第93話 side真央チーム

「よし、なら俺達は左の通路へ進むぞ」

「ええ。わかりましたわ」

「なら、私が先行しよう。貴様の仲間には劣るかもしれんが、今の私にはそのくらいしか役に立てることがない」

 まぁ、やる気を削ぐのもどうかと思うからな…

「わかった。斥候は任せる」

 影狼達もいるから、万が一ってこともないだろう。

「あの…私は…」

「小夜、酷なことを言うが、今の君では足手まといになる。だから、俺が守るから、付いてきてくれ。その間にできるだけの鍛錬法を教えておく」

「わかった。私は何をすればいいの?」

「里奈達にも教えたことだが、魔力の属性変化についてだ」

「属性変化?」

「小夜は風魔法が使えるだろ?それ、どうやって発動してるか考えたことあるか?」

「どうやって…?考えたことないわね」

「魔法ってのは発動するのにプロセスがあるんだ。魔法理論とも言うんだけど…」

「そうなの?いつもは呪文を唱えると、身体の中から魔力が集まってきて、呪文名を発声することで魔法が発動してるのよ」

「なるほどね。魔法の構築はスキルがやってくれてるってわけだな」

「そうか、誰でも魔法は使えるっていうのはそういうことなのね…」

「そういうこと。魔法の構築をすべて自力で行えば、誰でも魔法は使える」

「でも、そんなの無理よ!スキルが構築してくれてる魔法を自分で組み立てるなんて…」

「まぁ、普通はそうだな。自分の使える魔法をじっくり解析でもしないと、魔法の構築はできない。そして、自分の使えない属性の魔法の構築を知ることはほぼ不可能だな」

「ならどうやって…?あ!そうか…異世界で…」

「そういうこと。俺は異世界で全ての魔法を解析した」

「はぁ〜…そういうことね…じゃあ私には無理じゃない…」

「そうでもない。元々、教えるつもりだったのは魔力の属性変化についてだからな」

「そう、それは何なの?聞いたことないんだけど…」

「魔法が発動するとき、身体中から魔力が集められて、発声をキーとするって言ってただろ?」

「うん」

「普通は、発動したときに、初めて魔力に属性が付くんだけど、身体中から集められているときに、意識して魔力の属性を変化させるんだよ」

「そんなことできるの?」

「ああ、できる」

「で、それをするとしないとでは何が違うのかしら?」

「魔法が発動する瞬間に属性が変化すると、ロスが出るんだよ。変化しきれなかった魔力が、霧散しちゃうんだ」

「なら、自力で属性を変化させた魔力で魔法が発動すると、威力が上がるってこと?」

「そういうことだな。それともう一つ利点があって、さっき咲希達もやってたけど、纏う魔力に属性をつけることで有利に戦える場面もあるってことだな。光属性を纏えば不死者アンデッドとの戦いが有利になるみたいにな」

「なるほど」

「魔力の属性変化に大事なのはイメージ力だから、特別に何かが必要ってわけじゃないし、すぐに身につくほど簡単じゃないけど、確実にレベルアップする技術だよ」

「わかったわ。教えてくれてありがと」

 俺が小夜にレクチャーしていると、その話を麗華も聞いていたようで、

「真央さん、あの…今のはわたくし達にも教えてもらえますか?」

「別に隠すほどの技術じゃないからな、やってみるといい」

「ありがとうございますわ」


「そうだ、麗華と零士」

「なんですの?」

「何だ?」

「これを身に着けていてくれ」

 俺はアルスの分体を二人に渡す。

「これは?」

「アルスの分体だ。咄嗟の場合に自動的にガードしてくれる」

「なるほど…」

「なんで私がこんなものを…」

「嫌なら別に無理にとは言わない。それで死んでも自業自得だからな」

「ぐっ…」

「中ボスであのレベルの敵が出てくるダンジョンだからな…ここの迷宮主は魔物の存在進化を促して、強化している可能性が高い」

「わかった…驕って命を落としては元も子もない。ありがたく預からせてもらう」

「そうしてくれ」

 眼の前で死なれるのは、あまり見たい光景じゃないからな…

 …

 それからは、みんなが属性変化に気を取られ過ぎで、少し動きが鈍ってしまっていたが…出てくる敵が然程脅威ではなかったため、特に問題もなく、通路の端まで辿り着くことができた。

 円筒形の塔の壁際に螺旋階段が上まで続いている。

「塔か…結構高そうだな…」

「この上に扉を開く仕掛けがあるのかしら?」

「他の部屋には、何もなかったからな。おそらくそうだろう」

「吹き抜けの螺旋階段か…」

「魔物に襲われれば逃げ場がありませんわね…」

「なら、今までみたいなのは勘弁してくれ」

 これまでの道中のことを指摘する。

「そ、それは申し訳ありませんわ…」

「わ、わかってはいるんだけど…つい…ね」

「ふん…貴様なら何も問題ないのではないか?不甲斐ないが、私達の力はお前やお前の魔物達の足元にも及ばない…悔しいが、事実だから、それは認めるしかない」

 その言い方はないだろ…

 力だけを求めるなら、俺の仲間の魔物たちがいればいいのかもしれない。だけど、それだけじゃダメなんだと思う。それは心を失くした戦闘機械の考え方だ。

 そんな甘い考えじゃ女神に刃は届かないのかもしれない…でも、人間として再びやり直すチャンスを貰ったからには、人との絆を大切にしていきたいんだけどな…

 咲希達なら…たとえ劣っていても、一緒に隣を歩いていきたいって言ってくれるだろう…でも、こいつらは違うのかな…?


 思案に耽ってしまった俺を見て、零士が再び口を開く。

「す、すまない!気を悪くさせてしまったなら謝る!こういうのは慣れてなくてな…私達は弱い。だから鍛錬に時間を割いている間は、真央、君がお嬢様を守ってもらえないだろうか?」

 零士の慌てた変わり様に呆気にとられ…

「ぷっ…くくく…あはははは」

 そういや、こいつ…ツンデレ属性持ちだったっけ…

「な、何がおかしい!人に物を頼むのは…その…苦手なんだ…」

 最後が聞き取れないくらい小声だったけど、零士が照れながら顔を背けている。

「わかったよ。みんなのことは俺達が守るから、思う存分訓練しててくれ」

「宜しいんですの!?」

「いいの?」

「すまない!恩に着る」


 恐らくこの地形で出てくるのは壁をすり抜けてくる霊体系魔物だろう…属性変化の訓練にはちょうどいい。

「なら、先頭はアルスで、零士、麗華、小夜、で殿は俺って隊列で進むか」

「「わかった」」


 そして、偶に落ちそうになるメンバーを影狼達でフォローしながら、俺達は螺旋階段を登りきった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る