第99話 新たな絆
「本当に、死者の蘇生が…」
「今でも信じられません…」
麗華と零士は眼の前で起きたことがまだ信じられないようだ。
「これなら、隆さんと真由子さんも…」
麗華が隆と真由子の復活に期待を寄せるが、状況が状況だけに、今すぐこの場でとはいかず、時と場所を改めることになった。
父さんと母さんなら許してくれるだろうと真央は思っている。
「魔王様。残った方々へ鎮魂の祈りを捧げます」
「ああ。頼む」
ミラが今も床に並べられたままの遺体へ向かって、手を組み、祈り、歌を歌う。
すでに肉体には魂は残ってないけれど、せめて迷わぬように輪廻の輪に還れるようにとの願いを込められた歌声が死者の肉体を包み込んだ。
蘇った里奈の父親が、まだ自由に動かぬ身体をひきずって、並べられた遺体の前で謝罪する。
「みんな…すまない…私だけ、こうして、生き返ってしまった…」
生き返れたことに後悔はないが、罪悪感のようなものがあるのだろう。
「見ていてくれ、せっかく生き返ったこの命、みんなの仇を討つために使わせてもらう!」
里奈に憑いていたことで、真央のことも知っている雄介が、かつての仲間たちに決意を述べた。
そして、真央の方を振り返り、
「真央くん、頼みがある!私を使ってくれ!鍛え直し、ダンジョンを潰すための駒として扱ってくれても構わん!」
人聞きの悪いことを言わないで欲しい…
「私からもお願いします!もう、家で帰りを待つだけの女ではいたくありません」
十和子も戦いの場に身を置く決意をしているようだ。
「あの…真央さん!私からもお願いします!真央さんに甘える形になってしまいますけど…もう私達家族はあなたから受けた恩に報いるために、あなたの駒として使い捨てられる覚悟で頑張りますから!」
だから…里奈も、人聞きの悪いことを言わないで欲しい…何だ?使い捨ての駒とは…そんなことするわけないだろう。
里奈達家族のちょっと重い覚悟を聞かされて、戸惑う真央だったが、その気持ちも分からないではない為、これからも共に戦う仲間として迎え入れることを承諾した。
“「神崎雄介」「神崎十和子」「神崎里奈」との間に魂の絆を結びました”
おおぅ…そうなるのか…
「真央さん?今のは…」
どうやら里奈にもわかったようだ。
「咲希や明璃と同じように、里奈達も俺のスキルの影響下に入ったみたいだな」
その言葉を聞いた、咲希と明璃が補足で説明をしてくれる。
「お二人のレベルの上がり方が異常だったのは、これだったんですね…」
「何?何の話?」
レベルの上がり方が異常だと言うのが聞こえたのか、小夜が話に入ってきた。
「俺には仲間に影響を及ぼす特殊なスキルがあってな、その恩恵を受けるとレベルが上がりやすくなるんだよ」
「何それ!ずるい!私も!私も!」
「小夜、俺の為に死ねるか?」
「え?何よいきなり?新手のナンパ?咲希が怒るわよ?ってか、普通に無理だし」
「だよな…」
「え?今の質問って何か大事だったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが…正直、俺のスキルの恩恵を受ける条件ってのはわかってなくてな…覚悟とか、気持ちとか、そういうのが関係してるとは思うんだけど…」
「はぁ〜…それであんな質問を…じゃあ、もう一回やり直して!」
「いや…ゲームとかじゃないんだから、選択肢のやり直しで結果変わったりしないからな?」
「ちぇっ…残念」
とかいいつつ、それほど残念そうでもない小夜だった。
鎮魂と浄化の措置を受けた、遺体はアルスの次元収納へと丁重に仕舞われ、会長の判断を仰いでから、遺族の元へ返そうと言う話になった。
「さて、じゃあ、帰るとするか」
「「わかったわ」」
まだ歩けそうにない雄介は俺が背負い、十和子は里奈が背負っている。ドルフの影渡りで地上のダンジョンの門があった場所へと転移した。
「これは…?」
来たときは廃墟だった街並みが、元通りの町へと戻っていた。
「どうして…?」
理由はわからないが、迷宮主を倒し、迷宮の機能が停止したことが関係しているのだろう。
町は元通りになっているが、そこかしこに倒れたままの住人たちの姿が見えるのだ。
「魔物鑑定」
試しにステータスを確認しようとしてみたが、見えなかったので、魔物化も解けているようだ。
町も住人たちも元に戻っているようだと分かった瞬間、小夜が駆け出した。
「貴志っ!」
小夜の向かった先にはこの町の総合病院があるようだ。
「病院か…元々魔物化し始めてた人達は病院に入院してたんだっけ?」
「そうだって聞いてるけど」
「万が一があるといけないから、俺達も行ってみよう」
「うん。わかった」
「あ、あの!私達はここに残ります」
「すみません…まだ身体が自由に動かなくて」
里奈達家族はここに残ると言うので、待っていてもらうことにした。
「では、
「かしこまりました。お嬢様」
麗華と零士はこの町の人達の様子を調べてくれるらしい。
「なら、これを持っていってくれ」
手に負えないようなけが人でもいたら使ってくれと言いながら、数本の
「これは…よろしいんですの?」
「ああ。たくさんあるから構わない」
「これが…たくさん…」
相変わらずの規格外っぷりに驚かされるが、今は町の住民のことが心配なので、ありがたく預かっておくことにする。
麗華と零士は俺達とは反対方向へと歩き出した。
…
病院までやってきた。受付の人たちも看護師さんも、みんなその場で倒れて意識を失っているようだ。
幸いなことに、電気は通っているので、自動ドアもエレベーターも動く。どの病室かわからないが、小夜にはアルスの分体がついているので、その気配を辿ってもらった。
最上階の一番奥の部屋に小夜はいた。ベッドの上には小夜によく似た少年が寝ている。
「貴志…貴志っ!」
そっと揺するが、少年が目を覚ます気配はない。
「そんな…どうして…」
小夜の目に涙が浮かぶ。
ガチャリ。
そんな時に病室のドアが開いた。入ってきたのは真央と咲希、明璃だ。死者の蘇生すらも可能な人物の登場に、小夜が縋り付く。
「真央!貴志が…弟が、目を覚まさないの…お願い!助けて…」
小夜の懇願に真央もベッドの近くまで行き、少年の様子を見る。
「魔物鑑定」
ステータスは見れないので、魔物化は解除されているようだ。
「ミラ、
ミラを呼び、魂の状態を看てもらう。
「魂の変質もしておりませんし、特に異常はありませんわ。おそらく、長期の魔物化の影響から解放されたせいで、覚醒が遅れているのでしょう」
ならばと、
真央が取り出したものが
しばらくすると、
「う…ううん…」
少年の口から、うめき声のような呟きが漏れ、やがて、ゆっくりと目を開けた。
「こ、ここは…俺は一体…」
「貴志っ!」
小夜が目を覚ました弟に抱きつく。
「姉さん?ちょっ…苦しい…苦しいから!」
「あ、ごめんなさい…」
「俺はどうしてたの?姉さんを庇ったことまでは覚えてるんだけど…それからの記憶が曖昧で…」
「貴志は吸血姫の攻撃で魔物化の病に罹ってしまっていたのよ…」
「魔物化…」
魔物化した場合は、討伐対象となり殺されるという
すぐに自分の体を
「大丈夫。あなたの魔物化は治ったのよ」
「治った…そうか…もしかして、姉さんが?」
「ううん…私はほとんど何もできなかったけど、仲間が助けてくれたのよ」
「仲間…もしかして、後ろにいる人達…?」
「ええ。紹介するわ。私の仲間で、真央、咲希、明璃よ。他にも何人かいるけれど、みんなのおかげで、あなただけじゃなく、この町も救われたの」
「そうなの…?あの!ありがとうございました」
貴志が上半身だけ起こして礼を言う。
「こら!まだ無理しちゃダメよ」
「う、うん…ごめん、姉さん」
また、ベッドへ寝かされ、貴志は目を閉じた。
「真央、ありがとうね。この前の質問ね、いいわ。あなたの為に死んであげる」
“「立花小夜」との間に魂の絆を結びました”
それほど弟さんが大事だったってことか…
「これは…」
「まぁ…これからもよろしく頼むよってことだな」
「うんっ!」
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