核のこと?」

「そう。それを破壊すれば、迷宮は崩壊し、完全に消滅する」

「そうなのか…女神の力を感じたから、無闇に壊すのもまずいと思って回収だけはしてたけど…」

「まぁ、壊すと言っても、至難の業なんだけどね。神剣じゃないと破壊はできないって代物だ」

「神剣…」

神の鋼オリハルコンでできた剣のことだよ…だが、地球には神の鋼オリハルコンは存在しないからね。今、鍛冶神様達が一振りの刀を打ってくれているはずだ」

「オリハルコンの剣…レオンの輝煌剣なら、もしかして…」

「そうか!真央の仲間にはオリハルコンのゴーレムがいるんだったね…なら、破壊は可能か」

「早速、明日にでも試してみるよ」

「女神の力を宿した魔石…迷宮核を壊すことで、ダンジョンの消滅もできるんだけど、もう1つ大事なことがあってね。それは女神の力のかけらなんだ。だから、破壊すれば女神の力そのものを減少させることに繋がるんだよ」

「女神の力の弱体化…」

「世界に穴を開けるために、女神は自分の力のかけらを送り込んだんだ。そして、それが順調に成長…魔力を溜め込めば、世界間を繋ぐための穴が空いてしまう。今、神界では神様達が、女神の侵攻を食い止めてくれているんだよ」

 そういえば、神様は神界でできることをすると言っていたな…

「こっちの世界で魔物が肉体を持てないのは神様達が頑張ってくれているおかげなんだ」

「そうだったんだ…」

「それでも、限界があってね、こちらのダンジョンが成長すれば、神様達でも食い止められなくなるって話だ」

「なら、早いとこダンジョンを減らさないと!」

「神様達の計算だと、もって、あと一年だそうだよ」

「一年…」

「そう。一年後には異世界の軍勢がこっちの世界へ攻め込んでくると思っていた方がいい」

「わかった。ならその一年の間にできることをしないとね」

「そうだな。これからは父さん達も力になるから、一緒に頑張ろうな」

「うん」


「そうだ!迷宮核については2つだけ注意事項があるんだった」

「注意事項?」

「破壊は難しいけど、魔力を抽出することはできてしまうみたいなんだ」

「それは…マズイの?」

「含まれているのが女神の力だからね…」

「なるほど…」

「魔石の魔力をエネルギーとして利用したり、ポーションとして調合したりするのはやめておいた方がいい」

「そんなこと、しないよ」

「まぁ、今の地球人のレベルでは迷宮主を倒すのもなかなか難しいから、その辺の心配はいらないか…」

「そういえば、1つだけ会長に預けてあるんだった…」

「それは…」

「うん。明日にでも確認してくるよ」

「そうだね。それがいい」

 明日、会長宅に行くことが決まった。ついでに迷宮の完全消滅の件も相談してみようと思う。

「さぁ、今日はもう遅いからね、動き出すのは明日からにしよう」

「わかった。それじゃ、父さん、母さん、おやすみ」

「ああ。おやすみ」

 こうして、父と母は無事復活し、俺達は新たな決意を胸にして夜は更けていった。

 …

 次の日の朝。

 ピンポーン♪

「ごめんくださいまし」

「はぁ〜い」

 ガチャ

 扉を開けて出てきた女性に麗華が驚く。

「真由子さん?それにしては少し若いような…?」

「うふふ。そうなの。ミラちゃんにお願いしたのよ〜」

「本当に真由子なんですのね?よくご無事で…」

 目の前にいる人物が真由子であると確信し、感極まって抱きついた。

 そんな二人の様子を見ながら、零士は口を真一文字に結んで、何も言わず頭を下げている。

「麗華ちゃん…まーくんから聞いてるわ。私達を連れ帰ってくれたんでしょ?ありがとうね」

「いえ…わたくし達が力不足だったせいで…」

「もう!そんな思い詰めた顔しないの!折角の綺麗な顔が台無しよ?さ、ここじゃなんだから、上がって」

「いえ、そんな…お構いなく…」

「そんな、遠慮しないでいいのよ」

「で、では…おじゃましますね」

「零士くんも、いつまでもそんなところに居ないで、中に入りなさいな」

「いえ…自分はここで…」

「隆さんもお礼を言いたいと思うわ。だから、上がって頂戴」

「…わかりました…失礼します」

 麗華と零士が、家を訪ねてきたようだ。

 …

「ふわぁ〜ぁ、おはよ、父さん」

「ああ、おはよう真央」

「ん?誰か来てるの?」

「麗華さんと零士くんだよ」

「そういや、後で顔出すって言ってたな…」

「父さんも彼らに話しがあるからね。真央も来るかい?」

「ん。そうだね。俺も聞いておきたいこともあるし…」

 …

「あ、隆さん、真央さんも。お邪魔してますわ」

「ははっ。そんなにかしこまらないでくれ。お礼を言いたいのはこっちなんだ。麗華さん。僕らを連れて帰ってくれてありがとう。こうして無事…とは言い難いけど、また動けるようにはなったよ」

「いえ…そんな…わたくしこそ、隆さんが守ってくださらなければ、今頃は…」

「よそう。お互い様ってことでね」

「それは…いえ。わかりましたわ」

「おはよう、麗華。あっちはもういいのか?」

「おはようございますわ。真央さん。建物の被害は軽微ですので、あとは人材の派遣でどうにか落ち着きそうですわ」

「そうか。すまないな。助かるよ」

「いえ…真央さんも、その…お二人のこと…ありがとうございました」

「礼を言われることじゃない。俺は俺のためにしただけだからな」

「それでもお礼を言わせてくださいな」

「まったく…律儀なやつだな」

 麗華の強情さに、少々呆れながら、お互いに笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る