第98話 死者蘇生
迷宮から解放された、自衛隊員の遺体を床に並べていく。
「真央、この人達をどうするの?」
「うん。この人達は多分、ダンジョンの最初の犠牲者だから…連れて帰ってあげたいんだ」
「そっか…」
「ただ、一つ気になることがあってね…」
「気になること…ですか?」
「この人達の遺体は本当に本物なのか?ってさ。この世界じゃ魔物は肉体を残さず消えるだろ?
「そういうことですのね…」
「だから、専門家を呼んで見てもらうつもりさ」
「専門家…ですか?」
「ああ。ミラ・ルージュ・ベアトリクス召喚」
魔法陣が光り、一人の少女が姿を現した。
「魔王様、お久しぶりでございます。ミラ・ルージュ・ベアトリクス、お呼びにより参上いたしました」
黒と赤を基調としたドレスの裾をつまんで、綺麗なカーテシーで挨拶をする少女に、咲希や明璃が見惚れている。
「綺麗な子…」
「お人形さんみたい…」
「早速だが、ミラ。ここにある遺体を調べてほしいんだ」
「わかりましたわ」
ミラが床に並べられている遺体に手を翳し、その状態を調べている。
「これは…凄いですね…」
「何か異常があったのか?」
「いえ、そうではなくて…ここに並べられている遺体に異常がないから驚いているのです」
「どういうことだ…?」
「魔王様の目を通して、見ておりましたが、ここにある者たちの身体は、無から作り出されておりました。私でも、無から肉体を作り出すのは不可能です。迷宮主というのは凄いのですね」
「
「そうですね。紛れもなく、普通の人間の遺体です」
「そうか…なら、供養して連れ帰りたい。鎮魂を頼めるか?」
「それは構わないのですが…」
ミラが、ちらりと里奈の方を向く。
「あなたはどうなさるおつもりですか?」
ミラの視線は里奈の後ろの何もない空間に向いている。
「ミラ?…まさか…いるのか?」
ミラがコクリと頷く。
「里奈さん…でしたか?あの方を護るように2つの魂が側に寄り添っていますよ」
その台詞に里奈が言葉を失くし、何もないはずの後ろを振り返る。
「可視化できるか?」
ミラに問いかけると、しばらく考えこんで…
「多分、可能かと」
スタスタと里奈の後ろへ歩いていき、両手を差し出す。見えないが、おそらく、その2つの魂とやらがミラの手を握っているのだろう。
ミラの魔力が高まる。
全くの赤の他人と魔力を同調させるなど、なかなかできるものではない。同調されたミラの魔力を受け取った魂が、徐々にその姿を現していく。
「お父さん…お母さん…」
3年ぶりの再会に里奈の涙腺が緩む。
『里奈…苦労をかけてすまないね…』
「お父さん…ううん。私は大丈夫だから…」
『また、あなたとこうして話しができるなんて…夢のようだわ』
「お母さん…話したいことがいっぱいあるのに…あれ?おかしいな…言葉がでてこないよ…」
「そろそろいいかしら?」
感動の親子の再会といった場面であったが、ミラが口を挟んだ。
「あなたたちの魂は現世に留まり続けたおかげで、相当に消耗しているの。このままだと、良くて消滅。悪ければ悪霊へと変化しかねないわ」
「そんな…」
里奈がショックを受けている。
「今なら、私の力で輪廻の輪に還す…分かりやすく言うなら成仏させてあげることもできるけど」
3人共、すぐに答えが出ないようだが…
「それとも、元の体へ戻りたいのかしら?」
思いもよらなかった提案に、頭が真っ白になりかけたが、すぐに聞き返す。
「あ、あの!それはお父さんとお母さんが生き返れるってことですか?」
「魂が無事で、肉体があるなら、蘇生は可能よ。ただ、そこの女の人はこの場に身体がないから、無理でしょうけど。せめて肉体の一部でもいいから残っていれば、まだ可能性はあるかもしれないけどね」
ミラの説明に、父親…雄介が首を振る。
『妻を残して、私だけ生き返るなんて…そんなことできません』
『あなた…いえ!生き返れるのなら、せめてあなただけでも!』
『十和子?何を言うんだ…君を置いて私だけなんて、できるはずもないよ!逝くなら共に逝こう。里奈には頼もしい仲間たちかいるようだから、もう心配はいらないだろう?』
『あなた…』
そんな両親のやりとりを聞きながら、里奈がミラに質問する。
「あ、あの!」
突然声を上げた里奈に、みんなの注目が集まる。
「身体の一部でもあればいいんですよね?」
そう言いながら、身につけていた御守袋を取り出して、その中に入っていたものを見せる。
「それは?」
「お母さんの遺髪です。おじいちゃんが御守りにって持たせてくれてたんです」
それを見ながら、しばらく考え込むミラ。そして、唐突に
「アルス!ちょっとこっちへきてくれるかしら?」
「ミラ姉、呼んだ〜?」
「その髪を超霊薬状態で取り込んでくれる?」
「わかった〜」
アルスの中に里奈の母…十和子の髪が取り込まれ、
「あなたの魂から、生前の姿の情報を引き出して、再構築します。
十和子の霊と手を繋いだまま、ミラがスキルを使うと、アルスの中にあった、十和子の遺髪に魔力が集まり、徐々に人間の肉体へと変化していった。
俺の気のせいだろうか…アルスの中の肉体と目の前にいる十和子の魂の姿に年齢差があるようにみえるのだが…
ザバァ!!
完全に人の姿となった若い十和子の身体が裸のまま、アルスの中から排出された。
「見ちゃいけません!」
咄嗟に、咲希によって俺の視界は塞がれた。
咲希、知ってるか?眼球を指で突くのは目隠しとは言わないんだぞ?
痛みに蹲っていると、
「ああいうのは、みなさん怒らないんですのね…」
「あれは魔王様と咲希様の愛情表現のようなものですから」
「真央さんって…妙な性癖をお持ちなんですのね…」
おいそこ!変な誤解が生まれてるぞ。断固として否定させてもらおう!
俺達がそんなことをしているうちに、雄介と、シーツをかけられた若い十和子の遺体が並べられた。
「十和子?」
雄介も十和子の身体が若返っていることに気づいたようだ。
「うふふ。ミラさんが私の魂からの情報で肉体を作ると言っていたので、ちょ〜っと若い頃をイメージしてみたのよ。上手くいったみたいで良かったわ」
「そ…そんなことが…」
雄介が驚いているが、実は俺も驚いている…そんなことできたのか…
…
ミラが里奈の両親の霊に声をかけるが。
「準備はいい?」
なんの準備が必要なのかは分からないが、覚悟を問うているのだろうと思った両親の霊が頷く。
「
ミラが使ったスキルで二人の魂が肉体へと吸い込まれていった。
「
続けて、蘇生魔法を唱えると
トクン…トクン…トクン…
寝かされていた遺体の顔に生気が戻り、心臓の鼓動が聞こえ始める。
ありえない光景にパーティメンバー全員が目を見張る中、雄介と十和子の目がうっすらと開いた。
「ここは…私は一体…」
記憶に混乱があるようだが、隣に寝ている、最愛の妻の姿を見て、自身に起きたことを思い出した。
「うっ!」
起き上がろうとするが、思うように身体が動かない…
「魂が肉体に馴染むまで、もう少し時間がかかるわ」
ミラが動けないことの説明をする。
やがて、十和子も目を覚まし、同じように起き上がろうとしても起きれないので、雄介と同じように、説明をした。
「お父さん!お母さん!ううっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんん!!!!」
里奈が目を覚ました両親へ抱きつき、人目も憚らずに思いっきり泣いた。
「良かったね…里奈」
その光景を見ていた仲間たちの目にも涙が浮かんでいる。
この世界にダンジョンができ、スキルや魔法が使えるようになって、おそらく世界で初めての死者の蘇生はこうして成功したのだった。
【名前】ミラ・ルージュ・ベアトリクス
【種族】
【LV】999
【HP】28000/28000
【SP】99999/99999
【力】3100
【知恵】9999
【体力】2800
【精神】9999
【速さ】3500
【運】99
【スキル】
血の盟約、霧化、蝙蝠分身、
超再生、HP自動回復、HP回復量増加、SP自動回復、SP回復量増加
念話、言語理解、気配察知、魔力感知、並列思考、高速思考、無詠唱、紅眼、空間収納、
物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます