第100話 帰宅

 寝ている貴志の側に、小夜が寄り添っているので、俺達は、病室を後にし、町の住民達の覚醒を促すことにした。

 このままじゃ町の機能が麻痺したままだしな…

「アルス、霊薬エリクサーで覚醒することがわかったからな、手分けして住民全員を目覚めさせたい」

「わかったよ〜」

「みんなも手伝ってくれ」

「「了解!」」

 アルスが本来の姿に戻り、分裂を開始する。無限に分裂を繰り返すアルスの身体は超霊薬状態なので、住民にそっと触れるだけで、町の住民達は徐々に目を覚ましていった。


 目につく人に、霊薬を振る舞いながら、俺達は里奈達家族がいる場所へと戻ってきた。

 麗華と零士も帰ってきているようだ。

「真央さんから預からせて貰ったで町の住民を目覚めさせることができましたわ」

 賢者の秘薬エリキシルとは言わないところが麗華なりに気を使っているのだろう。

「今、アルスに手分けしてもらって町の住民の覚醒をしているところだ」

 と、みんなに今の状況を説明する。

「さすがに町の住民全員となると、時間がかかりそうですわね」

「そうだな…なので、とりあえず、ここはアルスに任せて、一度、会長に報告に行こうと思うんだ」

「神崎会長ですか?」

「ああ。復活したご家族のこともあるしな」

「では、わたくしはこの町でできることを致しますわ。竜咲グループの人員を動員すれば、この町の混乱も早期に回復できるでしょうし」

 そういや、麗華はものすごい大財閥のお嬢様たったな…

「悪いな。俺にはそういうのはできないから、麗華に任せるよ」

「ふふっ。真央さんに頼りにされるのは嬉しいですわね。お任せくださいな」

「アルス、町のみんなのこと頼んだぞ。影狼を付けておくから、終わったら戻ってきてくれ」

「うん、わかった〜。任せてよ!」

 …

「じゃあ、里奈、雄介さんと十和子さんも、会長宅へ移動します」

「わかりました!」

「すまないね。よろしく頼むよ」

「ご迷惑をおかけしますね。ありがとうございます」

「ドルフ」

「はっ!影渡り」

 ドルフの影が俺達を包み、周囲の光景が変化した。

 …

「会長」

「のわぁ!…なんじゃ真央くんか…いつもいきなりじゃのう」

「少しご相談がありまして…」

「何じゃ?藪から棒に?実は、儂の方でも君に頼みがあってな…何でも、町が突然廃墟になり、住民が魔物になってしまったという報告を受けておるのじゃ。それの調査、できれば解決を頼みたいんじゃが…」

 会長からの打診に驚いたが、その件は多分もう解決している。

「ああ、それでしたら、もう解決しました。今は住民たちの回復と、町の復興に竜咲グループが手を貸してくれることになってます」

「何じゃと?そうか…麗華くんも一緒じゃったか。わかった。詳しい話はまた後で聞くとしよう。で、真央くんの相談とは何じゃな?」

「はい、実は…」

「お父さん…ただいま」

「お義父さん、遅くなりましたが帰りました」

 亡くなったはずの二人が帰宅の挨拶をする。

「な…貴様っ!また雄介の顔をした魔物かっ!今度は十和子まで!許さんっ!」

 机の下から竜牙刀を取り出した。

「ま、待ってください!」

「えぇ〜い!止めるな、真央くんよ!こやつらは絶対に生かしては帰さん!!」

「おじいちゃん!止めてっ!」

「里奈…お前まで…どうして…?」

「少し落ち着いてください!」

 政繁を羽交い締めにして、行動を無理矢理にでも止める。

「この二人は本物です!生き返ったんですよ!!」

 それは、あまりにも荒唐無稽で唐突な話だった。

「生き返った…?」

 真央から伝えられた事だが、にわかには信じがたく…だが、里奈も頷いている。それに、何より、以前見た雄介の魔物と違い、確かに二人は暴れるでもなく、政繁を懐かしい人を見るような目で見つめているのだ。

「まさか…本当に…?」

 少しずつ、気持ちの整理をする。

 これは夢か?夢なら覚めないで欲しいが…いや…まさか…そんな…しかし真央くんなら、もしかしたら…

「お父さん!」

「お義父さん!!」

 思考の海に耽っていたところを二人の呼び声で現実に引き戻された。

 そして、政繁の目に嘘偽りのない二人の言葉が写り込み、それがまさしく本物であると理解する。

「ううっ…まさか…まさか、こんな嬉しい日が来ようとは…うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 当主の叫ぶような泣き声を聞きつけた家政婦メイドが駆けつけてくる。

「旦那様っ!どうなさいましたかっ!?」

 そして、号泣する政繁と、抱きしめられている二人の姿を見て唖然とする。

「そ…そんな…奥様?…若旦那様…?」

 十和子が入ってきたメイドに気づく。

君恵きみえさん…」

 名前を呼ばれたメイドの目にも涙が浮かぶ。

「奥様!!ううっ…本当に奥様なのですね…」

「ええ。心配をかけましたね…ごめんなさい…」

「いえ、いえ、そんな…よくご無事で…おかえりなさいませ」

「ふふっ、だだいま帰りました」

「ううぅぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 君恵と呼ばれたメイドも大号泣である。

 …

 皆が落ち着くまで、しばしの時を必要としたので、待つことにした。

「すまんな…取り乱したようじゃ」

「いえ、仕方ないことだと思います」

「そう言ってもらえると助かるの。ところで、聞きそびれたが、相談とは何じゃったかの?」

「実は…先程の話にも関係があるのですが…」

 吸血姫ダンジョンで起きたことを政繁に説明した。

「そうか…それで雄介くんが…」

「はい。それで、他の隊員の方達の遺体を遺族の元へ返してあげたいと思っているのですが…」

「それは儂の方で手配はできると思うが…」

「はい…蘇生についてですよね…」

「うむ…雄介くんだけが生き返ったとなると、他の遺族の方は納得せんじゃろう」

「お義父さん…死者蘇生というのは人類に与える影響が大きすぎます。対外的に、私は死んだままにしておいてください」

「雄介くん…それでよいのか?」

「はい。皆の仇を討つのが私が今生きている目的ですから。真央くんの元で鍛え直し、ダンジョンを作り出した何者かに復讐すること以外はどうでもいいんです」

「わかった。なら、蘇生のことは伏せ、君のことも公表はしない」

「はい。隊員たちのことはよろしくお願いします」

「では、こちらを渡しておきます」

 俺が収納から取り出したのは、目元だけを隠した仮面で、偽装隠蔽の効果がある。

「これは?」

「雄介さんの存在を隠すための仮面ですね。マスコミとかにバレると面倒ですから」 

「気を使ってもらってすまないね」

「いえ、それともう一つ…」

「何じゃ?真央くん」

「蘇生のことは伏せるという話なんですが、俺の両親は蘇生させたいと考えています。そのために今まで頑張ってきましたから」

「隆くんと、真由子さんか…なるほどのぅ…わかった。二人のことはこちらで情報を操作する。思う通りにすればいい」

「ありがとうございます!」


 まぁ、丸投げに近い形になるが、これで心置きなく両親を復活させることができるな。

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