第91話 side咲希チーム

「なら、私達は右側の通路だね」

「奥方様!先行偵察は私にお任せください」

 忍者装束の人狼が、私に真央と同じくらいの敬意を払ってくれているのがわかる。正直、慣れないんだよね…

「サキ姉、もう諦めたほうがいいと思うな」

「明璃まで、そんなこと…」

「おにぃの仲間の魔物達だもん。おにぃがサキ姉を大切な人だって公言してるからね〜」

「その通りです。魔王様の大切な伴侶となるお方ですもの。我ら一同、髪の毛ほどの傷すら負わせない覚悟で護衛いたします」

「ほらね」

「もちろん、明璃様も我々の護衛対象ですよ」

「あ、あれ?私は…?」

 里奈が不安そうな顔をする。

「ウフフ。心配しなくても里奈様、魔王様の庇護下にある貴女も当然お護りいたしますよ」

「あ、ありがとうございます?」

 …

「敵、出ませんね?」

「う、うん…そうね」

「あら?さっきからチョロチョロとうっとおしいのは、こちらで処理してますけど…まずかったでしょうか?」

「え!?そうなの?」

「はい。咲希様達の手を煩わせるまでもないかと思っていたのですが…」

「そ、そうなんだ…あはは」

 …

「見て!階段よ」

 通路の先に進むと、螺旋階段のある部屋へと辿り着いた。

「作りからして、塔かな?」

 上を見上げると、吹き抜けの円筒形の建物の壁際をぐるりと螺旋階段が上へと続いているのがわかる。

「他の部屋には怪しい場所はなかったし、この上に何かがあるのかも…」

「登りましょう」

 通路の途中にある部屋には何もなかった。そこにいたはずの魔物もドルフさんとリーナさんが倒してくれている。大扉を開ける仕掛けがあるとするなら、もうこの塔の上くらいしかないのだ。

「咲希様、霊体系の魔物が壁を抜けて攻撃してくることがありますので、ご注意ください」

「わかったわ」

 …

 注意しろと前もって言われてたにもかかわらず、狭い階段の上で襲いかかってくる魔物は予想以上に厄介だった。

「咲希さん!後ろ!」

 里奈の警告が耳に届いた瞬間に、振り返り、拳を振るう。

 霊体系魔物は魔法か、属性武器。もしくは魔力を纏った状態での攻撃以外ではダメージを与えることができない。

 魔力を纏った拳が空を切り、霊体系魔物は階段の外、中央の吹き抜け部分へ浮遊して逃げる。

 明璃も突然近くに現れる霊体系魔物への対処に困っているようだ。

 唯一、里奈だけは新たに覚えたスキルでスキル効果が上昇しているようで、退魔の祈りで霊体系魔物を浄化している。

 霊体系魔物の攻撃で最も気をつけなければいけないのが、生命力吸収攻撃ドレインタッチと言われる接触攻撃で、これを受けるとHPがごそっと減り、とてつもない疲労感に襲われる。足場の悪いこの吹き抜けの階段では、落下の危険も加わるため、絶対に受けてはいけない。

 とはいえ、アルスちゃんの分体が、完全に防いでくれているので、防御の方に集中力を割かなくてもいいので、ありがたくはあるのだが。

 空中へと逃げた霊体系魔物は、明璃が光属性の矢で倒すか、真央の仲間の魔物達が処理してくれている。

 私の持っている遠距離攻撃は遠当てというもの。これは闘気を飛ばして攻撃するのだが、闘気では物理攻撃力は上がるが霊体系魔物へダメージを与えることができない。

(この闘気弾に魔力を練り込めれば…)

 それは、真央から教えてもらった、闘気の先にあるという技術。今の自分にできるとは思えないが、真央の隣を歩き続けるためには、自分も強くならなければならないという気持ちが強い。

(できるできないじゃない…やるんだ!)

 咲希の気配が変わったことをリーナが察する。

(フフフ。向上心があるのはいいことですね。少しばかりお手伝いをしてあげましょうか)

「咲希様、存分にお試しくださいな」

 リーナが自分のやろうとしていることを察してくれたようで

「ありがとう」

 素直に礼を述べた。

 …

 階段を登り終える頃には、襲いかかってくる霊体系魔物への対処も慣れたもので、咲希も実践で魔闘気の訓練を行うには十分な試行を重ねることができた。とはいえ、一度も上手くはいかなかったのだが…

「やっぱり、そう簡単にできる技術じゃない…か」

「そう悲観なされなくてもいいと思いますよ。私の見た限りだと、きっかけさえ掴めれば…といったところまでは来ているようですし」

「ほんと!?」

「ええ。さすがは魔王様が選んだお方ですわ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私はあなた達と比べたら、よちよち歩きの赤ん坊以下だから…」

「そう、自分を卑下なさらないでくださいな。確かに、戦闘面では我々は他者を凌駕しているという自負はありますけれど、魔王の御心に寄り添えるのは、間違いなく咲希様、貴女様方だけなのですから」

「そうかな?…うん…そうだといいな。リーナさん。これからも私達の力になってください」

「もちろんですわ」

 …

 階段を登り終えた先に、一つの扉があった。扉からは独特な強者の雰囲気が漂ってくる。

「もしかして…ここもボス部屋?」

「そのようですね…」

「考えていても仕方ない。行こう!」

 咲希の号令に二人が追従する。

「「はい!」」

 ギィィー…バタン!!

 部屋に入ると、扉が一人でに閉まった。ボス部屋や魔物部屋によくあるギミックだ。

「みんな!気をつけて」


「ケタケタケタケタ…あの御方の仰った通り、鼠がやってきおったか…」

 暗闇の中から浮かび上がったのは、ローブを着た喋る骸骨。その首や指にはごてごてと飾り付けた装飾品が鈍い輝きを放っている。

 その手には魔術媒体となる杖が握られている。

「なに?こいつ…」

「あたし達が来るのが分かってたみたいな口ぶりだけど…」

「あの御方って…誰のことなんでしょうか?」

「ほう…死者の魔導士リッチ程度が随分と偉そうですね」

「ん〜?何じゃ?お主は?我こそは至高の御方より生み出されし死者の魔導士リッチの中の死者の魔導士リッチじゃぞ」

 その言葉にリーナが反応する。

「我らが主を差し置いて、至高とは笑わせてくれる。その思い上がった鼻っ柱、叩き折って差し上げましょう」

「ほう…獣臭い小娘が!言ってくれるではないか。ケタケタケタケタ」

「咲希様、あの骨の相手は譲っていただいもよろしいでしょうか?」

「え?ああ…うん…いいと思うよ」

「ありがとうございます」


 おそらく、この部屋の守護者であろう、死者の魔導士リッチの相手を神狼フェンリルのリーナが担うこととなった。

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